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002 人を発見!

2016. 8. 22

「あ~……平和だ……」


無事に卒業試験を終え、師匠との別れも済ませた少女、ファナは、のんびりと長く住んだ山を下り、人里を探して森の中を歩いていた。


《主よ……我はやはりまだ納得できんのだが……》


足下から、真っ白な子猫が不機嫌に二つの尻尾を揺らして言った。その理由は、ファナの頭に乗っている。


「そう言われてもさぁ。こんな姿になっちゃったこの子達をどうしろってぇの? 何より、主従の契約と、共有の魔術で縛っちゃったんだもんよ。今更放置できないじゃんね?」

《だからといって、なぜに主人の頭の上で寝こけさせるっ!》

「そこかっ。安定するのがここだったんだよ。それとも、シルヴァが背負う? 抱っこ紐でいけるよ?」

《飛ばせばよいのだっ。何のための翼かっ》


そう、魔女命名ミツクビドラこと、三つの首を持つ巨大なドラゴンは、今やファナの頭の上で髪に埋もれて眠っていた。


大きさは大人の掌に乗るくらいだ。子どものドラゴンよりも小さいだろう。小鳥より少し大きいといったサイズだった。


姿はそのまま小さくなっただけ。ただし、力は本来の百分の一ほどだ。とはいえ、その辺の小さな魔獣達や、野生の鳥

猫などに負ける事はないだろう。


「冷たいなぁ。子どもにはもっと優しく。心を広く持たないと」

《それは子どもではない。凶悪な害獣だろうっ》

「大丈夫だって。人を襲ったりしないしし」

《この世界の生き物ではないのだぞ。それだけでも、もう多くの魔獣や獣達には脅威だ》


シルヴァが言う事ももっともだ。しかし、今や小さく、疲れて眠るドラゴンは、脅威とは無縁の幼い魔獣でしかない。


「名前どうしようか」

《名前とな? 名などつけてどうするのだ⁉︎》

「どうって、これからも一緒にいるんだから、呼び名は必要でしょ? ミツクビドラなんて呼びにくいじゃん」

《っ、捨ててくるのだ! 魔女殿に封印されていた害獣の分際で、主に名を貰うなど、許せん!》


シルヴァの怒気に、驚いて目を覚ましたドラゴンは、咄嗟にどこにいるのか分からなくなったのだろう。混乱して、三つの首が絡まりそうになりながら、ファナの頭から転がり落ちてきた。


それを反射的に手を出して受け止め、注意する。


「こらこら。危ないぞぉ。シルヴァも大人気ない。それに、もう契約も成立しちゃってるんだからさ。ここは先輩として許してやってよ」

《キシャァ……》

《気に入らんものは気に入らん。だいたい、我の自慢の尻尾を燃やそうとしたではないかっ! 反省しておらんっ!》

「それか……」


どうやら、気に入らない理由のもう一つは、真っ白だった二本の尻尾のうち、一本の先が少々焦げてしまっている事のようだ。


《シャァァ……》

《ほれ、謝ってみよ。シャーシャー言っても分からんわっ》

《シャ……》

「だから、仲良くしてって。ちゃんと申し訳なさそうにしてるじゃん。魔獣なのに、言葉分かんないの?」

《分からん。波長が合えばあるいは……》


シルヴァは今まで、どんな魔獣や獣達とも会話が出来ていた。それがこのドラゴンだけは分からないようだ。恐らく、違う世界の生き物だからだろう。


「なら、やっぱり」

《ん? な、何をするのだ、主!》

「大丈夫だって。落ちないようにこうやって……」

《キシャァ?》

「ほら出来た。カワイイっ」

《くっ、屈辱だ……》


シルヴァの背中に、布で袋を作り、その中にドラゴンを入れてやったのだ。上手く背負えている。


《キシャっ、シャっ》

「お、なんか嬉しそう。良かったねぇ。ドラン」

《ドラン? なんだそれは》

「この子達の名前。右からドラ、ラド、ランね」

《それでまとめてドランとな? いいかげんだ》

「ウソっ。メッチャ喜んでるっぽいよ?」

《なに?》

《キシャっ、シャシャっ》


ドランは、シルヴァの背中の袋の中から首を出して、それぞれリズムを取るように上下に振って嬉しそうに鳴いていた。


《なんと……めでたいヤツらだ……》


呆れながらトボトボと歩くシルヴァ。その背中で、ドランは始終上機嫌だった。


◆◆◆◆◆


ようやく森を抜けたのは、山を下りてから三日後の事だった。小屋を出て四日。魔女からの卒業祝いに貰った謎の不思議鞄によって、食べ物は尽きる事はないので、旅の不安はなかった。


