227 薬を作るのが本業です
2019. 1. 21
ファナは良い笑顔を浮かべて尋問していた。
「どうしてここへ来たの?」
「っ、んっ、んっ、い、イドに言われて、治療を邪魔するようにと……ぐっ」
「イドって誰?」
「きっ、きっ、教会のっ、し、司祭だっ……ぐむっ」
相手は床に座り込んで目を必死でそらしながら苦しそうに答えている。
「た、助けてくれっ。なんで動かないんだっ!?」
「そういう薬だもん♪」
針金のようにやせ細った男は、脂汗を浮かべながら何とか逃げ出そうと抵抗しているらしい。
しかし、ファナが少し前に飲ませた薬によって、現在彼の腕と足は力が入らない。
何とか腰の辺りの力は入るので体のバランスは取れているが、その場から動くことは叶わなかった。
そして、更に飲まされた薬が、ファナの問いかけに素直に答えるようにしている。
「ここに運ばれたのは王様だって知ってたんだ?」
「しっ、しっ、知っていたっ……っうぅぅっ」
どれだけ答えないようにと意識しても、口からそれが出てきてしまう。
この様子を、テリアが王の着替えを手伝いながらチラリ、チラリと見ている。部屋の入り口でこれ以上誰か来ないようにと警備体制を作っている騎士達も不安そうに見つめていた。
時折彼ら騎士の視線がテリアへ向く。それを受けてテリアがファナへ尋ねた。
「それはただの自白剤なのか?」
「そうっ。これってやっぱりこういう人にしか使えないじゃんっ。中々実験出来なくてさ〜。あ、でも大丈夫だよっ。二時間くらいで効果が切れるし、特に害はないから。そこはちゃんと実験したもんね♪」
「そ、そう……」
生き生きと楽しく話すファナに答えながら、テリアが顔を最低限動かさず騎士達へ目を向ける。
疑問が解けた騎士達は静かに小さく頷いた。人体に害のある薬ではないと聞いて一応は安心ということだ。
今の状況はもう諦めている。
「それで? それが上手く行ったら、報告するよね? 会える? 会えるよね? そのイドさん? どこにいるの?」
「っ、わ、わたしのや、屋敷にっ……グゥっ」
「そっかそっか、じゃぁ行こっか♪」
ノリノリなファナ。そこで男に向かって手を翳し、魔術を発動させる。
「っ、う、動ける……」
唐突に体に力が入るようになったのだ。
「っ!!」
それを知った男は、慌てて立ち上がろうと動く。逃げようとしたのだ。しかし、それを簡単に許すファナではない。
「『止まれ』」
「っ!?」
ツンのめって倒れた。
「……」
見ていたテリアや騎士達が目を瞠る。続いて、まさかという顔でファナを見た。すると、得意げに胸をそらし満足げに笑うファナがいたのだ。
「ふふんっ。さあ〜てとっ、テリアは行く?」
「えっ、あ、そうだな……イシュラ殿がそろそろ戻って来られる……なら」
騎士達へ目を向けると、頷きが返っている。その時、正にイシュラが戻ってきた。
イシュラは、騎士達が入り口に沢山集まっているので、何かあったのではないかと不安げに入ってきた。
「一体なにが……王は……」
「あ、お帰り〜。王さまは大丈夫だよ。ほら、意識もはっきりしてる」
王は、ベッドの上で上体を起こし、ほっと息をついていた。
「っ、ご無事で……」
「イシュラか……手間をかけたようだな……」
「いいえっ、お加減はどうですか」
「まだ少し体に違和感があるが、動けないことはない」
「そうですか……っ」
本当に良かったとベッドのそばまで来て膝をつくイシュラ。その様は、騎士達にとってとても心打たれるものだったらしい。
自身の王がこのような状況になったらと考え、我が事のように王の無事を喜ぶ感動のシーンだ。当のイシュラを含め、多くの者が涙を滲ませている。
しかし、そんな彼にファナは軽く声をかけた。
「ねえ、これから今回のことも知ってそうな関係者に会いに行くんだけど、ここ頼んでいい?」
「え? あ、はい。王はこのままでも?」
もうちょっと落ち着くのを待ったれよという非難じみた視線は全て黙殺するファナだ。
「うん。しっかりと手足の先まで感覚が戻るまで寝ててもらってほしいかな。長くても明日の昼までには戻るから。そうしたら国に戻ろう」
「わかりました」
どのみちあまり動かさない方がいいので、このままここで泊まってもらう。
「イシュラ殿。私は彼女と出てきます」
「そうか……承知した。気をつけろよ」
「はい」
一度王へ目を向けたテリアは、頭を深く下げて貴族の男を伴って部屋を出て行こうとするファナを追った。
その時、王が何かに気付いたように呟く。
「……テリア……?」
しかし、それをテリアが気付くことはなかった。
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