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020 生きる場所は

2016. 9. 16

魔女に拾われ、必死で山を登って山頂の小屋に着いた時。ファナは気絶するように眠ったらしい。


ファナはまだ六才の子どもだった。体力自慢の大人でも登るのに命をかけるというフレアラント山脈を登るなど、普通は考えられない。ただの自殺行為だ。


しかし、森に置き去りにされた心細さと絶望は、見つけた光をただただ追いかける力をくれた。


魔女という光を追って、必死で歩いた。魔女は、特別なルートと、ファナの体力を助ける魔術を使ってくれていたらしい。そのお陰で山頂まで辿り着いたのだ。


それでも無茶なものは無茶で、その後一週間。ファナは熱を出し、目を覚ます事がなかったという。


そうして目が覚め、弟子となる事も承諾して落ち着いた頃に言われたのだ。


『よいか。忘れるでない。お前は誰かを、両親を憎む思いをあの時に知ったはずだ。消す必要はない。その感情は必要なものだ。何より、許す必要もない』


そう言われた時はわからなかった。六才だ。言葉さえ曖昧なのに、感情を理解できはしなかった。それでも、この言葉を、何十回と事あるごとに説かれた。


『おぬしは、身勝手な大人の事情で捨てられたのだ。その事情の全てを知った時、返してやれ。あの時感じた心細さ、絶望、怒り。全てを糧にし、いつか全てを返すのじゃ。それが、魔女の心得の一つじゃて。ひっひっひっひっ』


自分の境遇を何回も確認され、何度も考えた。なぜ自分はあそこに置き去りにされたのだろうと。そう何度も自問し、ようやく魔女の言う言葉の意味が理解できるようになると、自分の中に確かに両親への憎しみがある事に気付いた。


その感情に憎しみという名がある事を知って、考える度にモヤモヤと苛立ちを募らせる。何かはっきりしない感情がそれだと理解した。


自分は、事情も分からず捨てられたのだ。恨んでもいい。怒ってもいい。憎んでもいいのだ。そうして、ゆっくりと何年もかかってその感情を整理した。


《主がもっと怒ってくれれば、我が行って一瞬で消し去ってやるのだが……理由が知りたいのだろう》

「話したっけ?」

《いいや。何となくだ》

「そっか。そうだね。理由はちゃんと知りたいな。理由があればだけど」


思い返せば、身勝手で理不尽な怒りをぶつけられた時の方が多かったように感じるのだ。


これで理由もなく、ただ目障りになったなんてものだったら、さすがに我を忘れて暴れる自信がある。


「あ、でもそうなると、後見人になるマスターに迷惑がかかりますよね?」

「構わないよ? 僕ら冒険者は、国の中にあるけど、国の命令とか、貴族がどうとかは関係ないんだ」

「えっと?」


どういう意味だろうと、首を傾げる。


「キサコさんと一緒だよ。どれだけ国に頼まれても、こちらの判断で断る事もできる。国の中にあるけど、冒険者ギルドっていうのは、独自の組織なんだ」


国に縛られない組織。


「でも、それだと住み難くないですか? 貴族なんて、文句言いそうですけど」

「まぁね。けど、国には戦士団があるから。僕らは、彼らが対処しない住民達の問題を解決するんだ。だから、僕らがいないと実は貴族も国も困る。仕事の住み分けは出来てるし、邪険にはされないねぇ」

「はぁ……結構自由なんですね」

「キサコさんと一緒でしょ?」

「よくわかります」


魔女と同じだと言われて納得してしまった。


「なら、よろしくね」

「はい。こちらこそ。ありがとうございます」


こうして、オズライルがファナの後見人となったのだ。


◆◆◆◆◆


しばらく談笑し、今後どうするのかという話になった。


「師匠が今まで住んでた小屋を壊しちゃったんでそれを建てないといけなくて」

「なに?」

「うんんん?」


バルドは目を見開いて固まり、オズライルは何と言ったのかと笑顔のまま首を傾げた。


「へ? いや、家を建てるのって大変かな? やっぱ、家具を作るのとは違うよね?」

「……」

「……君が建てるの? え? キサコさんが壊したの? ちょっと待ってっ」


オズライルは大混乱していた。バルドに至っては、口を開けて固まったままだ。


《そうだ。魔女殿と懇意にしていたマスター殿ならば分かるだろう。魔女殿がなぜ小屋を壊したのか》

「シルヴァ?」

「理由ねぇ……」


突然、シルヴァがオズライルに意見を求めた。お陰で混乱は治ったらしい。思考が一方向に向いた事で、冷静さを取り戻す。


「う〜ん。そうだねぇ。ファナちゃんがここへ来たのを考えると、考えられるのは……ファナちゃんをあそこに一人で住まわせる気はないんだろうね」

《うむ。我もそう思った》

「どういう事?」


何を言っているのかとシルヴァへ目を向ける。しかし、シルヴァはじっとオズライルを見ていた。まるで説明は任せるというように。これを受けて、オズライルは頷く。


「キサコさんは、ファナちゃんに町で生きて欲しいと思ったんじゃないかな? キサコさんの手紙にも、ファナちゃんには製薬の技術や、剣とか武術全般も修めさせたってあったよ。だから、それを活かせるここに住んで欲しいんじゃないかな」

《我もそれが言いたかった。主はあの山で一生を終えるべきではない。生きるべき場所は、もっと他にあるはずだ》

「シルヴァ……」


ファナはどうすべきか分からなくなった。


読んでくださりありがとうございます◎



どこで生きるか。

家にも戻らないのですから、決めなくては。

そういえば、お兄ちゃんはどうしたのでしょう。



では次回、一日空けて18日です。

よろしくお願いします◎


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