201 調べてみるのも悪くなさそう
2018. 5. 28
ファナは王の前を辞する少し前から、ずっと視線を感じていた。
それはまるで値踏みするようで、とても不快だ。当然だが隣にいるラクトも気付いていた。
そして、それがどういう人物なのかも予想ができた。
「あれがイスクラ侯爵?」
「そうだ……消すか」
「面倒なことになるから今はダメ。それに、王女から聞いてこっちを特定したわけじゃなさそう。兄さんが嫌われてるんじゃない?」
ファナに直接ぶつけてきているわけではないのは分かっていた。ファナのように有能な薬師を貴族は取り込みたがるが、王女のことで薬師だと特定されている訳でもないのだろう。
これにあっさりとラクトが答える。
「確かに嫌われているだろうな。誰とでもソツなく付き合う奴だが、あの無能な親たちとの関係が悪くなかったのを考えれば分かるだろう」
「へぇ。でもそうなると結構狡猾?」
あの両親とも問題なく付き合えたということは相当だ。それも侯爵。同じ立場だ。あの両親が敵対しないはずがない。それを上手くやっていたのなら相当な策士であり、腹黒だろう。
「昔から何を考えているのか分からん奴だったからな」
「兄さんでも分からないってそれは……相手にしないでおこう」
「そもそもファナが相手をする必要なんてない!」
「はいはい」
だが、気にはなる。
「兄さん。侯爵がどういうつもりであの石を王女様に渡したかだけでも調べてくれる?」
「ああ。私も気になっているからな。何とか調べてみよう。それと、ついでにあちらの国についてもな」
セシアが嫁いだ国が、石の影響を受けてしまったのはビズの話でわかった。国の中枢が異常をきたしてしまったのなら、国は立ち行かなくなる。
そうなれば、周辺の国にも影響が出てくるだろう。今は昔ほど戦争に前向きではないとはいえ、好機と見る者がいるかもしれない。
「その国って、クリスタの居る山がある国じゃないよね?」
シルヴァと並ぶこの大陸の三体の守護獣のうちの一体、それがクリスタという世話好きのドラゴンだ。
そのドラゴンの住む山がある国の騎士とは一年ほど前に一戦交えた。ビズが言った影響を考えると、あそこまで統率の取れた騎士が動けるならば、中枢に問題はない。
そう考えると、今回のセシアが嫁いだ国というのは、東の国でもクリスタの住む国とは違う国のはずだ。
「あそこよりも南の国だ。大きな教会が有名だな」
「教会か……師匠から良い話は聞かなかったっっけ……」
「そうだな。はっきり言って良い噂はない」
「……迷いなく言えちゃうって相当だね……」
ファナもできれば関わり合いになりたくないと思えるような話しか師匠である魔女から聞いていない。そこから考えるまでもなく、嫌な予感がする。
「絡んでくるかも?」
「あり得るな。王女の結婚も、教会の奴らが裏から手を回していたという噂を聞いたことがある。それに、あの国の現王は代々が好戦的で頭が悪いが、王弟は相当な策略家で教会と強い繋がりがあるらしい」
「なら、あの侯爵と教会の関係は?」
「……表には出していない……調べてみよう」
もしも繋がりを悟られずに今まで平然と無関係を装ってきたのならば、相当厄介だ。
「ついでに教会についての情報も頂戴。ちょっかい出された時に知ってた方が良さそうだから」
「ファナには指一本というか、視線さえよこさせないが?」
「遊び相手になるかもしれないじゃん。勝手におもちゃを取り上げないでよ。嫌いになるよ」
「っ!? 一緒に遊ぼう!」
「なら情報」
「任せなさい! 帰ったらすぐに用意する」
言質は取ったとファナは内心ほくそ笑む。
「気になってたんだよね〜。なんか、シルヴァにも関係ありそうだし」
シルヴァだけではなく、クリスタやボライアークといった守護獣達に関わる教えが教会にはある。
師匠である魔女には、余裕ができたら詳しく調べて気に入らなければ潰せと言われていた。
ここで見極めるのも悪くはない。
「暇つぶしになるかな」
そんな呟きは、舞踏会の賑やかな音の中に消えていった。
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新しいおもちゃ?
次回、一度お休みさせていただき
月曜11日0時です。
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