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184 この兄妹の常識は

2018. 1. 1


あけましておめでとうございます◎

今年もお願いいたします。

初めて訪れたラクト王国の王都、ラクトフィール。二日後に迫った舞踏会のため、ファナとラクトバル……ラクトを乗せた馬車はその大通りを進んでいた。


「ハークス領の方が活気があるんじゃない?」


窓から見える人々の様子を見るに、予想していた王都らしさは感じられなかった。


「細かい収支や、民達の生活水準を見れば、間違いなくハークス領がこの王都より上だ」

「そうなの? ふぅ〜ん……兄さんって仕事デキルもんね」

「っ、ファナっ、ファナが褒めるなんて……お腹痛くないかい?」

「痛くないよ! 失礼な」


たまには見直したってもいいじゃないか。そう不貞腐れていれば、横で丸まっていたシルヴァとドランが身じろぐ。


《主が普段から素直ならば、兄殿もそんな返しはすまいよ。日頃の行いの賜物だな》

《シャー》

「シルヴァ。ドランまで……あんまり褒めると暴走する兄貴がいけない」


ファナは憎まれ口を叩く時、ラクトを『兄貴』や『バカ兄』と呼ぶ。これはまぁ、ラクトの日頃の行いが悪いのだ。


「今回は頼むからね。ジェイクにも散々言われたけど、暴走禁止」

「む、わ、分かっている」


こんなラクトだが、他の貴族達からは冷酷、非情、悪魔、やり手という評価を受けているらしい。若くして侯爵家の当主ということもあるが、やはり、かつて卒業した学園での成績や、剣の腕などが一目置かれる要因であるようだ。


「今日はお茶会とかあるんでしょ? その間、ちょっと王都散策してくるよ」

「なっ、一人でかっ!? なら、お茶会などブッチしてっ……」

「するな。シルヴァもいるし、トマとノークも連れて行くから」


ファナの弟子になった薬師のトミルアートとノークも、今回連れて来ている。今は馬車の後ろで馬に乗って付いてきているはずだ。


《主、もう一人忘れているのはどうする?》

「ん? ああ、ユウヤの事? 今回は兄さんが連れ歩くって出がけに言ってたから、連れて行かないよ」


ユウヤ……本名は時崎裕也ときさきゆうやというらしい。異世界、ファナの師匠である渡りの魔女の故郷と同じ世界からやってきた元勇者だ。


こことは他の世界で、魔王を倒すために召喚されたユウヤは、倒せば帰してくれるという言葉を信じて戦った。だが、全てが終わった後、帰す術はないと言われたらしい。


裏切られたことで怒り狂ったユウヤは、その世界を滅ぼさんとした。しかし、最後の力で召喚した者達がユウヤを別の世界へと転移させたのだ。


その世界でユウヤは帰る方法を知るため、自ら魔王となった。これにより、ここでも勇者が召喚された。しかし、やはり帰す方法だけはなかった。


ここで召喚された勇者は、世界を恨んで死んでいったという。死の間際にその勇者から力を譲り受けたユウヤは、世界を転移する力を手に入れた。


だが、望む元の世界には一向にたどり着けない。だから、またこの世界でも魔王になって勇者を召喚する召喚術から、帰還方法を知れないかと考えたらしい。


ただ、この世界では誤算があった。それは、元々が召喚術自体ない事と、魔王はただ一人であると魔族と呼ばれる者達が定めていたということだ。その魔王というのが、ラクトだ。


一度はラクトに挑んだユウヤだったが、手も足も出なかった。色々と迷惑を掛けたこともあり、ユウヤの身柄は、ラクトが預かることになったのだ。


「王宮にいい思い出がないって言ってたけど、兄さんの護衛として育ててるんだから、慣れてもらわないと困るよ」

「一緒にいるならファナとがいい……」

「子どもみたいなこと言わないでっ。ちゃんと仕事してきなよ」

「ご褒美が欲しい」

「……真面目な顔で何言ってんの……」


寧ろキリッとした表情でファナを見つめるラクト。訳がわからない。


「はぁ……はいはい……考えとく」

「よしっ、ファナがカッコイイと思うくらい、凄い兄さんを見せるからなっ」

「楽しみダナ……」


期待はしていないファナだ。


《兄殿、頑張ってくれ。心配はない。主は我らが見ているのでな》

「頼む」


今回の舞踏会に出ること自体、ファナは嫌で面倒だと思っているのだ。これ以上拘束すれば、そのまま逃走しかねないと、ラクトも分かっている。


今回のような、王太子妃の座を狙っている令嬢達ならば、本来、もっと何日か前に王都入りしているのが当然で、その間に何度もお茶会などで他の令嬢達を牽制する。


戦いはもう始まっているはずなのだ。しかし、王太子妃に全く興味がないファナとしては、ただ義理で参加しようとしているに過ぎず、そんなファナへお茶会に出ろというのは酷である。何より、出たら出たであまりよろしくない状況を作り出すだろう。


《主が茶会なぞに出たら、それこそ兄殿が王にでもならねばならんくらいに暴れそうだしな》

「なによ。そりゃぁ、嫌味のお返しとして、一週間くらい腹を下す薬とか、半月眠れなくなるやつとか、温かいものがひと月くらい食べれなくなるやつとか飲ませてやるけどね」

「ファナ……舞踏会では自重してくれよ?」


魔女の弟子であるファナならば、薬の一つや二つ苛立ちに任せて飲ませそうだ。一応は、注意しておくラクトだが、そこはファナに比重が大きく傾き過ぎているシスコンだ。


「三ヶ月ぐらい声が出なくなるやつくらいなら良い?」

「いいだろう」

《いいわけあるかっ! 兄殿!!》

「んん? かなりの譲歩だろう?」

《我がなぜ、人の常識を説かねばならんのだ……》

「ドンマイ」

《主は少しは反省せよ!!》


ファナには無理な要求らしかった。


読んでくださりありがとうございます◎



世話をしているのはシルヴァみたいです。



次回、月曜8日0時です。

よろしくお願いします◎


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