《なんなのだあそこは……草が生えておらん。身を隠す場所も、登れる木もないではないか》

「あれは街道。道だよ」


シルヴァは、森を抜け、目の前に現れた街道を見て驚いていた。


今まで森と山しか知らなかったのだ。確かに驚くだろう。


《なんという場所だ……》

「えっ、なに、その世界が終わるみたいな絶望感……大げさだなぁ」

《主よ。そうは言うが、あのように開けて土が見えているような場所で戦闘があれば、弱い獣達などイチコロではないか》


シルヴァは、多くの獣達の王だったのだ。魔獣だけでなく、弱い野生の獣達の事も気に掛ける、よき王だ。だからこそ、初めて見る環境に戸惑っていた。


「だから人にとっては安全な場所でしょ? 人は弱くて臆病なの。街道を行けば、見通しも良いから魔獣が襲って来てもすぐに分かるし、何より、街道に魔獣も獣も出て来ようとしないじゃん? ほら。安全じゃない?」


実際、しっかりと街道が整備された場所では、森に棲む獣達と人の住み分けは出来ている。


《釈然とせんが……無用な争いは避けられるか……》

「そういう事。まぁ、夜は好戦的なのが森から出てくるだろうけど、町には高くて分厚い壁があって強固な門で閉じられるから、問題ないんだって」

《ほぉ……安心して眠れるのは良い事だ》


シルヴァは、生まれた時から山を降りた事がなかった。数十年に一度、挑んでくる人の情報は持っているし、ファナと魔女が近くにいた事で、ここ数年で人の生態は知れた。しかし、こうして人里の事情は知り得なかったのだ。


「あ、第一旅人発見!」

《あれは冒険者とかいう奴だろう。我にかつて挑んで来た者達と同じ気配がする》

「服装じゃなくて? 判断基準は気配なんだ?」

《服装など一々覚えておらん》


冒険者とは、体を張って国や町の問題を解決する者達の事で、国兵や戦士達とは違う。あくまで民間の、何でも屋だった。


彼ら冒険者は、人に仇なす魔獣を討伐する仕事をも担う。但し、その理由は分かれる。それは、単に人助けとして請け負う者と、自身の名声の為に強い魔獣を倒そうとする者だ。


かつて、シルヴァは名声の為に勝負を幾度となく挑まれていた。しかし、その記憶は曖昧で、誰もがシルヴァにあっさりとあしらわれて帰っていったという。お陰で、シルヴァの記憶に、はっきりとその姿が残らなかったのだ。


「そういうもんなんだ……」


挑んだバカも大概だと思うファナだ。


「とりあえず、町がある場所とか聞いてくるよ。え〜っと、師匠が手紙を届けるように言ったのって、何て名前の町だっけ」

《イクシュバだ。そこの冒険者ギルドのマスターであるオズライルに渡すのだろう》

「イクシュバ……イクシュバね。あ〜……ギルドマスターの名前、もう一回お願い」


ファナは、覚え難いなと名前を確認する。既に全く記憶に残っていないのだ。


《オズライルだ。記憶力のいい主らしくないな》

「あはは。史実に残るような何かを成した人の名前はすぐに覚えるんだけどなぁ……おかしいな」

《うむ。不思議だな……我はここに待機している故、忘れずにな》

「は〜い。イクシュバん、オッズラール」

《イクシュバのオズライルだ! 頼むぞ主!》

「はいはい。イクシュバのオズライル……覚えた!」


そうしてファナは、森の入り口にシルヴァとドランを残し、街道を進む一人の冒険者に向かって駆け出したのだった。




読んでくださりありがとうございます◎

次回、また明日です。

よろしくお願いします◎

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― 新着の感想 ―
[一言] >大人の掌に乗るくらいだ… 雀以上、烏、鳶未満?(鳶って意外に大きいです、地上(至近距離)に降りている姿は珍しいんじゃないかな?) 「ふおぉっ!」どこぞの脳筋が駝鳥を掌に乗せようと…
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