221 悪いとは思っていないので
2018. 11. 19
ファナはしきりに首を傾げる。
王弟の後ろにいる魔術師達は、ファナを見て歯の根が合わないほどカタカタと震えているのだだ。怯え過ぎて目を離すのさえ怖いらしい。
「なんかしたっけ?」
特に彼らに見覚えもなく、教会関係者であるのだろうが、教会に手を出した記憶もない。
「う〜ん……怖い顔もしてないつもりだし? 忠告を受けたとかなら兄さんか……師匠?」
「っ、ひっ」
理解した。
「そっか、師匠か。なに? 手出すなとか言われた? 教会が消えたって噂は聞いてないんだけど……あっ、吊るしたってのがあったかも」
「っ!!」
わかりやすい。
「てるてる坊主みたいで可愛くて面白かったって言ってたやつだね。うんうん。白いローブだし? あ、ねぇ、一度フードかぶってみてよっ。そうそう。確かに可愛いかもっ」
震える手でフードをかぶってくれた。
それは魔女の伝説の一つ。敵対した教会の者達を捕らえて、城壁の上からロープで一人ずつ並べて吊るしたのだとか。その時、せめてもの情けだとフードをかぶせてやったらしいのだが、下からは丸見えで意味がなかったと大笑いしていた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。確かにあの師匠の弟子だけど、そういう悪ふざけは得意じゃないんだ〜。それに、直接手を出されない限り反撃しないし?」
笑顔で怖くないよと訴えるも、彼らの目から怯えの色は消えなかった。
仕方なく、ファナは不機嫌顔を隠しもしない王弟へと向き合う。
「あそこで赤鬼さんになってる人の弟さんでいいんだよね? お兄さんを武器にしちゃうとか、結構な鬼畜だね」
「っ、貴様、どこまで知っている……」
王弟はここでようやく警戒心を向けた。
「診てみないとわかんないけど、おかしなもの埋め込まれてるなってくらい? あ、それとお城の人達はみんな無事だよ。王弟さんが全部悪いってのも伝えといた」
「なっ、なんだと!?」
ファナは正直だ。退路はないとはっきりと宣言する。これには王弟も慌てた。完全に動揺している。
「だって、王弟さんが教会の人達に頼んだんでしょ? 王位が欲しくなった? 王子もいなくなったし、継承権は回ってくるよね。けど、あの感じだと王様はまだまだ現役だったから、あなたの方が先に寿命がきたかもね。それで焦っちゃった?」
「っ……」
図星だったのだろう。王弟はファナをキツく睨みつけてきた。
だから、反対にファナはふわりと笑みを浮かべる。とはいえ、口にしたのは彼にしては受け入れがたい現実だ。
「もう無理だね。あなたは叛逆者として認識された。それと……王様は助ける。魔女の弟子をナメちゃダメだよ」
「くっ……」
悔しそうに顔を歪める様を眺め、ファナは彼らに背を向けた。
「後で相手してあげるから、そこで大人しくしててね。バカな真似したらシメるから」
そう忠告しながら、ファナは彼らを囲む土の牢を作り出した。
「なっ、なんだ!?」
「っ……!」
教会の者達にどうにかしろとか王弟が叫んでいるが、あれだけ怯えているのだ。問題はないだろうと、そのままクリスタの方へと足を向けた。
「お待たせ、クリスタ」
《ようやくか……これ以上はこやつの体を壊してしまうわ》
クリスタは気の毒そうに変質してしまった王の相手をしていた。完全に正気ではない様子だったため、最低限の反撃のみで防いでいたのだ。
「拘束するね」
《優しくな》
「難しいかも」
「ぐぐっ、がぁぁぁっ」
擬音ばかり発する王に、ファナの術によって地面から現れた光の鎖が巻きつく。
《これこれ……大丈夫なのか?》
「うん。魔力が異常に増加してるみたいだから、それを吸収してるの。過剰になり過ぎたのを無理やり体が受け入れてるから、変質しちゃたんだと思う。そのまま原因を封じるね」
それは王の体の中。ファナが目を閉じ集中すると、体に鎖が刺さっていく。
「グアぁぁぁっ……!」
刺さっているように見えるだけで、実際は違う。浸透するようにして一点にそれらが絞られる。そして、不意にパリンと弾けた。封印が完了した合図だ。
ふっと王の体から力が抜け、パタリと倒れる所をクリスタの大きな爪が支えた。
《まったく……》
「大丈夫だってば、さすがにこの王様までいなくなるのは困るもん」
《悪びれんのぉ》
非難の目には慣れているファナだった。
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次回、一週空けて月曜3日です。
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