199 多分手遅れです
2018. 5. 14
セシアが密かに王と王宮へ帰って行った翌日。
「ファナ、熱があったりしないか? どうだ? ほら、今日の舞踏会は欠席にしようじゃないか」
「……薬師が体調不良って信用問題なんだけど? 欠席できるならしたいのは山々だけどね」
当日になってラクトが悪あがきを始めた。予想はしていたが、これが朝から続いているのだから、うんざりする。
現在、舞踏会の開始時刻、二時間前。未だにファナとラクトは屋敷にいた。そろそろ時間がまずい。
「ファナ。絶対に絶対、目立たないでくれよ!? いや、ファナが可愛いのは仕方がない! けど、変な奴に目を付けられたらっ……」
「はいはい……」
ようやく着替えを始め、先に用意の整ったラクトがファナの着替える部屋の扉を隔ててするやり取りがこれだった。
中で着替えを手伝ってくれているメイド達は、始終クスクスと笑っている。
「本当にラクト様はファナ様を愛していらっしゃるのですね」
「ファナ様。婚期を逃すのは覚悟されませ」
「先輩、それよりもラクト様が結婚できないんじゃないですか?」
「……大問題だわ……」
だんだんと現実味を帯びた話になってきてしまった。けれど、これにファナが追い打ちをかける。
「あのシスコンは治んないよ。寧ろ死んで悪化してるらしいし」
「……ファナ様……それはどういう…….いえ、それより、少しは希望をいただけませんか?」
「希望なんて今のところ皆無だから。ゴメンね」
先に謝っておくことにするファナだ。とはいえ、彼女達はこれまで最悪と言われたあの両親の時代を生き延びてきたメイド達だ。メンタル面は強い。
「……い、今の所ですよね……だ、大丈夫です。今までもなんとかなってきましたものっ」
「そうですよねっ。もうなんならファナ様が妻ってことにして養子をどこからかもらいましょう」
「先輩! ナイスアイデアです!!」
「可愛い子攫ってきましょう」
「候補を今から見繕うのよっ」
「いける!! いけますわ!! 侯爵家は安泰です!!」
「……えっと……色々問題発言があった……のは聞かなかったことにするよ……」
長い間虐げられていたせいか、抜け道や考え方を変えるのは彼女達にとってはお手の物なのだろうとファナは無理やり納得しておく。
「さぁ、できましたよ」
「いいわぁっ。ファナ様、これは玉の輿っ……いえ、王妃の座はいただきですっ」
「……いや、いらないんだって……目立たないようにしろって兄さんも言ってんじゃん。なに? どうなってんの?」
先ほどまでの姦しさは鳴りを潜め、今は皆がうっとりとファナのドレス姿を見つめている。
「はぁ……行ってくる……」
幸せそうな彼女達をそのままに、ファナは未だにブツブツと呟いていたらしいラクトの待つ扉を開けた。
「いいかい? ファナ、絶対に会場で笑ったり…………」
「まだ言ってんの?」
呆れながらも、なぜか動きを止めたラクトに、眉を寄せる。
「どうかした? どっか変……だったらお姉さん達が黙ってないよね。姿見……姿見はどこ? あ、ユウヤ。ねぇ、変じゃないんだよね?」
なぜか姿見をメイド達も隠しているらしく、自身の姿が確認できない。それならばと、色メガネで見ないユウヤに意見をと思ったのだが、目が合った途端に固まってしまった。
「ちょっと、どうなってんの? 石化の薬でもまいた? あの薬はちゃんと調薬室に保管してあるはずだけど……」
ファナは明後日の心配をする。
そこで、トミルアートがやってきた。
「あ、トマ。ねぇ、石化の薬の解毒薬って在庫あったっけ?」
「っ!? ……ファナ……?」
「そうだけど?」
「……綺麗……です……」
「へ? 期限切れ?」
小さく呟かれたトミルアートの言葉は、おかしな変換がなされてしまったようだ。
それからしばらく、ファナは解毒薬が期限切れならどうしようかと考え続け、他の者達は思考を停止していたのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
着飾るのも久し振り過ぎですからね。
次回、月曜21日0時です。
よろしくお願いします◎




