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175 駆けつけた先で

2017. 10. 23

王都へ向かうと言ったファルナへ、美女達は困惑の表情を見せる。しかし、すぐに彼女達は行動に移した。


反対した所でファルナの意思は曲げられないと理解した美女達は、馬を一頭ファルナへ用意したのだ。


ファルナには大き過ぎる馬。体高は、まだ十歳の少女ではあるファルナの身長より少しばかり高い位置にある。それでも鞍にさえ手が届けば、ファルナは飛び乗る事ができた。


美女達が選んだ馬はとても頭が良いらしい。お陰で鎧に足が届かない状態でも手綱からの指示だけで難なく動いてくれた。そして、一時間とかける事なくファルナは王都へ帰還を果たす。


「……もう来てる?」


城に近付くと、その気配が感じられる。全部で八人。報告にあった五人と、ノバ、バルトローク、そしてランドクィールだろう。


「父様のいるのは……これは……確か謁見の間……」


ほとんど使う事がないといわれていた謁見の間。いっそのこと、物置にでもするかとまで言われていた場所だ。


それでもランドクィールの代の後は使う可能性があるかもしれないからと、イーリアスや重鎮達が揃って反対していた。


ファルナが来てから四年。本当に使われることはなかった。そんな謁見の間にランドクィールがいる。


そこへ向かっていく者が二人いるようだ。


「……これはノバとバルじゃない……」


慣れ親しんだ気配ではない事に焦る。急がなくてはと馬に乗ったまま城へ突入する。


幸い、城の通路はどこも広く天井も高い。普段ならば人がいるので絶対に無理だが、今は不意に飛び出したりする者もいない。これは都合が良いと躊躇いなく城の中を馬で駆けた。


真っ直ぐに謁見の間まで突っ切ろうとしたファルナだったが、激しい物音が耳に届いた事で慌てて馬を止め、方向を変えた。


「あっちは……っ、ノバっ」


ノバは魔術がそれなりに使えるが、戦闘に特化してはいない。城内の気配を探れば、ここより離れた所でバルトロークの方に二人接触しており、ノバの所に一人いる事が分かった。


「ノバっ!」


嫌な予感がする。衝動に駆られるまま馬を走らせ、ノバのいる所へ急ぐ。そこでまた大きな音が響く。ふとノバの気配が希薄になった気がした。


「っ!?」


嘘だと思いながら、気配を必死で探る。


辿り着いたのは、武器庫の前。武器庫自体には鍵がかかっており、更に、どうやらノバがその人の侵入を阻止しようと立ち塞がったらしい。


その扉に寄りかかるように、血だらけになったノバが目を閉じていた。


「っ、いや……いやぁっ!!」

「なんだ? 子ども?」


ノバの前にいる男に向かって、ファルナは馬でそのまま突進した。


「お、おいっ、なっ!? 止まれぇぇぇっ!!」


ノバの前に滑り込むように馬を操る。その際、男は馬の足に引っかかり、床を転がっていた。


ファルナは馬からひらりと下りると、ノバが握っていたらしい剣を拾い上げ、男に斬りかかった。


「よくも、ノバをっ!!」

「ぐっ!?」


起き上がろうとしていた男を正面から斜めに斬る。ついでのように腰にある小さな鞄を跳ね飛ばし、次に躊躇いなく剣を男の腹に突き刺した。


「あっ……うぅぅっ、あ、悪魔……っ」

「違うっ。私は魔王の娘だ! 悪魔はお前達の方だろう!! 苦しみながら死ねっ」

「っ……!」


男はその痛みに耐えるだけ。飛んで行った鞄に治療薬が入っているかもしれないから、それは拾って窓の外に投げておく。


男がファルナが嫌いな騎士であった事で、殺すという行為に、全く忌避感を持てなかった。大切な人を傷付けた相手を人と認識できなかったということもあり、ただの害あるモノでしかなかった。


ファルナは馬の足元に守られているノバの所へ歩み寄る。息はもうしていなかった。ノバは肩から斜めに斬られており、腹から大量の血を流していた。そう、男にファルナがしたのは、ノバがやられた斬り方だった。


ノバの状態を一目見て、ファルナはそれを読み取ったのだ。


「……ノバ……終わったらまた来るね。だから、もう少しここにいて……ごめんね、ノバっ」


遅くなってごめん。こんな事になってごめんと涙と共に謝る。そこで、城が揺れるほどの振動を感じた。


「っ……これは……バル?」


窓から見えた所。そこから煙が上がっている。その場にはバルトロークの気配があるのが分かった。


「っ、バルっ」


行かなくてはと思った。


けれど、未だ呻いている男へ目を向ける。このままノバを置いておけば、男が最後のあがきといって何かするかもしれない。


それは許せない事だ。だからと言って今すぐに男を楽にしてやる気もない。どうすればと考えている所に、ひょいと窓の外から小さなイリタが入ってきた。


「っ、イリタ……なんで……」


突然こんな場所になぜだろうと驚いていれば、そのイリタが言葉を発した。


《嬢ちゃん。俺がそいつを見ててやるよ。お嬢ちゃんは行きな》

「喋っ……もしかして、黒ちゃんとおんなじ?」


黒霧と同じような気配だという事に気付き、確認してみる。


《よく分かったな。そうだ。俺は九尾。なぁ、嬢ちゃん。ダメ元で提案するが、このまま城を出てはくれないか?》

「……なんで……?」


その提案は呑めない。不満を露わにすれば、九尾は妙に人っぽい動作で肩をすくめて見せた。


《その感じじゃ、やっぱ引いてくれそうにないな。いや、俺は未来が見える。今、嬢ちゃんが来た事で未来は変わった。それでも主の死の未来は避けられないらしい……空の欠けらが近くにあり過ぎて断片的な未来しか見えねぇけど……それでも死ぬ》

「主って……父様のこと……」

《そうだ。けど、嬢ちゃんも危なくなる未来が見える。主は、嬢ちゃんにだけは無事でいて欲しいはずだ。だから……帰ってくれないか?》


その提案は頷けないものだった。


読んでくださりありがとうございます◎



頷けるはずがありません。



次回、また来週月曜30日0時です。

よろしくお願いします◎


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