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019 公式記録から消えていました

2016. 9. 15

小さく一定のリズムで響くノック音。


「……これ、あの人?」

「だろうな。黒い何かが見えるようだ……」


ファナとバルドは扉の方へ、引きつった表情を向けた。


「まったく、女々しいですねぇ……嫌われますよ!」


聞こえるように言われた『嫌われますよ』は、ピタリとその音を止めた。


「これでいいでしょう。静かになったねぇ。そんじゃ、ギルドカードとか渡すから」

「は、はい」


さすがは、魔女にも一目置かれるギルドマスター。的確に相手のツボを突くのに慣れているようだ。


正式なギルドカードを手渡され、お茶を飲みながら一息ついた所で、改めてとオズライルが確認をはじめる。


「ファナちゃんは、お家に帰る気はあるの?」

「へ? ありませんけど?」


その言葉で、ズドッという不可思議な音が扉の外で響いた。つられて顔を向けるが、あの人だろうと分かりきっているので無視だ。何事もなかったかのようにオズライルへと再び顔を向けて続けた。


「だいたい、親の顔も思い出せませんし、家の名前もあやふやなんです。あちらも捨てた以上、戻っても迷惑でしょう」

「それは、家に戻って来いとあちらから言われたら、戻る意思があるってことかな?」


そんな事を聞かれるとは思わなかった。ファナ自身、考えもしなかったことだ。ただし、もしも家を前にしたなら、やりたいと思った事はある。


「そうですねぇ……もし戻れと言われたら……あの人達が誇りだなんだと言って大事にしてる家を、財産ごと砂塵に変えてやります☆」

「……そんな笑顔で……」


ファナは今までにバルドが見た事がないほど、良い笑顔を見せていた。そんな横顔に戦慄していたバルドは、次に続いたオズライルの言葉に驚愕する。


「それは……是非やって欲しいねぇ♪」

「っ、マスター⁉︎」

「マジで⁉︎ お許しが出ちゃった! お任せください!」

「うんうん。あの粋がったガキどもを灰にしてやって♪」

「マスター!!」


悪い笑みを浮かべながら、オズライルとファナはクスクスと笑う。誰にも止められる気がしない。その時、また外で不可解な音が響いたが、それに助けを求める気はなかった。


《これまでの話を聞くと、主の生家の評判は良くないのか》


シルヴァが静かに言った。


「はれ? そういえば、バルドも家に仕えるのか嫌だとかなんとか……」


バルドへ目を向ければ、気まずげにそらされた。


《幼な子を森に放置するような者達だ。碌な者達ではないだろうとは思っていたが……逆に興味が湧く》

「私もそれは気になるなぁ。『貴族の娘として〜』って怒られた記憶しかなくてさ。なんか、今思い出すとすっごい理不尽な八つ当たりっぽかった気もするんだよね」


子どもの記憶など曖昧なものだ。怒られた理由も理解出来てはいない事が多い。特にファナの場合、常に怒られていたので、何で怒られたかなんて覚えていなかった。


「君の家はねぇ、ハークスっていって、侯爵の家柄だよ。当代の母親も、妻も王家の血筋を持った公爵家から嫁がれた方でね」


妻達は、何より血筋を誇りに思っていた。先代はそれでおかしくなり、早くに亡くなったらしい。


「当代は、そうやって公爵家の人間を嫁がせられる程の家柄なんだから『貴族とは格あるべき!』って凝り固まっちゃったみたいなんだよね〜」

「へぇ……メンドくさっ」

「ね〜、いやぁ、寧ろ君は逃げ出せてラッキーだったかも」

「まったくです」


深く頷くファナに、オズライルはカラカラと笑った。そして、ファナは今度は納得顔でバルドへ目を向ける。


「なるほどね。そんな家となんて、お仕事でも付き合いたくないよね」

「いや、まぁ……はっきり言うのな……」

「あ、気にしないで。言ったでしょ? 跡形もなく消したいとしか思えないから」

「……手が出るの、早そうだもんな……」


バチンバチンと、左の手のひらに右の拳を何度も突き立てる。その顔には喧嘩上等と書いてあった。


ファナは、勝たなければ死ぬかもしれない魔獣犇めく山に住んでいたのだ。喧嘩っ早いというより、常に力を見せ、勝者であり続けなくてはならなかった。


この場合は、負けたままは気持ちが悪いというのが本音だ。


「じゃぁ、キサコさんの提案通り、僕が君の後見人になっても良いかな?」

「へ? 後見人?」


家に帰るかどうかの話は、その為の確認だったらしい。


「そう、後見人。キサコさんに頼まれて、ファナちゃんの公式記録を調べておいたんだけどね。死亡届けが出てたみたいで、ファニアヴィスタ・ハークスっていう侯爵家の娘は、もう存在しないんだ」

「そんな……」


バルドは、その対応の酷さに絶句する。詳しくファナがなぜハークス家から出て魔女の弟子になったのかという経緯を聞いてはいないが、娘を死んだ事にするなど、非常識に過ぎるだろうとバルドは思ったようだ。


しかし、当のファナはあっけらかんとしていた。


「あの人達ならそういうの、ちゃんとしてそうですもん。森に行く前も、悪意しか感じなかったんで、寧ろ都合が良いです。これで、没落させても心が痛みません」

「……消すって意味合いが変わってきてないか……」

「そう? あの人達が最大限の絶望を味わえる結果にしないとって思って」


方向性は変わらないのだから。

読んでくださりありがとうございます◎



黒いです。

好戦的な子です。

お兄ちゃんの動きも気になります。



では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎


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― 新着の感想 ―
[一言] 《幼な子を森に放置するような者達だ。碌な者達ではないだろうとは思っていたが……逆に興味が湧く》 放置とは、軽い言い方ですね。確実に殺すためにわざわざ危険な森に連れて行って、すでに死んだ者と…
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