198 影響はありました
2018. 4. 30
ファナに怒られて落ち込んでしまったラクトをソファの端に追いやる。代わってファナが事情の説明を始めた。
「解毒は終わってる。そろそろ治療から丸一日経つけど、経過も問題ない。城に連れていってもらっても構わないよ」
今見た限りでも全く問題はなさそうだ。それならば、いつまでもここに置いておく必要はない。ただし、一つ言っておかなくてはならないことはある。
「けど、天魔石だけは今後気を付けてくれる? 封印はしたけど、ある意味未知のものだから、絶対安全とは言えないの」
ファナの師匠である異世界の魔女さえも不安がらせた物だ。絶対などとは言えない。
「あの石がそれほど危険な物なのか……?」
王はセシアの首にかかっている石を確認し、思案するように顔をしかめて、片手で顎を撫でる。
そこで、昨日から疑問に思っていたらしいセシアが、首を傾げながら尋ねた。
「今まで何の影響もありませんでしたよ? これは、家にあるだけで一族を滅ぼしかねない物なのでしょう? 嫁いだ日から身に付けていましたが、今まで何も起こりませんでした」
ファナが天魔石の影響で毒がおかしな作用を引き起こしたのだと言っただけで、本当にそれが原因かも怪しいと内心思っているのだろう。
しかし、今まで影響しなかった理由はある。
「それに術を施した時に気付いたんだけど、つい最近まで封印されてた痕跡があったんだ。多分、完全に封印が解けたのはここ一年くらいの間じゃないかな。それまでは、一部力が漏れてるって状態だったはずだよ。だから余計に毒が変に作用したんだと思う」
「そんな……」
毒を盛られたのは、封印が解けるもっと前だが、その中途半端に力が漏れている影響で肉体だけが老化したのだ。
「もし、封印が解けてた時に毒を盛られたら、遅効性の物でも即効性になるよ。悪意、敵意を増大させてしまう力が根幹にあるみたいだからね」
「あ……そういえば……ここ一年くらいといえば……」
セシアは若干青ざめながら思い出した事を口にした。
「やたらと毒味の者達が、亡くなったのです……私の周りだけでなく、他の方の毒味役も……そうよね、ビズ」
「はい。それと……それ以外にも、体調を崩してそのまま……ということが……」
「え? 他にもってどういうこと? 聞いていないけれど……」
ビズは、いつの間にかセシアよりも酷い顔色をしていた。
セシアは長い間部屋から出ることもなく、ほんの数人の使用人としか会っていなかった。何より、セシアの心には余裕がなく、噂話もそれほど耳に入ってこなかったのだ。
「実は……一年ほど前から、王太子様も部屋から出て来られるていないのです……他にも、数名の大臣や、貴族達が……王の姿も見ておりませんでした……」
「っ!?」
セシアとビスが簡単に抜け出せたわけである。重鎮達が軒並み倒れているのだ。城の機能はほとんど停止している。
これを聞いて、ファナは不謹慎ではあるが、感心する。
「王城内なんて、悪意と敵意が渦巻いてるもんねぇ。あはは、天魔石一つで一家どころか、国が滅びるかぁ。すごいなぁ」
「そ、そんなっ」
セシアは今になってそれが恐ろしくなったようだ。震える手で、天魔石の付いたネックレスを外し、どうしようかと途方にくれる。
「そこに置いていいよ。大丈夫、封印は今のところ完璧だから」
「あ、はい……」
セシアは恐々テーブルの上に天魔石を置く。彼女は完全に怯えていた。
そこで、隣で落ち込んでいたはずのラクトが、その石を睨みつけているのに気付いた。
「ん? 兄さんどうしたの? 親の仇でも見るような目で……」
「っ!? あ、ああ……ある意味仇だからな……」
「んん?」
「なんでもない……」
そう言って、ラクトは無言でファナを抱き寄せた。
「ちょっと兄さん?」
見上げた先にあった表情が泣きそうなものに見えて、ファナは仕方なくそのままにしてやることにした。
情緒不安定な様子のラクトは放っておいて、ファナは話を続ける。
「それ、こっちで預かるよ。こっちの城に持ってくの嫌でしょ? 壊しても構わないならそうするし」
「……お願いします……処分してください」
「任せてよ。ところで、王様があれを贈ったってのは本当?」
「なに?」
問いかけられた王は、驚いたように目を見開いた。それからセシアへ目を向ける。不安そうなその表情を見て、王は察したらしい。
「いや、私は贈ってはいない。あ、ただ……一度だけ……貴重な宝石が手に入ったとイスクラ侯爵から聞いてな……それで頼んだ事があったのだが……」
「はい、お祖父様から受け取りました……」
「ふ〜ん……」
そのイスクラ侯爵には、間違いなく何か裏がありそうだ。
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何かありそうです。
次回、一度お休みさせていただき
月曜14日0時です。
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