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195 頼りにはしているんですよ?

2018. 4. 9

舞踏会を明日に控えた今日。昨日に引き続き、お茶会のためにラクトは王宮に行かなくてはならないらしい。


本日の予定を少し遅くなった朝食の席で聞く。現在、この場にいるのはファナとラクト、それと異世界から来たユウキだ。


本邸の家令であるジェイクの代わりであり、従者であるのがユウキなのだ。彼は案外、優秀だった。


「昼は王宮でエットラ公爵夫人と会食。その後、園遊会に出席。予定にはありませんが、王も顔を出すそうです」


舞踏会が夜の交流会ならば、園遊会は昼の交流会だ。今回の舞踏会に参加する者達はほとんど園遊会にも出席する。そこで、王は影からこっそり観察しようとしているのだろう。そんな情報さえ、ユウキはしっかりと掴んできていた。


「それって完全に前哨戦じゃない? 王子の相手を、明るい所で見極めようって魂胆だね」

「違いありません。ということですので、お嬢様は本日も欠席ということでお願いいたします」

「別に良いよん。あ、王女様についての情報頼んでいい?」

「はい。お任せください」


ユウキは、魔王や勇者にさえなれる力の持ち主だ。能力は高い。情報収集などお手の物。立場も安定し、ラクトという絶対的な存在の庇護に入ったことで、生き生きとその能力を発揮していた。


「そんなもの片手間でやれ。重要なのは、ファナを明日の舞踏会で、いかにして隠すかだ……あいつにはもうファナを見られているし……これであの狸親父に見られたら……」


あいつとは、ラクトと学友であった王子のフレットのことだ。今回の舞踏会の主役である。


「狸親父って、もしかして王様のこと?」

「そうだ! あいつは油断ならん! 王としてはこの大陸一のキレ者だな。だが、心配するな。ファナは嫁には出さん!」

「……」

「……結婚とかする気ないからいいけどさぁ……」


兄としてはダメな発言だ。ユウキも慣れてきたとはいえ、少し表情が引きつっている。


「でも、兄さんが警戒するくらいの狸っぷりって……ちょっと気になるかも」

「なっ!? ファ、ファナ……まさか、お、おじさんが良いのか!? だ、ダメだっ!! よしっ、今すぐあの狸を葬って……」


突然立ち上がり、お得意の勘違いを披露するラクトの頭上に、ファナは遠慮なくひと抱えほどの大きさの平たい氷の塊を出現させて落とした。


「バカ言ってんな!!」

「ぐふっ……」


綺麗に真っ二つに頭で氷の板を割ったラクトだが、そのまま床に倒れて気絶した。それを見て、呆れた様子でユウキが呟く。


「……そのうち死ぬぞ……」

「ふんっ。バカは死んでも治らないだろうけどね」

「こればっかりは確かに……治りそうにないな……」


ユウキはラクトの状態を確認すると、異世界で培ってきた治療術を施す。とはいえ、怪我はなかったようだ。


「大丈夫ですか」

「うっ……問題ない……」

「落ち着いた? そんで話を戻すけど、王女様が戻って良さそうな雰囲気だったら、明日にでも王宮に連れて行ってやったらどうかと思ってるんだ」

「あの国じゃなくか?」

「どう考えたって帰したら同じことになるでしょ。王族が出戻りってダメなの?」


王宮には危険が多いものだが、王女が受けていた毒は、確実に死に至らしめるための毒だった。そんなものが出てくるような所よりかは、まだ実家であるこちらの方が安全ではないかと思うのだ。


「特に問題はないと思うぞ。嫁いで半日で帰ってきたということも過去にはあったはずだ」

「……それは嫁いだって言えるかどうかも怪しいね……」


待遇が悪いと言って半日で飛び出したお姫様がいたという伝説があるそうだ。それでも問題にはなっていないならば、確かに、今回のような理由があれば問題はないだろう。別の問題はあるが。


「王女のことは、王に直接話してみるとする」

「あ、良いの? 王様嫌いなんじゃないの?」

「嫌いだが、仕方がない。ファナがどうにかしたいと思っているんだ。協力しないわけにいかないさ。お兄ちゃんだからなっ」

「……ヨロシク、オニイチャン……」

「勿論だ!!」


この後、必要以上に元気に王宮へ出かけていったラクトを見送った。


王女やビズが起きてきたのは、昼も過ぎた頃だった。


「申し訳ありません……こんな時間まで……」

「お恥ずかしい……」

「いいよ。疲れてたと思うしね。体が大丈夫でも、頭はストレス感じてたんじゃないかな」


精神的な疲労には、ちゃんと休むに限る。時間の感覚も忘れるくらいが本当は良いのだ。


「軽く食事しながらでいいんだけど。今、兄さんが王宮で里帰りできるかどうか確認してもらってるから」

「え……で、ですが私は……」

「殺されかけて、それでも向こうに居ろってほどの薄情じゃないと思うけど?」


ファナがこの国に戻って来て、まだそれほどの時間は経っていないが、ラクトが見捨てない国なのだ。それだけで、何となくわかる。


「王様のこと、兄さんは狸親父とか言ってたし、悪い人じゃなさそうだもの。ダメでも、娘を見捨てるような親を説教するくらい、兄さんならするよ」

「そ、そうですね……あの方はそういう方のような気がします……」


あの暴走状態のラクトを見たからか、それとも、以前から知っているのかは知らないが、王女は苦笑と共に、少しだけ肩の力を抜いたのだった。


読んでくださりありがとうございます◎



ユウキも慣れてきました。



次回、月曜16日0時です。

よろしくお願いします◎

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