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018 縁とは

2016. 9. 13

男は、ファナを妹と言った。


「へ? 私が妹……?」


男の顔を確認する。彼は、バルドを睨みつけ、肩を怒らせていた。


「あ……」


その瞳の色彩を見て思い出す。そう、シルヴァと同じで瞳の色が左右で違うのだ。


陽の光が差し込む廊下では、その瞳の色がはっきりと認識出来ないが、記憶の中のその瞳の色は、右が黒で左が薄い緑だった。


「ニィに……」

「っ、ファ、ファナっ……」

「へ?」


ファナの呟きを受けて、表情が一変する。


感動に打ち震え、滂沱の涙を流し、両手を広げて駆け寄ってきたのだ。


「ファナぁぁぁ」

「うげっ」


思わずヒッとバルドにしがみつく。そんなファナと男の間に、シルヴァが割り込んだ。


《まったく、朝から騒々しい奴だ》

「なっ⁉︎」


そう言って、シルヴァは本来の姿に変わると、向かってきた男を前足で潰したのだ。


《我が主への非礼は許さん》

《シャァァァァ!》

「ぐふっ……」


無様に潰れる男を憐れに思いながら、バルドはそっとファナを下ろした。


「確かに、朝からあり得んテンションだったな」

「うわぁ……マジで兄貴かぁ……」

「ん? ニィにじゃなかったのか?」


先ほどは思わずと言ったように『ニィに』と呼んでいたのをバルドは聞いている。


「ちっさい時に、兄上って呼べなかったんだよね。 それで、ニィにって呼んでたんだ。あの人とは確か、三、四才の頃までしか一緒にいなかったし」


朧げな記憶の中で、そう呼んでいた事を覚えている。咄嗟に出てしまうほど、呼び慣れていたようだ。


「そうか。ファナがそのくらいの年って事は、学園の寄宿舎に入った頃かもな。貴族の子息はそうやって、家からしばらく離れるっていうから」


社交性を高める為、貴族の子息達だけで三年間、生活する時期があるのだそうだ。


「そうかも……行ってらっしゃいって馬車を見送った記憶がある……そういえば、さっきみたいな顔を見たような……」

「さっき……あのタガが外れたような?」

「そう。あれ」


二人で顔を見合わせる。完全におかしな人にしか見えなかったのだ。


「……あんなんだったかな……?」

「いや、俺も思い出してみると、どうも妹の話をする時だけ、妙な感じだったかもしれん。他の話をする時は、結構な男前だったんだけどな……あの崩壊の仕方はそれだ」

「それって、病気?」

「ある意味、心のな」

「ふ~ん」


気の毒なものにしか見えなくなった。


「落ち着いたかな? そこの若様はそのままでいいから、お茶でもしないかい?」


そう誘ってきたのは、オズライルだ。それならばと、ファナとバルドは部屋へ入った。その後に、シルヴァとドランも続く。


「あいつ、起きない?」

《完全に落ちた。しばらく起きんだろう》

「そっか」


頭を打っているのかもしれない。完全に気絶しているようだが、それ以上、気にする気分になれなかった。


椅子を勧められ、ソファに腰掛ける。横に保護者役のバルド。向かいにオズライルが座った。


シルヴァは大きな獅子の姿のままファナの足元に寝転ぶ。ドランも朝早かった為か、もう既にシルヴァの背中の上で眠っていた。


「では、改めて。オズライルじゃ。よろしくね」

「あ、はい。ファナといいます。こっちは相棒のシルヴァと、ドランです」

「うんうん。さすがは、キサコさんの弟子だねぇ。白銀の王を相棒にするとは」


オズライルは、嬉しそうにシルヴァを見た。その視線を受け、シルヴァは目を開く。そして、オズライルの後ろ。天井近くの壁に飾られている剣を見て、むくりと顔を上げた。


《ふむ。おぬし……黒剣か?》

「黒剣?」


シルヴァが見ているものが剣だと知り、ファナもそこへ目を向ける。その剣は、確かに刀身が黒かった。


「ふぉっふぉっふぉっ。覚えていてくださったとは光栄ですなぁ。王と切り結んだのは、一世紀近く前ですがな」

《それほどか? まぁ、我に挑んできた最後の人であったからな》

「そうでしたか。それはお恥ずかしい」


どうやら昔、シルヴァに挑んだ事のある冒険者だったらしい。今の姿からは、全く想像できないが『黒剣の戦士』という二つ名を持っていたという。


《小さくなったな。人とは大きくなるものではないのか?》

「もう年ですからなぁ。縮む一方ですわ」


久し振りに友人に会って喜んでいるようにしか見えなかった。バルドとラクトの再会と比較してしまうのは少し可哀想かもしれない。


「えっと、それで、これが師匠からの手紙です」

「おぉ、忘れとりましたわ。はい、確かに。中を確認させてもらいますね」


手紙を受け取ったオズライルは、手紙を開いていく。ユズルの町で一度、ブランに渡したが、封は開けていなかったようだ。宛名書きと封蝋を確認しただけだったらしい。


手紙に一通り目を通したオズライルは、クスリと笑う。


「ファナちゃんは、本当に大事なお弟子さんだったようだねぇ。いやぁ、キサコさんがこんな事を頼むなんて」

「その……キサコって師匠の名前ですよね? オズライル様と師匠はどういった関係なんですか?」


キサコというのは、魔女の本当の名前らしい。生まれた時に親からもらった名前で、そうそう人には教えたりしない。魔女で通っているのだ。その為に二つ名もある。


それを知っているという事は、かなり親密な関係だという事だ。


「いやねぇ、もっと僕が小さい時に、キサコさんがこの世界に来た事があるんだよ。その時に剣を教えてもらってねぇ。それと、僕の初恋の人だよ。いつか帰ってくるって約束してくれたんだ。死ぬ前に会えてよかったよ」

「はぁ……そうだったんですか」


そういえば、この世界の書物は、他の世界の書物よりも多かったように思う。年季の入った物もあったように感じた。


「また会えるかもって、君にも言っていなかったかい?」

「あ……」

《言っていたな。『いつかまた』と》

「うん」


そう魔女は言った。別れの日を告げられた数日後。落ち込むファナに言ったのだ。


『そう落ち込むでない。必ずとは言えんが、この世界にまた戻ってくる事もあろう。我は渡り、流れる者じゃが、我とおぬしの間には強い縁が結ばれておる。いつかまた会えるじゃろう』


その時は、きっとファナも年老いているかもしれないなと笑っていた。


「出会えるものじゃよ。思いがあればの。ほれ、あの若様とも会えたじゃろ?」

「……あれは思いより、執念なんじゃ……」

「バルド、それ言わないで……」


あれは思いが繋いだというより、間違いなく彼の執念だろう。妄執とも言える。


そしてそんな時、扉を寂しく叩く音が響きだしたのだ。



読んでくださりありがとうございます◎



何十年か経っての再会は、貴重で楽しいものなのでしょう。

おじいちゃんは嬉しそうです。



では次回、一日空けて15日です。

よろしくお願いします◎


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