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021 選択の時

2016. 9.18

人は人生で何度、本当の意味でその先の未来について考えるだろう。生きる事は意外と簡単だ。特に意識せず『ただ何となく』で職に就いたり、結婚相手が決まったりする。


理由や、確たる意識というものを見つけたり、持つのは疲れる。それを選べば楽だと直勘してその道を進んでいく事の方が多い。


理由なんてものは、いつでも、後からつけてもいいのだから。


そして今、ファナは生まれてはじめて、自分の今後についてを考えさせられていた。


森で魔女に出会った時も、ファナは心細さと直感で動いたに過ぎなかった。


製薬の技術も戦う術も、やりたいと思ってはじめたものではない。何となく言われるままにやっていた。考える必要がなかったのだ。


行く末、いわば未来に目指すものはなかったし、流れに身を任せて来ただけだ。


だから今回も、なんとなくまた元の生活に戻ろうとしていたファナとしては、それを否定された事でどうすればいいのか分からなくなった。


沈黙してしまったファナに、バルドが心配顔で言う。


「どれだけ強くても、女の子が一人で、それも人が殆ど踏み入れない山に住むなんて、俺は反対だ」

「僕も後見人として賛成できないねぇ。白銀の王がいても、こればっかりは譲れないよ」


保護者達は、やはり反対らしい。


「……でも、町に住むとか考えられないし……人がいっぱいじゃ落ち着かない……」


ファナは決して暗くもないし、無口でもない。ここに来る間も、バルドをはじめとした他人との会話も成立する。


多少、常識と外れているかもしれないが、関わりを持てないわけではないのだ。だいたい、関わりたくないと思っている者が喧嘩を売ったり買ったりなんかしないだろう。


《主よ。物事を無理と決め付けるのが嫌いな主らしくないぞ》

「っ……シルヴァ……」


浮かない顔をするファナに、シルヴァが鋭い目を向けた。


《山に帰る事など、いつでもできよう。本当に我慢がならなくなったなら、我が連れ帰ってみせるゆえ、試してみてはどうだ?》

「……町で生きるって事?」

《そうだ。何より、主は多くの者に必要とされるべき存在だ。それを広く知らしめてからあの山に引っ込む方が面白くはないか?》

「っ、確かにっ……師匠もそんな事言ってた……」


魔女は、世界を引っ掻き回すのが大好きなのだそうだ。だから、最初に世界を渡って来たなら、まずその存在を知らしめる為に人里に下り、その力を存分に理解させる。


そうして、好き勝手に人助けなどをしながらその世界を知り得ると、必要な物を揃えて秘境の地へ引っ込む。


それは、人々が魔女を必要とした時、踏破困難な地を突破できる程の熱意や願いを持っているかどうか試す為だ。


醜い野望の為には、人は命を掛けてあえて困難な道をいこうとは思わない。だからこそ、魔女の所に辿り着くのは、純粋な思いを持った者だけになる。


「世界に、強い信念で動ける人がいるかどうかを知りたいって言ってたね……」

《うむ。我も同じだ。我に挑もうという一念であの山を登り、極限の状態で果敢に向かってくる。そんな者が世界にいるのだと知るのが、何よりの楽しみだった》


魔女もシルヴァも、この世界は捨てたものではないと思える瞬間が好きだったのだ。


「うん……そうだね。私もやってみるよ!」

《うむ。その意気こそ、主らしい》


若干、シルヴァが誘導したように感じているのは、バルドとオズライルだ。そこで、ファナに分からないよう、シルヴァは二人に視線を送る。


魔女の願った目標へ、ファナを導くことが出来たのだ。それを気付かれてはいけないと、二人と一匹は目で頷き合う。


そんな事を知る由もなく、ファナは見つけた目標を胸に、やる気に満ちていた。そして、少々空回っていた。


「そんじゃぁ、何処から行こっかなぁ」

「え? ファナちゃん? 何処に行く気?」

「へ? だって、私はこれから世界を震撼させるような、師匠みたいな魔女にならなきゃいけないんだもの。色んな場所に行ってみなきゃ。そうだ、地図! 地図ないの? 師匠に貰っておけば良かった」


目標が決まったと、ファナはハイテンションで上を見上げて拳を握る。


「おいおい……」

「ファナちゃんは元気だねぇ。因みに、キサコさんが持ってたような地図は存在しないよ?」

「よし、先ずは地図を手に入れてっ……へ?」


オズライルは今何と言っただろうか。


「……存在しない? 地図が?」


そんな事があるのかと、目を見開いて、半ば力が入り過ぎて立ち上がっていたファナは、小さなオズライルを斜めに見下ろした。


「うん。キサコさんは先ず、違う世界に来たら、地図を作るみたいだね。それもすごく詳細で正確な。町の名前から、国内の領線までしっかり調べてね」


魔女は、最初の一年でその世界を見て回る。様々な情報を集め、自分の目で見て計測していくらしい。そうして独自の高度な測量技術によって、地図を作成するのだそうだ。


「この世界の地図なら、あれが一番詳しいやつだから」

「あれって……国境線も曖昧だけど……寧ろ白い……」

「白いねぇ。辛うじて森の位置と山、川ぐらい分かればいい方だから」

「……不安……」


カラカラと笑うが、その隣にあるこの国の地図らしきものも楕円形の丸の中に山や川が書き込まれており、後は領の名前と、点のそばに小さく何やら書いてあるだけ。恐らく町の名前なのだろう。


はっきり言って、これでよくバルドも自信満々にこの町まで案内してくれたものだ。


「冒険者なんて自分の足の感覚で距離感を測ってるところあるし、個人の行動範囲はそう広くないからね。あれで事足りるんだよ。はっきり言って、キサコさんが持ってた地図は、僕、綺麗な絵だと思ってたしね」

「……」


ファナは部屋の壁に貼ってあった大きな地図を思い出す。しかし、確かに意識して見ていなかったので、絵程度にしか感じていなかったらしい。はっきりと思い出せなかった。


「方向と町の名前が分かればなんとか……うん。あれでも間に合うかも……でもやっぱしなぁ……」


シンプル過ぎて分かる所と分かり難い所の差が激しく出そうだ。


《ならば、師匠殿のように作ってしまえば良いではないか。昔、教えられていなかったか?》

「そういえば……あの山の測量やったかも……」


出来るまで帰ってくるなと道具一式を渡され、放り出されたのを覚えている。


計測の為の魔術や、計算の仕方。方向の見方など、魔女にちゃんと教えられていたのだ。


そして、ファナは実にポジティブな思考の持ち主だった。


「そっか、これを想定してたんだね……師匠っ! やって見せます!!」

《うむ。これで当分、山には戻れんな。実に充実した日々が送れそうだ》


シルヴァの呟きは、ファナには聞こえていない。既にファナの頭は何が必要でどうすれば良いのかを考えはじめていたのだ。


数分前まで指標を失い、青い顔をしていた少女は、今や新たな多くの目標に胸を躍らせている。こうして人生の選択など、あっさり乗り越えていけるものなのだろう。


読んでくださりありがとうございます◎



壁にぶつかっても、案外簡単に乗り越えていけるもの。

一人で悩むのも必要ですが、絶望する程の問題ではないはず。

進路を決めるのに悩むのは若い頃の特権ですね。



では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎


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