213 お仕事開始?
2018. 9. 10
テリアは息も絶え絶えに、薄暗い通路に青い顔で立ち尽くす。
あまりにもその様子が様子だったので、ファナは慌ててシルヴァへ結界を張った。因みに共に行動を始めてから、テリアにも影響がないように結界を張っている。彼は気付いていないが。
「シルヴァ」
《うむ。ここまで過剰に反応されるとは、新鮮ではあるのだがな》
尻尾を一つ振ると、シルヴァは普段の真っ白な美猫姿になる。細く長い美しい尻尾は二本。普通の猫には思えないが、これだけで威圧感は一気に消えたはずだ。
ファナは再びテリアの様子を確認するために振り返る。
きょとんとした顔で、口を小さく開けていた。
「もう大丈夫?」
「あ、ああ……えっと……っ、もしかして白銀の……」
テリアは混乱しながらもシルヴァの正体に気付いたようだ。
大陸の中央にある山脈。そこを統べる白銀の王。強者がその名を高めるため、幾度となく挑んできたが、誰一人としてそれを成せた者はない。
最近では、山自体、登れるだけの実力ある者もいなくなっていた。過酷な場所なのだ。シルヴァを頂点としてある魔獣達は強く、大陸全土を見ても特に強い魔獣が集まって生きている場所なのだから。
「そう。けど気にしないで。昔と違って問答無用で襲われたりとかしないから」
「そ、そう……え? 昔……?」
《主よ。恥ずかしいではないか……》
「いいじゃん。ヤンチャな時もあったって受け入れるのが大人だよ」
《それは、兄殿の言葉か?》
「うん。未だに落ち着きのない奴が何言ってんのって思った」
《兄殿の前で言うでないぞ……》
あれはもう病気だから仕方ないと思ってはいても、これを聞いた時に二度見した後にため息をついてやったファナだ。
「あ、あの……すまない……テリアと申します。今回は国のためご助力いただき感謝いたします」
《気にするな。ただの好奇心からくるお節介というやつだからな》
「……なんか今までと態度違くない……?」
騎士然とした青年が物凄く丁寧に、猫相手に頭を下げる様子は間違いなく異常だった。自分にもこれがあってもいいのではないかと不満を持ったのもそのせいだ。
気を取り直し、ファナは仕掛けを探す。
「この奥って、王様の部屋?」
「執務室があっちだ。その奥は王妃様もおられる宮に繋がっていたはずだが……ここまでは来たことがないんだ……」
「それもそうか」
それこそ、近衛騎士くらいしか入ったことはないだろう。
「なら探検、たんけ〜ん♪」
「えっ、ちょっ!?」
「だいじょぶ、だいじょぶ♪ この感じだと、もう正気保ってんのいないから」
「……え……」
シルヴァの姿を見た時と同じくらい顔色を悪くしているテリアの手を引いて、奥へと向かう。それもそうだろう。近衛騎士も倒れているのだ。奥にいるであろう王妃もと思うのは当然で、それは外れてはいない。
「ほらほら。急いで。この後行かないといけない所もあるからさぁ」
「……っ……」
背中へと回り込み、その背中を押して進む。
先頭はシルヴァだ。その背には、いつの間にかドランが乗っている。
《キシャシャ〜♪》
ご機嫌だ。
「ドラン〜。この辺のも見つけたら取ってね〜」
《キシャ!》
凛々しく顔を上げ、壁や天井へ目を向け出す。三つも頭があるので、全方向もれなく確認できるのは嬉しい。
《シャ!!》
「あ、あった?」
早速見つけたらしい。一斉に同じ方向を向いて鳴いた。しかし、ここで目を瞬かせる。
「……いっぱいだね」
「……こ、こんなに……」
「装飾じゃない……ね」
《間違いなく魔石だ。とはいえ、元々あったものを使ったようだな》
「あ、なるほど。結界に使われてたやつね」
元々、王宮の護りのために使っていた魔石を、今回の力の増幅装置として利用したようだ。
《全部外すか?》
「う〜ん……術式見てみる……元に戻るならその方が良いしね……テリア、シルヴァ達と奥見てきてくれる? これ渡しとく」
「これは?」
テリアに渡したのは薬瓶。小さな薬瓶五十個分の量の大きな薬瓶? と首を傾げそうになるような瓶だ。
「二、三歩で一滴ずつ撒きながら行って。中に人がいたら、数滴手とか、肌に付けてくれれば治るから」
「……そんなものが? なら、近衛騎士にもやってもいいか?」
「あ〜、そうだね。一人二人なら。今はそれだけしか薬ないんだ。だからあと、気になるなら残りの人達は王弟の執務室に運ぶと良いよ。あそこは影響ない術がかかってたから、時間がかかるけど目は覚ますと思う」
「わ、わかった」
なんだか一気にやる気になったテリアを確認してから、ファナは壁、上部にある魔石群へ向き合った。
「さてと……時間もかけてられないし、始めますか」
読んでくださりありがとうございます◎
この場を先ずはなんとかしなくては。
次回、月曜17日0時です。
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