205 教会の裏の顔
2018. 7. 9
この大陸には、シルヴァ、ボライアーク、クリスタという三体の神獣が存在している。
それぞれが大地に力を与えており、世界に満ちる魔力の均衡を保つ役割を持っている。そこから大陸の守護者とも呼ばれていた。
当然のように、簡単に会える存在ではない。強い力を持つ故に畏怖されるのはどんなものだって同じだ。
かつては、害獣として討伐しようとした者達もいた。だが、シルヴァ達には意思がある。思考し、言葉を解するのだ。
人々には当然、シルヴァ達のこの世界、この大陸における役割など知る由もない。シルヴァ達も、ただ存在しているだけで結果を出している状態であって、偉そうに己の存在意義を口にしたりもしなかった。
けれど、度々人々がシルヴァ達と交流することで、徐々に情報を得て推察し、シルヴァ達の存在意義、存在の仕方などを知る者も出てきていた。
本来ならば、とっくにシルヴァ達を守護者として当たり前のように敬意を持っていても良い頃。しかし、そうはならなかったのは、教会の裏工作によるものだったりする。
そんな教会と、セシアが嫁いだ国の王弟が繋がっている。しかし、ファナにはその必要性が見えなかった。
「王弟がその教会と繋がって、何の得があるの?」
「教会に求めるとしたら情報操作能力と洗脳力だろうな」
「洗脳? そんな物騒なことしてんの?」
ラクトの見解に、ファナも驚く。ファナは神の存在を信じてはいないが、教会は一般的に神へ祈りを捧げる場所であり、怪我人や病気の者を無償で治療すると聞いていたのだ。
「情報操作も、洗脳も要は同じことだ。奴らは基本、目的のためならば手段は選ばんからな。東の大陸の……魔族に関する情報も、奴らが浸透させたものだ」
拡散させるのが情報操作。人々の意識に植え付けるのが洗脳だ。どちらもさも当たり前の常識のように浸透させるものである。
東の大陸には、魔族がおり、こちらの大陸に生きる人々の生活を脅かす存在であるという意識を浸透させたのは彼らだった。
他にも都合の良い理由で、魔族が悪であると宣っていた。
「教会の裏には、語り部……吟遊詩人がいる。あいつらの組織能力は高い。半月もあれば、この大陸中に情報を拡散させ、人々に浸透させることが可能だ」
「それを国の力として利用できるなら確かに魅力的か……もしかして、その国の異常も外に漏れないようにしてる?」
「だろうな。距離があるとはいえ……」
そこでラクトは対面に座る王へ目を向け、続きを引き継がせる。
「そうだな。石の効果を聞くところによると、間違いなくあの国の政治機能は停止しておる。それを一年とは言わずとも、半年、数ヶ月と経ってもこちらに悟らせないというのはおかしな話だ」
王宮の機能が立ち行かなくなっているとなれば、貴族達が騒ぐはずだ。そうなれば、国が離れていようとも、この国の諜報部が情報を仕入れることができる。それが出来ないでいるのだから大した力だ。
「既に、貴族達の洗脳も済んでいるのかもしれんな」
「でもどうやって? 洗脳だって即効性はないんだよね? 貴族なんて、不満を口にしないと息ができない生き物なんだよ? そんな奴らの口を
すぐに封じられる?」
自分達の利益のためならば、自国の王だって時に裏切る。重鎮達が倒れているのならば、自分こそがその座に相応しいと躍起になるだろう。
玉座が空いたならば、そこを目指すのが貴族の性質というものだ。
「それが教会の力だ。言葉巧みに操り、その王弟を中心に崩れた体制をすでに作り直しているのかもしれん」
「すり替えは得意だろうな……何せ、正当性を説かせたならば、教会の右に出るものはいない。その上、教会は人々の死と密接な繋がりを持ってしまっている」
王も国の代表として、教会と関わることがある。自国の民達を治療する役目を負ってくれているのだから、それ相応の対価を支払う必要がある。
寧ろ、それをしなければ民達の国へ対する感情が変化してしまうだろう。弱っている自分達を助けてくれるのだから、もしもの時にどちらへ付くかと選択を迫られた時に傾倒しやすくなる。それを防ぐ必要があった。
「それってただの詐欺師の集まりじゃん。反乱だって起こせるんじゃない?」
「うむ……だからこそ、国も教会に圧力をかけることができんのだ」
「弱み握られちゃってんるのね。そこと繋がった王弟は最強って感じ?」
「……まさか……」
ファナの言葉で、王は最悪な未来を予想してしまった。そのことについて、ラクトへ意見を求めようと目を向ける。すると、ラクトは重々しく頷いた。
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裏があり過ぎです。
次回、月曜16日0時です。
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