218 寝物語にしては物騒です
2018. 10. 29
それは、ファナがこの国へと来る前日の夜のこと。
「……で、なんで兄さんがここにいるの?」
ファナのベッド。大きなキングサイズのベッドである。広いベッドはシルヴァやドランが乗っても問題ないし、有難い。しかし、この大きさにした理由が問題だ。
「一緒に寝るために決まっているだろう。さぁ、隣においで」
「……」
ラクトは既にベッドに潜り込んでおり、仕方なくファナも入る。
特にくっつこうとしなければ、触れ合うこともない広さがあるのだ。眠るのには全く問題がない。
人二人分の間を開けて並んだファナとラクト。シルヴァとドランがその間の足下の方に丸まって眠っている。
「ファナ、教会と……語り部に気をつけなさい」
「……語り部?」
唐突に警告のように口にしたラクトに、ファナは顔だけを向ける。ラクトは、高い天蓋を見つめている。
「ああ……奴らは昔から、何か大きな目的のために動いている。教会の裏で、人心を操り、諍いの種を蒔く……」
その横顔は、遠い何かを求めるように見えた。どこか懐かしいと思ったのはなぜだろう。知らない人のように見えるのに、知っていると思った。
その時、眠っていたはずのシルヴァが身じろぎした。
《前に、魔女殿が言っていた。あれらは、この世界の終わりと始まりを求める狂信者だと》
「終わりと始まりって?」
《……我にもよく分からん……だが、恐らく、我らの存在が関係している》
シルヴァの言う『我ら』とは、この大陸の三体の守護獣と、魔族の棲む大陸を守護する三体のことだろう。
「世界には、大地の守護者として六体の守護獣が存在している」
ラクトの言葉に、シルヴァも頭を持ち上げる。
「本来、シルヴァ達は、一つの存在だったと聞く」
《そうだ。我らは一つ。分かたれた魂だ》
分かたれたとしても、彼らは魂で繋がっており、時折夢で邂逅するのだと聞いたことがあった。同じ魂を共有するものとして、それぞれの状態も感じ取れるらしい。
「同じように、かつて、この世界ができた時、天の守護獣が存在したといわれている」
「テンって、天のこと?」
上を指差して尋ねれば、ようやくここでラクトがファナの方へ頭を向けた。
「そうだ。天の守護獣は、大陸を引き上げ、大地を作ったと……」
「それって、神さま?」
「そう言う者もいる。ただ、天の守護獣は地に降り立つことができなかったらしい。どれだけ大きな大陸を作っても、自らの重みと強大な力によって地は砕け、沈んでしまう」
その存在は、天になくてはならないもの。大地に降り立つことすら許されない。最初から破綻した存在だった。
「沈むならばと大地を浮き上がらせ、空に大地を飛ばした……自らの力をこれによって分散させ、力を抑えたことで、ようやくここに降り立つことができた。その浮いた大地に生まれた命は、守護獣の力を吸収したことで、強い魔力を持ち、その背に翼を生やした……これが天翼族だ」
「オズじぃちゃんの先祖だね」
「そうだ」
人の好い、後見人のギルドマスター。その血のお陰で既に百は超えているらしい。
「天翼族にとって、天の守護獣は神だと聞く。ある時に姿を消したその神を、語り部達は探しているのだと……」
ラクトは、転生してから長い時間をかけて、この情報と伝説を集めたのだと言った。こちらの大陸の人が、あちらの大陸を攻めた理由。そこに、語り部達の暗躍する影があったのだと気付いたからだ。
「充分に気を付けるんだ。あの国は恐らく、語り部達の影響が一番強い」
「集まってるってこと?」
「それもある……あの国の近くに、奴らの里があると噂が……いや、噂はあまりあてに出来ないかもしれんな……」
「なんで?」
「奴らほど、情報操作に長けた者達はいないからだ。重要な情報ほど、上手く誤魔化す」
語り部とは本来、伝承や時事を伝える者。噂程度の情報も素早く仕入れられる耳を持っている。まだ広がる前の噂を敏感に感じ取り、それをきっちり否定する。
そうすることで、他人に話す価値のないものだと印象付け、記憶から消すのだ。
「とにかく、気を付けなさい。彼らの耳がどこに潜んでいるか分からない。シルヴァを連れていることで、ファナは必ず目を引くことになる」
「分かった」
地の守護獣の一体であるシルヴァ。その存在は、彼らにとって重要キーの一つらしい。きっと、姿を見せれば動きがある。
「いっそ、目立つようにシルヴァで動こうかな。その語り部っていうの見てみたいし」
「遊びたいなら構わないが、話は通じないものと思った方がいい」
「うん。あれでしょ? 妙に口が上手い人って認識でいい?」
「洗脳に近い認識がいいだろう」
「それは……うん。分かった。素直になるお薬、いっぱい持っていく」
「それがいい」
ファナは、材料はあるし大丈夫かなと呟く。
「とびっきりキッツいやつの実験がまだなんだぁ。使えるかなぁ〜」
「問題ないだろう。好きなだけ実験してきなさい」
「そうする〜……」
《……兄殿……さきほどまで散々、気を付けろと言っておられなかったか?》
なんだかラクトの雰囲気がいつもの調子に戻った。
「うむ、心配だ。奴らに何か吹き込まれて、ファナが帰ってこなかったら……っ、奴らの息の根、止めてくれる!!」
《何を吹き込まれるのだ……?》
これは一緒に国がいくつか消える。
《兄殿、ちゃんと連れ帰る故、早とちりはナシで頼む……というか、主よ……寝ておられぬか?》
「えっ、ファナ!? 兄さんの話、聞いて!」
「ん〜……うるさい」
「はい……おやすみなさい……」
大人しく寝た。
読んでくださりありがとうございます◎
これもいつものこと?
次回、月曜5日です。
よろしくお願いします◎




