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225 起きてくださ〜い

2018. 12. 24

ファナは細い針に糸を通すように。細いピンセットで棘を抜くように。魔力を繊細に練り上げながら治療を進めていた。


自分の息遣いさえ聞こえない。そんな極限の集中力を保ちながら、二時間という時間が経とうとしている。


どうやって埋め込んだのか。その禍々しい程の力を持つ石は、体中に根を張るようにして浸透していた。


その影響を全て消去していく作業。それが、ようやく終わった。


「はあぁぁぁ……」


ファナは二歩ほど下がると、そのまま床に倒れ込んで大の字になる。治療のためにと通されたこの部屋の床には、分厚い絨毯が敷かれており、寝転がっても柔らかく体を受け止めてくれる。


しばらく天井を見つめて、ピントが合うのを待つ。違う次元のものを見続けていたので、中々現実に焦点が合ってこないのだ。集中し過ぎて呆っとするというのもある。


「……疲れた……」


あまり言いたくない言葉だが、思わず出てしまう。このまま眠れたら幸せだろう。


一度目を閉じ、体の力を抜く。その時、この部屋の外が煩いことに気づく。


『……会わせ……私を誰……っ』

「……めんどくさ……」


かすかに聞こえてきた言葉の断片だけで、だいたいの事情が察せられてしまう。


ファナは大きく息を吐いた後、勢いを付けて起き上がると、最後の仕上げにかかった。


封印してある石を取り出すのだ。


張り巡らされていた力の影響を取り除いたことで、眠っている王の顏や肌の色が赤から一般的なものに戻っていた。


どちらかといえば白いだろうか。無茶な体の動かし方をしたために、弱っているのだ。細かい筋なども切れてしまっていた。顔色が悪いのはもう仕方がない。さっさと終えてしまおうと、ファナは魔力を展開する。


「っ……ぐっ……うぅっ」

「はいはい。がんばれー」


痛いらしい。当然ではある。体の中にあるものを引きづり出そうとしているのだから。


「うぅっ……ぐぅ……っ」

「もうちょっとよー」


聞こえていないかもしれない。だが、ファナは声をかける。聴覚というのは感覚の中で最も優秀な機能だ。意識がなくても聞こえていたりする。


「大丈夫よー」


こんな時、師である魔女の言葉を思い出す。


『危ない時に声をかけろとか、あなたの声なら聞こえますよとか言うんだが、あながち間違ったことではないのさ』


どうせ聞こえないじゃんと他人なら思うかもしれないが、そうでもないのだという。


『人が死ぬ時に最後まで残っているのが聴覚だと言われておる。だからな、死にそうなやつには衝撃的な言葉を送ってやると良いぞ』


冗談か本気かも分からないそんな言葉の後に笑っていた魔女の姿が思い起こされた。


「ほらほらガンバってー。あんたのもう一人の息子も頑張ってんよー」

「っ……うぅっ……っ!?」

「あ、取れた」

「息子……っ……俺の……っ?」

「ん? 起きた?」


ファナが石を取り出すと同時に、王が薄っすらと目を開けた。まだ寝ぼけている状態のようだが、起きたようだ。


先ず天井を見つめ、それからファナの方へと目を向けた。


「お前は……誰だ……」

「薬師だよ。まだ体に力入んないでしょ? 薬処方するからちょい待ってて」

「……薬師……っ」


体を起こそうとしたようだが、起き上がれなかったらしい。なんとか腕を上げて息を大きく吐いた。


「俺は……」


広げようとする手指は震えており、そのままパタリと脱力して呟く。


ファナは石をサイドテーブルに置き、すぐに窓際の小さなテーブルを持ってきてそこに調薬の道具を並べていく。簡易の道具しかないが、なんとかなりそうだ。


手を動かしながら、ファナは王へ説明した。


「変な石を体に埋め込まれて、操られてたんだよ。誰にやられたかは覚えてる?」

「……石……確か……スイルが……」


片腕を頭に持っていき、目元を覆いながら絞り出すように思い出していく。


「それが弟さんの名前?」

「ああ……」

「へぇ……で? あと覚えてることは?」


めんどくさそうに相手をしているように感じるかもしれないが、これでも意味がある。頭を覚醒させるには考えさせるのが一番だ。


「あと……イルサが死んで……スイルが……っ、そうだっ、イルサっ」

「誰?」

「息子だっ」

「それ、いつ頃の話? ってか、もしかして、かなり前から意識なかったんじゃない? 近衛の人に聞いたけど、王子が亡くなったの半年前だって」

「っ……」


薬を完成させて近づくと、王は大きく目を見開き天井の一点を見つめていた。


「そうだ……だからスイルが、イルサを生き返らせるための術を使えるように、魔力を倍増する薬をと……」

「そんな薬あったら苦労しないじゃん。師匠でも作れないよ。というか作らない。一時凌ぎにしかならないし、魔力暴走起こすからダメだって」

「……っ」


石は飲み込んだんだとこれで知ることができた。


「生き返らせるとか、そんなんムリでしょ。どれだけ魔力があってもあり得ないよ。それは世界の理だからね。騙されたんだよ。弟さん、王様操ってノリノリだったよ?」

「そんな……っ」


兄弟仲は悪くなかったのだろうか。王の衝撃の受け具合からそう思った。


そうして、出来上がった薬を差出そうとしたその時、唐突に部屋のドアが乱暴に開けられたのだ。


読んでくださりありがとうございます◎

次回、一度お休みさせていただき

来年7日です。

よろしくお願いします◎

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