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211 協力に感謝

2018. 8. 27

青年の名はテリアといった。


彼が落ち着いたのを確認して、ファナは仕掛けられた魔石を回収するため、城の案内を頼んだ。


「じゃぁ、ほとんど今はここに人がいないんだね」

「ああ」


あらかた見て回ったのだが、本当に少数。時折、資料を持った血走った目の政務官とすれ違う程度だ。彼以外の兵も見てはいない。


重要そうな部屋に見張りさえ立ててはいなかった。


話を聞くと、数年前から徐々に情緒不安定になる者達が出てきたらしい。暴れて取り押さえられる者も一人二人ではなかったという。


そうして、貴族も兵達も使い物にならなくなっていったようだ。


上に立つ者達がほとんどいなくなり、今や彼が一つの隊を任せられているらしい。今回は、あまりにも城の警備が手薄になっていることが気になり、休暇中でありながら自ら状況を確認するためにも見回りを買って出たのだという。


何より、数年前から『城が呪われている』と囁かれるようになったこともあり、少しでもその真相が分かればと考えたのだ。


「君の言うことが本当ならば、俺はほとんど各地の視察に出ていて城に滞在していなかったから今まで影響を受けなかったってことだな」

「そうだと思うよ。即効性はないからね」

「そうか……噂も嘘ではなかったということだな……」


今の立場に責任を持っている真面目なテリアは、これが噂の原因だと分かり、ほっとしていた。いかにも怪し気な少女であっても、真実が分かり、城や国が正常に戻るなら大歓迎だと思っているのだ。


真面目だなと感心しながら、ファナは同時に頭の固い奴じゃなくて助かるなと呑気に考えていた。


あの石の影響自体、即効性はない。何より、本格的に発動していたわけではないのだから、影響を受けても情緒不安定になるだけで済んだのだ。


ただ、城の至る所に仕掛けられている魔石が、拡散しようとする力を留め、増幅していたために、近くにあった場所から時間を掛けて本来の力に匹敵する影響を与えはじめていたのだろう。


王女がいる間にも何人か死人が出たのはそのせいだ。


「あの石がまだ城にあった間にかなり死んだ人達がいるとも聞いたから、敏感な人達はかなり早い段階で影響を受けてたかもだけどね」

「そういえば……魔術師達が、なぜか城の中で亡くなったと……その影響で?」

「だと思うよ。下手に魔力保有量が多い人達は、あの石と相性悪いって聞いたことある」


魔力を制御しきれないただ魔力が多いだけの者達は、まともに影響を受けたはずだ。元々、天魔石は魔力を高める性質を持っているのだから。


そんな話をしながら城を回っていると、また一つ天井付近の壁に埋め込まれた魔石を見つける。


「あ、あった。ドラン」

《キシャーっ》

「……」


名を呼ばれた小さな三つの頭を持つドラゴンは、ファナのフードから飛び出してそれに向かっていく。


体を持ち上げられないはずの不釣り合いな小さな羽を動かし、パタパタとそこに飛んで行き、それぞれの口から炎を吐いて埋め込まれた石の周りを焼く。


すると、コロリと石が落ちるので、それを器用に背中に乗せて戻ってきた。


《シャシャっ》

「よ〜し、これで七個目だね〜。ドランも慣れた?」

《キシャシャ♪》

「うんうん。楽しそうで結構」

「……」


最初こそ、ドランの姿に驚いて距離を取っていたテリアだが、今は微妙な顔でそれを見つめている。


明らかに得体の知れない生き物。それも魔獣。本来ならば、人とは相容れないはずのそれが、ファナの言葉を理解し、頼みを聞いているのだから、そんな顔にもなるだろう。


何より、この国では力が全て。魔獣は容赦なく戦うものであり、排除しなくてはならない存在として認識されている。手懐けるという発想は先ずない。


魔族という存在を信じ、それが邪悪なものであるという認識のあるこの国において、魔獣はいわばその魔族に近い存在。人々の生活を脅かす魔獣は悪であると思っているのだから、彼が何もせずにただ見ているというのは、本来あり得ないことだった。


「……本当に楽しそうだな……」

「でしょ?」

《キシャ〜》


それでも剣を向けない理由は、ファナが邪気もまるで感じない笑顔と態度で接しているからに他ならない。なぜだかファナのことは信用できると感じているのだ。そうすると、この奇妙な姿の魔獣も悪いモノに見えなくなった。


この時も実際は『本当に懐いているんだな』と言いたかったのだが、口から出たのはそっちだった。水を差してはいけない雰囲気があったのだ。まるで、小さな子どもが遊び半分にお手伝いをしている感じがしている。それを自覚したテリアは『あ、慣れたかも』と思ってしまった。


このどこか普通とは違うファナと、現在の、なぜか全くの部外者である彼女に疑問もなく城の中を案内するという、本来絶対にあり得ない状況に、もはやテリアは違和感を感じなくなっていたのだ。


城を一通り回り終えて、回収した魔石は全部で十五個。城の至る所に配置されていた。それでもファナにしてみれば、予想される範囲と場所で、特に探したというほど苦労はしなかった。


「これであらかた回収できたね」

「全部見つけられたのか?」

「どうかな。まだ数個はありそうだけど、残ってても、もう影響力もないただの飾りにしかならないと思うから大丈夫」

「そうか……なら次は?」

「あれ? 追い出さないの?」


ファナは首を傾げる。これで終わりとは思わないのだろうか。真面目なテリアならば、部外者であるファナを、用は済んだだろうとすぐに追い出しにかかると思っていたのだ。


「そんなことはしない。むしろ……これだけで元に戻るとは思えない。だから、こちらから頼みたい。他にも原因がないか調べて欲しい。それと……王を……これだけ色々と知っているんだ。王を助けてもらえないだろうかっ」


テリアは勢いよく、直角に体を折って頭を下げた。これを見て、ファナは考え込む。


「う〜ん……王様もおかしいんだ?」

「噂だが、寝込んでおられると。いつでも先頭に立って行かれるあの方が、寝込んでおられるなど思えなかったんだが……最近は本当に外に出ておられないんだ……だから」


彼は必死だった。ただの一兵としての思いとしては、強すぎるような気もする。噂されている王の人物像からも、兵からこれほど慕われるような人物には思えない。だから、ふと直感した事を口にする。


「親だったりする?」

「っ!? なぜっ……っ」


反射的に顔を上げるテリアの顔には、驚愕の色があった。どうやら、当たったらしい。


「へぇ。庶子?」


言い方としてはかなり失礼だが、変に気を使って時間を浪費するのは好きではない。テリアも、直球できたその問いかけに、嫌な顔はしなかった。

読んでくださりありがとうございます◎



いつだって直球です。



次回、月曜3日0時です。

よろしくお願いします◎

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