223 こっちは任せて
2018. 12. 10
有言実行のファナは、言った通りシルヴァを置き去りにした。
面倒見の良いクリスタならば捕らえている者達から話も聞き出せるだろうと全て任せ、ファナは王を連れてテリアとイシュラをお供にドランに乗り山を一足先に下りることにしたのだ。
上から見ると、騎士達数人が整列して手を振って待っている場所があったため、そこに降り、ドランの背から王を運び出す。
即席で作った担架に乗せているので、二人で十分だ。
「お疲れ様でございます、魔女様!」
「ここ、降りちゃったけど王城じゃない?」
そう、手を振ってココとやられていたので降りたのはいいが、間違いなくここは王城の敷地内。恐らく訓練用の場所だろう。
「はっ! こちらでお部屋をご用意しておりますので!」
「そう? まぁいいや。案内して。さっさと治療を始めないとこの人死んじゃうから」
「っ!? こちらでございます!!」
ファナ達が運んできた者が隣国の王であるということは、騎士達も承知しているらしい。顔色を変えて案内のために背を向けた。
それに付いて行くようテリアとイシュラに指示する。そこでドランを振り返って許可しておいた。
「ドラン。クリスタの所行ってきて良いよ。治療が終わったらシルヴァに一度連絡するって伝えておいて」
《グラゥ♪》
ドランは嬉しそうに鳴くと、すぐに山へと戻って行った。
「ど、どちらへ……」
騎士の一人が心配そうにドランを見送る。ファナの管理下から抜けたように見えて不安なのだろう。
「心配ないよ。山に行っただけだから。あそこには優しいママがいるからね」
「そ、そうですか……」
一応は納得したらしい。
「それより、治療終わるまであまり人を近付けないでね。手元が狂ってあの人殺すわけにいかないから」
「はっ、はい!」
中に埋め込まれてしまった力の元となった石を取り出さなくてはならないのだ。それは体中に根を張っている状態。封印はしているが、これ以上、体に負担をかけないようにするには、慎重な作業が要求される。
「ここの王様に事情説明はした方がいいのかな」
これだけこちらの事情に配慮してもらい、更に王城に部屋を用意してもらったのだ。その必要はあるかもしれないと、いつもは遠慮なしのファナも珍しく確認する。
数年でも一応は国の中枢に携わる兄を見ていたのだ。礼儀もさすがに覚えた。
「できましたらお願いしたいのですが……」
「うん。こっちの騎士に説明させる」
「承知しました」
どのみちテリア達は居ても意味がない。イシュラは近衞騎士の副団長の一人だ。王への説明も問題ないだろう。
用意された部屋のベッドに王を寝かせたイシュラとテリアに、これからの予定を話す。
「テリアは部屋の外で待機してて。騎士の様子を見てると、突撃してくるバカはいないだろうけど、一応警戒はしといてね」
「わかった」
どの国にも、一人や二人は話の通じない者がいるものだ。対策しておくことに越したことはない。
「イシュラはここの王様に挨拶と事情説明。多分王様は話が分かる人だと思う。国の内情も話ちゃいな。政治的なこともあるだろうから、難しいとは思うけど、国のためにも味方につけた方が良い。これでこの国がちょっかいを出すようになるなら協力したげるし」
ファナはやったことの責任は持つつもりだった。
「よ、よろしいのですか?」
「うん。戦争とか言い出したら一発でこの国くらい吹っ飛ばしてあげるから心配しないで」
「りょ、了解しました! 平和的解決を目指します!」
「ん? うん。ガンバ」
気合いが入ったらしい。最終兵器の発動ボタンを押さないためにも、責任重大だ。
「それじゃぁ、終わったら言うから。それまで待ってて。二時間くらいの予定」
「承知しました」
「お願いします」
テリアにとっては父親だ。彼はじっと眠る王を見つめ、口を引きむすんでから部屋を出て行った。
「さてと。大手術だね〜。気合い入れますか」
一人になったファナは、王を前にして言うほど気負った様子を見せずに治療を開始した。
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次回、月曜17日です。
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