177 カケラを持つ者
2017. 11. 6
大切な友人を一度に失ったランドクィールは、玉座に腰掛けたまま、組んだ腕を片方だけ解いて頭をのせている。
その胸の内には、痛いほどの悲しみと怒りが渦巻いていた。しかし、傍目には恐ろしいまでの静けさと冷徹な空気を纏っている。
これを見て、勇者としてやってきた青年フィムルとトルマは、西の大陸で語り継がれる魔王という悪しき存在としての印象を深めることになった。
フィムルが警戒しながら携えていた剣を構えて、当たり前のような確認を口にする。
「お前が魔王か」
「……」
フィムルが言う『魔王』は、悪しき存在としての意味だ。しかし、この国での『魔王』は魔力や魔術の扱いに最も優れた魔を統べる王という意味がある。
『魔王』と呼ぶ響きの微妙な違いに気付き、ランドクィールの苛立ちは募っていく。
一度は尋ねたフィムルだが、膨れ上がっていく怒りの気配に怯え、混乱し、正常な判断が出来なくなってくる。
トルマは既に喉を凍りつかせており、体は小さく震えていた。
辛うじて残っていたランドクィールの思考は、そんな彼らを憐れに思った。だから、努めて静かに声を発する。
「何ゆえ、この地を踏んだ。ただ蹂躙する為と言うならば、私はお前達を排除せねばならん」
「っ……お、俺達はっ……っ」
その時、フィムルとトルマの背後、扉の向こうから一本の光る弓矢が飛んできた。
真っ直ぐにランドクィールの正面に飛んでくる矢。しかし、それはランドクィールに届く前に何かに阻まれたようにぶつかり、霧散する。
これを見て、フィムルとトルマはようやく誰かが後ろから来た事に気付く。
振り返ると、そこには一人の騎士がいた。もちろん、二人と一緒に来た騎士の内の一人だ。だが、二人は訝しむ。ここに来るまでに見せていた様子と、雰囲気がガラリと変わっていたのだ。
「イジーさん……一体……」
フィムルが尋ねると、イジーと呼ばれた騎士は不敵に笑って見せた。その瞳には狂気が宿っている。
「力はあっても、巨悪の前で震えるようでは使えんな。そっちの女も、気が強く見えてやはり女か」
「なんっ……」
ゆったりとした余裕のある足取りで扉をくぐり、卑しい笑みを浮かべる男。そんな男を見て、ランドクィールは頭を切り替えた。
「お前……語り部か」
「語りべ……?」
トルマは、予想できなかった事態を受けて冷静になろうとしており、お陰でランドクィールの言葉を聞き逃しはしなかった。
「語り部がなんで騎士なんてしてるの……?」
疑問に思うのは当たり前だろう。これに、イジーはニヤリと笑って見せただけで、口を開こうとはしない。だから、代わりのようにランドクィールが推測を口にする。
「語り部の中の強行派の者か。大方、こちらの大陸の三神獣と契約を交わした私を撃とうと、その二人が現れたのを好都合と見て、直接乗り込んで来たか」
「さすがは魔王。これだけの大陸を苦もなく統治する王だ。あちらの打算でしか考えられん愚かな王達とは違うようだな」
「…….否定は無しか」
フィムルとトルマの反応を見れば、イジーという男との関係は、同行する騎士としてしかないと分かる。
イジーの態度は、より一層不敵に装うようになる。
「これから死に逝く方には誠意を示そうと思うまで。仮にも騎士を名乗っている身ゆえにな」
「よく回る舌だ。さすがは語り部だな。それでお前……何を持っている?」
ランドクィールは、先ほどから男から感じる力を気にしていた。九尾が言ったはずだ。『欠片』を持っているようだと。
「ははっ、お気付きか。これは天から授かった力」
「……やはりシャウルか……」
男はどこか恍惚とした表情を見せながら、手に握っていた物をこちらに向けて見せびらかす。
「これがあれば、お前にも勝てる!」
そう言って、イジーは持っていた剣の鍔にあった窪みへ小さな石をはめ込む。すると、剣は怪しく黒と青の光を纏ったのだ。
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黒幕的な人です。
次回、また来週月曜13日0時です。
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