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187 呪われた王女

2018. 1. 22

セシア・ラクトフィールは、幼い頃から体が弱かった。虚弱体質というほど酷くはないが、十日に一度は程度はどうあれ、寝込むといった具合だ。


幼い子どもの頃は仕方がないと周りも重く受け止めることはなかった。けれど、その原因が時折混入される毒物だと知ったのはいつだっただろう。


確か、五才になる前のはずだ。新しい薬師を母が連れてきた頃。王宮には宮廷薬師がいるが、王族は大抵、一人ずつ信頼する薬師を担当として側においている。


セシアの場合は、側妃の子どもだということで、中々周りがそれを許さない状況だったのだ。正妃の子どもよりも早く生まれたのがいけなかったらしい。後に正妃の子どもが生まれたのは、セシアが生まれてから約三年後のことだった。


弟が生まれてから、あまり気にされなくなったのだろう。念願の薬師を捕まえることに成功したのだ。それから劇的に体調はよくなった。研究熱心な薬師であったことも幸いしたらしい。


王女としてようやくダンスや勉強に打ち込めると、張り切っていたある日のことだった。父王から贈られたその石を、叔父である侯爵が手ずから持ってきた。


「これは王からだ。美しいだろう? 中々に希少な宝石でな。これをセシアに」


父王は正妃やその子どもである王太子と変わらない愛情を母とセシアにくれた。実際、正妃や王太子とも仲が悪いわけではない。


余計な争いを避けるために、お互い近付かないようにしているが、周りの目がない所ではかなり仲良くやっている。


その不思議な輝きを持つ石は、最近忙しくて会いに来られなかった父から叔父が頼まれて手に入れてきたものだと言っていた。


ただし、この石は不思議な力を持っているらしく、子どもが身に付けるものではないと忠告された。部屋に置くことで魔を払うのだとか。


「お守りだ。この化粧箱に入れておこう。特別な日に着けるのだよ」

「分かりました。叔父様」


叔父はその石のついたネックレスを化粧箱の中に入れる。なるべくセシア以外が触れない方が効力があるからと、底の方へ隠し入れた。


「なにぶん、希少過ぎて王妃達の分まで用意できなかったんだ。このプレゼントは王と私とセシアだけの秘密だよ。いいね」

「そうなのですか……お母様にも秘密に?」

「ああ。余計な争いは避けなくては。分かるね」

「はい……」


腑に落ちなかったが、この時まだセシアは十才。頷くしかなかった。


時折、この叔父からは嫌な感じがするが、母の兄なのだ。邪険にするものではない。とはいえ、母もこの叔父を苦手としていた。だから、母がお茶会に出たその隙にやって来たのだろう。


それから時が流れセシアが二十になる時。結婚の話が出た。父王は最初、セシアを国外に出すつもりはなかったらしい。これが西の隣国になり、次いで決定されたのは東の国だった。これには色々と、政治的な思惑があるのは確かだった。


「すまない、セシア……強硬派が思ったよりも多いらしい。あそこはかつて勇者を輩出した国だ。魔族の大陸を信じ、戦いを望んでいる……辛い思いをさせるな……」


東の端。その国は教会との結び付きが強く、聖地とも呼ばれている。神を信じていないわけではないが、それほど敬虔な信者ではないのだ。少しばかり不安だった。


「いつでも帰ってきなさい」

「そんな……私、頑張ってみます」


それが国の、父王のためだと信じて嫁ぐことを決心した。


結婚の儀は、何事もなく進んだ。しかし、嫁ぐ時にあちらからおかしな指定があった。


「あの石のネックレスを?」

「うむ。あれは、神が与えた特別な石なのだ。必ず着けるようにな」

「はい……」


伝えにきた叔父の様子には少々違和感を覚えたが、それを着けることにした。婚礼の衣装には不似合いなそれを、セシアは不思議に思いながらも着けたのだ。


夫になった人とは、結婚式の日以来、ひと月もの間、会うことがなかった。セシアよりも病弱らしいと知り、不安になった。


「嫁いできた意味はあったのかしら……」


そう思ってしまうほど、夫とは顔を合わせる機会がなかった。けれど、必ず石は身につけていろと言われていた。子どももできず、夫に釣られるように体調を崩す日々が続いた。ただ閉じ込められる生活。


そうして、二十五になったその日。夫との会食で飲んだワインに毒が入っていた。油断していたのだ。もうここには、側妃やその子どもであるセシアを邪魔に思う者はいない。そう信じていた。


飲んだ瞬間に喉が焼け付くように痛んだ。気を失ったが、連れてきた薬師によって一命は取り止めた。それでも数日間、目を覚まさなかったという。そして、起き上がれるようになった時に薬師が痛ましそうに顔を歪めながら鏡を差し出してきた。


「っ、こ、これはっ……」


枯れた声。老婆のようだと思った。しかし、鏡で見た自分の姿が、本当に老婆にしか見えない状態になっていることを知って呆然とした。


「なによ……っ、なんなのこれ……っ」


愕然としたまま、部屋に閉じこもり続けた。誰にも、どうにもできないことは明らかで、朽ちていくに任せようと思った。


そうして、数年が経った。姿は枯れ枝のような老婆であるのに、セシアはそれから一切、体調を崩すことがなかった。それが、また恨めしく思える。


その頃、聴こえてきた噂があった。


「魔女様の弟子らしいわよ」

「毒の霧も怖がらず、解決したらしいわ」


どんな病でも治してしまう魔女。その弟子が人里に降りてきたらしい。


もしかしたらと思った。自分を治せるかもしれない。この変異の原因を知っているかもしれない。そう思ったら居ても立っても居られなくなった。


見た目とは裏腹に、行動力も活力も大いにあったのだ。この国には頼れる者もいない。自分は嫁いだ身だから、父にも助けは見込めない。だから、自分一人で動くしかない。


そう決心した時、薬師が協力してくれた。彼は父と同じくらいの年齢だ。セシアを娘のように思ってくれている。だから一緒に城を抜け出してくれた。何日も歩いたり、馬車に乗ったりと信じられないくらい精力的に動いた。


そうして帰ってきた懐かしい祖国。そこにその弟子がいるという。一刻も早く情報を集めようと考えたセシアは、薬師に宿屋の手配を頼むと、一人でギルドへやってきた。


先ずは薬師に出会う事だ。一緒に来てくれた薬師の彼には、喉を焼いた毒が何なのかも分からなかった。薬師は、師事した者によってその知識量が異なる。


彼が知らなくても、他の薬師ならば知っている可能性があるのだ。だから、先ずは有名な薬師を頼ろうと思った。その情報を冒険者ギルドでならば拾える。そこで二人の薬師らしき者達を見つけた。


そして、魔女の弟子に出会ったのだ。


読んでくださりありがとうございます◎



頑張る王女様です。



次回、月曜29日0時です。

よろしくお願いします◎


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