220 ちょっと上から観察中
2018. 11. 12
ドランに乗って山頂まで来ると、そこではクリスタと異様な体をした大男が戦っていた。
「あれが王様? なんか体が赤いけど」
「……そう……です。ですが、あれほど大柄では……」
「赤いのは?」
「いえ、もちろん赤いのもおかしいです……」
実は赤い人なのかとの確認は、すぐにイシュラに否定された。その方が面白いのにという呟きも聞こえたらしく、イシュラとテリアが揃って表情を引きつらせている。
王と共に来たらしい他の四人は巻き込まれないようになのか、離れた所で見物しているようだ。一人が王弟。残り三人が魔術師らしき者達だった。
彼らはお揃いの白っぽいローブを着ており、必死で毒霧から身を守るための結界を張っている。
その辺りは霧がないのになと、気を張っている様子を見て気の毒に思った。
ただ、魔術師らしきと曖昧に思う理由は、ローブの色だ。魔術師が愛用するのは黒。白いのは珍しい。おそらく、教会の関係者だろうと思われた。
「あの神経質そうな黒い服のが王弟さん?」
ファナが指を差すと、イシュラが頷く。白い中の黒は目立つ。
「そうです。でも……神経質そうですか?」
彼らに見つけられないようにと、ドランは現在、かなり高度を取っている。顔を判別するのはかなり難しく、イシュラ達も体格や髪色、動き方からそれと判断しているに過ぎない。
神経質そうな様子など見られただろうかと不思議に思うのも無理はない。だが、ファナも見えているわけではなかった。
「魔力の波動がね〜。何となくだよ? 血液型とか、星座とかと同じで、系統っていうの? こういう波動は神経質な奴が多いなって統計による勝手な見解」
「はぁ……」
血液型とか、星座とか言われてもイシュラ達には理解できなかった。これがここで分かるのは、魔女と生活していたことのあるシルヴァだけだろう。
《うむ。因みにあの王の魔力波動からいくと、結構なお調子者気質だな》
「うんうん。でもカリスマ性あり。なぜか周りを引っ掻き回しながらも先頭に立って引っ張っていくリーダーって感じ。王様としては良いよね。ウチの国の王様とおんなじ」
ファナのいる国の王は、お調子者感が表に出ていないが、たまに無茶振りするところや、あのラクトを手玉に取れるところを見ると間違いないと思える。
「兄さんとは真逆だね」
《兄殿はあれで真面目過ぎるほど真面目だからな》
「細かいとこ気付くよね」
《特に主が絡むとな》
しみじみとそんなことを話している間にも、戦いは続いている。
「そ、その……そろそろ降りてもらえるか?」
テリアとイシュラは、王が心配なのだろう。何度も下を確認している。
「大丈夫だよ。鬱陶しそうだけど、クリスタはちゃんと手加減してくれてるし。ね、ドラン」
《グルっ》
いつかのようにドランがキレて突撃していかないようで何よりだ。
ドランも、王が自分の意思でクリスタに向かっているわけではないのが分かっているのだろう。
しきりに気にしているのは、寧ろ魔術師達の方だ。彼らに手を出すのは時間の問題かなと思っていた時だった。
《グルっ、グゥゥ……グワァっ》
「あっ」
《これ、ドランっ》
三つの頭、ドラ、ラド、ランはそれぞれ炎の玉を口から吐き出し、魔術師達の方へと放った。
「えっ、ちょっ」
「なっ!?」
イシュラは王弟を殺されてはいけないと慌てて下を覗き込み、テリアは呆然とそれを見送った。
着弾すると、毒霧を避けるために彼らが展開していた結界が燃えて消える。
「あ〜あ、気付かれちゃった」
《クフンっ》
ドランは満足気だ。
「とりあえず、あいつら捕まえてくるから、ちょっと待っててね」
「えっ、あっ」
何の躊躇もなくドランの背から飛び降りようとするファナに、テリアは咄嗟に手を伸ばしていた。
《心配するな。我の主がこんなことで怪我をしたりせん》
「……そう……」
そんな言葉を背中で聞きながら、ファナは地上に降り立った。
当然だが、魔術師や王弟はこちらに警戒していた。真っ先に口を開いたのは王弟だった。
「な、何者だ!」
「名乗るほどの者ではない……これ、一回言ってみたかったんだよねっ」
「……」
ちょっとテンションが上がった。
「ふ、ふざけるな。お前は誰だ!」
「彼女の友達だよ。寧ろあんたらが名乗るべきじゃない? 知り合いでもない人が、無断で友達のテリトリーに入って来てるのって不愉快なんだけど」
失礼だよねと王弟の後ろで、ドランが放った炎で地味にダメージを負って膝をつく魔術師達に同意を求めた。
「っ……」
「あれ? 怖がられてる?」
なぜか彼らに酷く怖がられていることに、ファナは首を傾げた。
読んでくださりありがとうございます◎
何が怖いのでしょう?
次回、月曜19日です。
よろしくお願いします◎




