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022 大役でしょうか

2016. 9. 19

これからの事が決まり、山へ帰る事も当分の間は見送るとしたファナ。これで一先ず安心だと、オズライルは後見人として胸を撫で下ろした。


しかしオズライルは、まだ足りないものがあると考えていた。


「良かった、良かった。ねぇ、バルド君。あの子について行ってやってくれる?」


後見人はオズライルだが、世界を回ろうとするファナに、現在ギルドマスターである彼はそばにいてやれない。だが、丁度いい所に保護者役に適任な者がいた。


幸いにも、バルドも同じ考えだったようだ。


「はい。もうそのつもりです……なんだか一人にするのは不安なんで……」


意外とシルヴァがファナよりも冷静にしているのだが、だからといって任せられるものではない。


だいたい、シルヴァは『白銀の王』と呼ばれるほどの魔獣なのだ。いくら長く生きていても、人の世界でのルールなんてものが分かるはずがない。


「うん。頼むね。キサコさんの弟子ってだけでも、結構な危険人物になっちゃう所もあるだろうから」

「……伝説、ありますもんね……」

「ね~、実際にキサコさんなんて、国の名前変えちゃってたり、山を三つほど無くしたり、勝手に開拓したりしてるから」


魔女がこの世界に渡って住まうのは十年。それでも、その最初の二年で語り継がれる伝説をいくつも作った。


見通しが悪いと言って山を消し去り、内乱が多いなら上を全部すげ替えてしまえと、反対勢力をけしかけた事数度。


水がないなら掘り当てればいいだろうと、砂漠地帯で湖をいくつも掘り当てるわ、この辺りに温泉が欲しいと言って温泉街を一つ二つ作らせたりもした。


これはほとんどが良い事の部類に入るが、いくつか恐怖を植え付ける事もしでかしているのだ。


そんな魔女の弟子。


大人しくできるとは思えない。今でも既に『白銀の王』を従え、見た事もないドランという生き物を連れている。問題を起こさないはずがなかった。


「本人、世界を震撼させるとか言ってますしね……」


ファナは、そんな二人の会話など、全く耳に入っていない。キラキラと目を輝かせ、手始めにどの辺りからはじめようかと、先ほどから壁に貼ってある地図の前で、シルヴァと相談をはじめていた。


「気を付けてね。キサコさんは、海の向こうまで行ってたからさ。僕も長く生きてるけど、海の向こうの魔族の大陸なんて、キサコさんに聞くまで、存在すると信じてなかったもの」

「え……それって、本当なんですか……?」


バルドは信じられないといった様子でオズライルを見た。


「大陸の事? 本当みたいだね。キサコさんが持ってたこの世界の地図に、ちゃんとあったよ」

「……なら、魔族も……」

「いるってさ。けど、キサコさんに言わせると、僕らとあまり変わらないみたいだけどね。詳しくは教えてくれなかったから、僕も知らないけど」


どんな姿の者達がいたのかとオズライルは魔女に尋ねたらしい。しかし、返ってきた答えは『説明なんて面倒だ。知りたければ自分の目で見てこい』だった。


「『どうせ、説明したところで、ちゃんと見たものじゃなければ、理解しないだろう』って言われたよ。まぁ、角があるとか、黒い顔だとか言い伝えられてるから、今更、本当はこうでしたって言っても信じる人はいないでしょって事だね」

「はぁ、確かに……」


実感できなければ、それが例え本当だったとしても、認められないだろう。人とはそういう生き物だ。


「見てきてよ」

「……はい?」


突然、オズライルは嬉しそうに提案した。


「いいじゃない。ファナちゃんも行く気

あるみたいだし、君も見てきてよ。そんで、冒険者として友好を取り付けてきてくれたらいい」

「はいっ⁉︎」


いきなり大役を任されそうなバルド。それは、ファナの耳に入っていた。


「魔族と友好……悪くないよね?」

《うむ。魔女殿も確か昔、魔族と呼ばれている者達はこの国の者達よりも付き合い易いと言っていた》

「キサコさんがですかな?」

《そうだ》


魔女がふと呟いた言葉を、シルヴァはよく覚えていた。


オズライルはそれを聞いて、更に興味を持ったようだ。笑みを深くしたオズライルを見て、ファナははっとした。


「そうだっ。思い出した! そうだよっ、師匠が言ってた。一人になって、住む場所に困るようなら、あっちの大陸で住んだ方が楽だぞって」

《我も言われた事があったな。棲み家としては、あちらの方が合うだろうと》

《シャ?》

《うむ。ドランもな》

「なんでだろ。気になる……」


ファナも強い興味を持ったようだ。そこでバルドが思わずといったように呟いた。


「あいつもそんな事言ってたな……」

「バルド、あいつって?」


不可解な事を思い出すように顔を顰め、顎に手をやるバルドの様子に、ファナは身を乗り出す勢いで尋ねる。


「あぁ、あいつだ。ラクトだよ」

「へ?」


そう言って、二人は扉の方へ顔を向ける。そこでようやくある事に気付いた。


「あれ? いない?」

「……本当だ。いない……いつの間に」


扉の外にあったはずのラクトの気配が消えていたのだ。



読んでくださりありがとうございます◎


魔族の大陸……どんな場所なんでしょう。

そして、あの人はどこへ?


では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎


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