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179 黒く染まる

2017. 11. 20

ランドクィールは、ファルナに今すぐ会いに行けないもどかしさを怒りへと変換し、騎士の男に雷電を放つ。


そのタイミングは、フィムルとトルマが床に転がされ、男がトドメとばかりに剣を高々とあげたところだった。二人はランドクィールが助けてくれたと驚きに満ちた目を向ける。


その雷電を咄嗟に青黒い力を纏った剣で、騎士は叩き斬ろうとした。しかし、そんな都合よくはいかない。


雷電は剣に巻きつき、シャウルの欠片を砕かんと力を発揮していた。


「くっ、卑怯だぞっ」


なんとか耐え抜いた騎士の手元。その柄に埋め込まれるようにして付いているシャウルの欠片には幾本もの細かい筋が入っているように見えた。


「魔王! 貴サマァァ!!」


何かに取り憑かれた者のように、強い感情に支配された男が駆けてくる。これに呼応しているのか、青黒い光は男だけでなく、周りにも広がろうとしていた。


ランドクィールはそれを見て不快に顔をしかめると、片手を一つ振るだけで男を弾き返す。


魔王の呼び名は伊達ではない。息をするように魔力を扱い、それを術とする。


元の位置よりも後退させられた男は、先ほどよりも更に怒りの感情を表情に乗せているようだ。しかし、体勢を立て直した男は、人らしからぬ声で吠えた。


「うグォォォっ」


体に纏っていた青黒いものが、まるで体にそのまま染み込むように肌を徐々に染めていく。どう見ても、シャウルの力によって我を忘れている。強力過ぎたのだ。


「……支配されるか……」


ランドクィールは男に呆れる。自分の優位を悟っていたであろう男は、今や自我を失っていた。


「イジー……っ」

「何よあれ……」


転がされていたフィムルとトルマも呆然とその様を見る。見るに耐えないその様子を見て混乱しているのか、トルマはランドクィールへ問いかけた。


「どうなってるのっ? 何か知っているなら教えてっ」

「……どうも何も、強過ぎたのだろう。考えてもみろ。アレの影響によって、我らは変化した。お前達と変わらなかった人が、放置されたまま数十年その影響を受けただけで、長い寿命と高い魔力を得た。それだけの力を与える物だぞ? 欠片であっても、直接力を引き出して使えばどうなるか分かるだろう」


シャウルによって、同じ能力しか持たなかった者達が、魔族と呼ばれるほどの力を手にした。その影響力は計り知れない。


大きな物であったとはいえ、この大陸全土に影響を及ぼし、消滅した後も未だにその生態を維持し続けている。異常以外の何ものでもない。


「どうにか……ならないのっ?」

「この大陸の歴史から考えても、一度受けた影響……変化は取り消し不可だ。ただし、あの欠片……消滅させねばこの場にも影響をもたらすぞ」

「何よそれっ、もういいわ! フィムル、私達が連れてきたんだもの、私達でやるわよっ」

「当然だっ」


トルマ達は、自分達の始末は自分達でと思っているのだろう。そうして、魔力を放つ。しかし、二人は次の瞬間、目を見開いた。


「ちょっ、こんな火力望んでないっ」

「くっ、聖剣から力がっ」

「さっそくか……」


なんのことはない。シャウルの欠片の影響で、二人の能力が上がったのだ。それも、突然の上昇により、二人とも制御できていない。


トルマが放った炎は、男を取り巻き赤々と燃えていた。振りかぶった聖剣の一撃は、光を纏って男の肩に深々と食い込む。


「グァァァッ」


叫び声は更に獣じみてきており、痛みを感じながらも、剣を振って二人を跳ね飛ばした。


「きゃぁっ!」

「グゥっ」


二人は束の間宙を飛んだ。それほどまでに強い力によって跳ね飛ばされたのだ。壁に背中から叩きつけられると、二人は呻きながらも動けなくなった。


「グゥゥゥっ」


唸り声を発しつつ、男はランドクィールへ向かって歩き出す。敵となり得るのは、この場でランドクィールだけだと本能で感じているのだろう。


ランドクィールは、男に向けて手を上げる。すると、十数本の光の矢が空中に現れる。それに意識を集中すると、矢は欠片へその先端を向ける。そして、手を風薙ぎ払うよう振ると、それらは真っ直ぐにシャウルの欠片へと飛んでいった。


「グフ」


男が笑ったように見えた。半分程が欠片を傷付ける。しかし、残りの数本は、青黒いものに巻き付かれ宙に留まり、抵抗されつつもその方向を変えていく。


「シネ」


取り込まれようとしていた光の矢が、ランドクィールの方を向いた時、それはもう黒い矢になっていた。放たれた物を風の力で叩き落とす。それで砕いたはずだった。


「くぅッ」


黒い矢は消える事なく、次の瞬間、ランドクィールの肩や腕、足に刺さっていたのだ。


ニヤリといやらしい笑みを浮かべる男の顔を、忌々しく睨みつける。するとそこに、場違いな高い声が響いた。


「お父様っ!」

「っ!? ファナ……っ」


弓を担いで勇ましく武装したファルナが部屋の入り口にいたのだ。


読んでくださりありがとうございます◎



ファルナちゃんも登場。



次回、また来週月曜27日0時です。

よろしくお願いします◎


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