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231 そんなに怖いですか?

2019. 3. 18

ファナは、イドと呼ばれていた司祭を転送した後。テリアと共に貴族の屋敷を出る。


執事には、目を覚ました時にはファナ達のことを忘れているかもしれないから、そのままにしてやってくれと言っておいた。


これで記憶のなくなった男が混乱することはほぼないだろう。


無理に思い出させようとするのは、良くないとも言っておいたのだから。


「……君が魔女だって思い知ったよ」


城に向かって歩きながら、テリアがそうファナへ告げる。


「今更? だってあいつテリアもイラっとしたでしょ?」

「……貴族はあんなものだろう?」

「あ〜、兵隊さんってそういう所って寛容だよね〜」

「褒めてるか?」

「大人だなって思うよ?」

「……」


納得できない顔をされた。


ファナとしては、こういった兵が貴族に対するものは、かなり尊敬できるレベルだと思っている。


諦めが肝心だと言われる問題だろうが、それでもファナは許せるものとそうでないものがあると思うのだ。


何より、偉そうな態度とか鬱陶しい。


「今まで、貴族が接触してきたことはないのか? あれほどのことができるんだ。魔女として求められることもあっただろう?」


こういった話が出来るのは、テリアにも余裕が出来てきたからだ。ずっと行動を共にしていたというのに、ここに来て初めてだというのが妙な気がする。


「そういうの、多分兄さんが全部除けてくれてるんだよね〜」


そうじゃないかなと以前から思っている。あの過保護な兄が、手を回していないはずがない。


「そういえば、お兄さんがいるのか。でも……そのお兄さん、貴族をあしらえるんだ?」

「まあ、腐ってても侯爵だからね。王様も苦手そうだったけど、上手く付き合ってるみたいだし」

「っ、侯爵っ!? ならファナはっ……」


大げさに驚いていた。


「私は別に貴族としての務めとかする気ないって宣言してるし、気にしないでよね。ってか、テリアは庶子だけど王子じゃん?」


それほど驚くことでもないのではないかと思う。『実は王子』というのに比べたら『実際は侯爵令嬢』ということは小さなことだろう。


「いや、俺はたまたま父がそうだったってだけで、普通の人と同じように生きてきたから……」

「それいうなら、私は一度親に捨てられてるんだよ? そんで山奥で六年間魔女修行してたし? 兄さんが泣きついてくるから家に戻っただけだしね」

「か、過酷な人生だな……」

「そう?」


大変ではあったが、別に悪いことではなかった。むしろファナとしては、あのまま侯爵家であの問題たっぷりな両親の元で育っていたらと思う方がぞっとする。


「でも実際、私は魔女だからさ。権力とかお金でなんとかなる存在じゃないんだよね〜。そこは魔女の性っていうの? 自分の心に正直に、欲望のままに世界を滅ぼさない程度なら何やってもいいしって師匠にも言われたから」

「せ、世界を滅ぼさない程度……すごい基準だな……」

「だって、やろうと思えば薬一つで国をいくつか滅ぼすこともできちゃうんだもん。やらないけど」

「……っ……」


テリアの顔がさすがに強張っていた。だがファナは気にしない。


「それに、シルヴァだって本気を出せばすごいことになるよ? それ思ったら大したことないって」

「そ、そうだな……」


実はドランだけでこの世界全てを滅ぼしてしまえるかもしれないというのは言わないでおいた。


魔女でさえも封印するしかなかった異世界の怪物。それが今はファナの言う事を良く聞く子どもにしか見えないのだからきっと驚くだろう。


「さてと、お城行く前にちょっと寄り道して良い?」

「あ、ああ。けど、もう暗くなるぞ?」

「うん。ちょっとだけ。なんかさっきから後付けてくるのが三人ぐらいいるんだよね〜」

「っ!?」


言われてテリアも気付いたらしい。


「多分、教会の人。そんなに強くなさそうだし、警告しとこうと思って」

「…….わかった」


何をするんだとかは聞かない方が良いと思ったらしい。テリアはそのままファナについてくる。


「あっちの辺が良さそうだね」

「ああ……」


ファナは普通にテリアと町を散策しているようにしか見えないだろう。不意に路地に入ったりはしない。相手にバレたのではと思わせない自然な動きだ。


それなりに狭い路地に入る。曲がると同時にファナはテリアの手を掴んだ。


「え?」

「口を閉じて」

「っ」


そのままファナは二階建ての建物の屋上へジャンプした。


「ちょっ!?」

「これくらいはね〜」


長時間飛べはしないが、これくらいの芸当は出来る。そして、追ってきた三人の人物が道に入り、キョロキョロと見回すのを確認する。


「テリアはここに居てね」

「……忘れてくれるなよ?」

「…….うん」


間が空いてしまったのは、確かにこのまま忘れて行きそうだと思ったからだ。


「本当に頼むからな?」

「はいは〜い」


そう返事をして飛び降りる。


「やっほー! 私に何か用?」

「っ、ど、どこから……」

「おいっ」

「っ……」


咄嗟に誤魔化すこともできない程驚いたらしい。


「イドさんなら、ちょっと山へ柴刈りに行ってるよ?」

「「「っ……」」」

「そのまま行方不明になるかもしれないけどね。なんてったって山にはドラゴンさんと白銀の王様と、魔王様もいるみたいだから♪」

「「「……!?」」」


先ほど、イドを転送する時に感じたのだ。ラクトが来ているようなのだ。


ファナがそうしてニヤリと笑ったその顔を見て、三人の内二人は腰を抜かした。


「あらら。大丈夫だよ? 悪いようにはしないから。ちょ〜っと実験に付き合ってくれるだけで許してあ・げ・る♪」

「「ひっ!」」

「……」

「ん?」


一人立ち尽くしていた者は、どうやら立ったまま気絶しているようだった。

読んでくださりありがとうございます◎

次回、1日の予定です。

よろしくお願いします◎

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