206 最新技術を使っていました
2018. 7. 16
ラクトは不快感をあらわに推測する。
「間違いないだろう。神獣を相手にするには、当然相当な戦力がいる。それこそ国単位の。最近は大人しくなったとはいえ、あの国はずっと大陸の統一を目標にしていた。それを教会の力で可能にし、最終的に教会は大陸全ての兵力をもって神獣を倒そうとしていると見て良いだろう」
教会も色々と試していた。シルヴァには力自慢の冒険者達をけしかけ、ボライアークには国一つの戦力で当たらせた。クリスタに至っては、異世界から来た魔王。
それぞれが彼らの実験であり、作戦だったのだろう。
「異変を外に知らせないのも、その準備のためか……」
王は頭を抱えていた。距離があるとはいえ、教会が民達を先導したのならば場所など関係ない。
そんな王の顔を見て、ファナが思わずというように提案する。
「見てこようか?」
「ん?」
「ファナっ!」
王は呆然と。ラクトは飛び上がって責めるようにファナへと身を近づけた。
「ちょっと見てくるだけだよ。最近、シルヴァもすっかり子猫な感じだし、たまには思いっきり走るのも必要でしょ?」
《う、うむ……運動不足というやつだな……》
自覚のあるシルヴァは、気まずそうに肉球を舐めた。
これに王が反応する。ネコが喋ったのだ。驚くに決まっている。
「い、今……ネコが……話さなかったか?」
《む。そうか、娘の方とは話したので知っているものとばかり思っていた。主、どうされる?》
シルヴァはファナに正体を明かして良いかと確認する。王は調べて察していたはずなのだが、まだ確信とまではいっていなかったようだ。
「いいんじゃない? 別に隠す必要ないでしょ?」
《そうだな。では、本来の姿を見せるとしよう》
シルヴァはソファとテーブルから離れる。本来の姿になっても邪魔にならない場所までくると、一瞬で大きな白銀の狼の姿へと変わる。
「っ!? 白銀の王……っ」
《シルヴァだ。それで、その国へ行くということだが、今回の件、我も無関係ではないようだ。主と共に偵察してこよう》
「で、ですが……」
王は、実父以来、久し振りに感じる威圧感に混乱していた。言葉遣いまで変わってしまっている。
一方、ラクトは渋い顔をして意見する。
「シルヴァが行くとしても、ファナにそんな事させられない」
《主は気配を消すのも上手いぞ。魔女殿も認めておられた。気配に敏感な我の山に棲む獣達にも気付かれない技量だ。問題なかろう》
ファナが気配を消す練習相手になったのが、シルヴァのいた山の獣達だ。
そこの獣達はとにかく警戒心が強い。シルヴァを倒そうとやって来る一流の冒険者達からも逃れなくてはならないのだ。必然的に気配に敏感になる。
何より、シルヴァからも餌として狙われてしまうのだから、安穏とはしていられない。生存本能の強い個体が多くなっていったのだ。
そんな環境で訓練したファナは、当然のように気配を消すのが上手くなったというわけだ。
《それに……魔女殿が主に施したのは、ただ気配を消す技術ではなく、暗殺術だからな》
「……え……」
さすがのラクトもポカンと口を開けた。
《いや、うむ……魔女殿は、その方が面白いと言われてな……もちろん、実際には実践しておらんぞ。ただ、夢の中で擬似的な試験はされていたようだが……》
そこでシルヴァがファナを見る。すると、この場にいる皆の視線がファルナに集まった。
優雅に紅茶を飲んでいたファナは、視線を感じて顔を上げると、首を傾げながら当時のことを思い出す。
「あ〜、アレだね。『最新のVR訓練さね』って言ってたやつ。すっごいはっきりした夢の中で王様暗殺するやつ」
「……」
ラクトは天を仰ぎ、王は真っ青になっていた。そして、唯一VRを知っているらしいユウヤだけが目を丸くしていた。
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ゲーム感覚です。
次回、月曜23日0時です。
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