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202/285

202 企む者達は未来を知らない

2018. 6. 11

大陸の東の端、やや南寄りにその教会はあった。


外装は大きいなと思えるくらいの平凡な白っぽい石でできた建物だが、中に入ると印象が変わる。


中央には赤い絨毯。黒く艶やかな石で出来た長椅子がそれを挟んで両側に整然と並べられている。


祭壇には、真っ白な建物とはまた違う高価な石が使われており、端に並べられている燭台は全て金でできていた。


その他にもクリスタルでできた教台など、高価なものばかりだ。


公にはしていないが、この教会こそが、大陸にある教会の全てを束ねている。だからこそ、これだけキラキラしいのだと言われてしまえばそれまでだ。


そんな教会に、真夜中になって尋ねてくる男が一人。彼が中に滑り込むと、同時に奥からシスターが一人現れた。


「ようこそ、スー様。奥へどうぞ」

「ああ。今夜も君は美しいな」

「ありがとうございます」


シスターの制服であるというのに、体の起伏がよくわかる。紅い唇に切れ長の瞳。真っ白な肌。男を籠絡せんばかりの艶かしさを秘めていた。そんなシスターに案内され、男は奥の部屋へと向かう。


その部屋は、教会の雰囲気を全く感じさせないものだった。


まるで王族が寛ぐ部屋だと言われても納得できてしまう。調度品もさることながら、床に敷かれた絨毯も驚くほど感触の良いものだった。


そして、シスターが出してきたワインも最高級のもの。しかし、彼らはこれらになんの疑問を抱かず、さも当たり前のもののように話を始めた。


「ようやく兄上が倒れてくれた。まったく……体力だけはあるから最後になるとは思ったが、書類仕事もろくに出来んくせにここまで粘るとは思わなかったぞ」

「あら、ただの脳筋だと仰っておられましたのに、書類仕事を真面目にされていたのですか?」

「そうだ。先に大臣達が倒れたからな。あれで責任感はある」


男は、この国の王弟だった。普段は内政担当として文句も言わずに王の補佐をしている。しかし、文句を表立って口にしないだけで、彼は相当苛立っていた。


「珍しいですわね。スー様がお兄様を褒めるだなんて」

「腐っても兄弟だ。認めるべきところは認める。とはいえ、あれが王に向かないのは分かりきっていることだ」


勇者を輩出した土地柄故か、それとも、元々の王家がそうだったのかは分からないが、この国の王族は血気盛んな者が多い。


何かにつけて戦争だなんだと戦いを求める。否、何かを求めることに貪欲なのだ。欲しいものがあるから戦いを仕掛ける。そして、奪う。考えるよりも先に手が出る性質を持っていた。


男はそんな王族の中では異端だった。欲しいと思うものはある。その気持ちも強い。しかし、彼は手を出すよりも先に頭を使った。


欲しいと思ったのは王位だ。とはいえ、兄を唐突に殺す気はなかった。兄と男は年が十違う。王になるのもそれほど長い期間が欲しいとは思わない。兄の寿命が来てからで十分だと思っていた。


けれど、兄に王子が生まれたことによって、第一王位継承権はその王子になってしまった。だから、王子には少しずつ子どもの頃から毒を仕込み、病弱な子どもに仕上げた。


今でも熱を出せば、簡単に死線をさまよう貧弱な体だ。これで間違いなく自分よりも早く死んでくれるだろう。


しかし、このシスターと出会ったことで、男は計画を前倒しするべきだと考えるようになった。つまり、王である期間は長く、今からでも良いという考えだ。


「ふふ、悪い方。毒でも病でも死なないならば、呪いでなどと……普通は考えませんわよ」

「良い考えだろう。これも天が与えてくださった機会だ。私が王となれば、君の願いも叶えられる」

「ええ。呪いさえも力にしてしまうスー様ならばできると信じていますわ。きっと、この世界に再び神が降臨なさる。そのためには先ず、この大陸に取り憑いた悪しき獣を葬らなくてはなりません」

「うむ。各国に協力者がいる。情報操作も問題ない。早急に始めるとしよう」


コツンとワインのグラスを合わせ、二人は微笑み会う。揺るぎない未来があると信じていた。


この夜の彼らは、それが限りなく不可能に近いものであることをまだ知らない。



読んでくださりありがとうございます◎



上手くいくとは思えません。



次回、月曜18日0時です。

よろしくお願いします◎

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