173 城へ
2017. 10. 9
勇者達が王都シャウルに着いた時。王都や城には人がいなくなっていた。
それを、彼らは普段からそういうものなのかもしれないと、その時は誤解した。
「……不気味な町……猫の子一匹いないなんて……」
王都は空だ。彼らに被害を受けないよう、魔王であるランドクィールの命の元、東の方に避難していたのだ。
彼らにはこれこそが魔王の統べる、寂しい町なのだと感じられた。その力に恐怖するが故、人々が近付かないのだと思ったのだ。避難しているとは微塵も感じていなかった。
だから、気にすることなく、五人は揃って城へと向かった。
ランドクィールは正面の門を大きく開け放っていたのだ。それは常に開いているものなのだろうと思わせるほど、無抵抗に開いたままになっている。
「城はあちらですね」
やる気に満ちた騎士達はズンズンと城へと向かっていく。
「待ってくれ。約束は忘れていないか?」
「ええ……無抵抗な一般民には手をかけない……でしたね。心得ております」
勇者、フィムルとトルマは騎士達にここに来るまでの間に約束させた。無闇に戦う気のない民達を傷付けないようにと。
幸い彼らは、二人の実力を知っている。自分達よりも強いという事が理解できているのだ。お陰で、不服そうにしながらも話を聞いてくれると信じている。
だが、信じているのはフィムルだけだ。トルマはいまいち信用していない。だから、騎士達よりも早く魔王とファルナを見つけなくてはと考えていた。
城に入ると、そこには白く美しい壁を持つ町が広がっていた。とはいえ、どこも通路で繋がっており、複雑に入り組んでいるようだ。
「すごいな。これならば、雨の日も気にする事なく町中、どこへでも行けそうだ」
「本当ね。というか、町じゃなく一つの城なのかもしれないわね」
必要となる部署だけでなく、建物も全て渡り廊下で繋がっている。それでいて、全部空が覆われているわけではないのだ。狭いという感覚も受けることなく、とても移動しやすそうだと思えるものだ。
フィムルとトルマは素直に感心しているのに対し、その後ろにいる騎士達は表情を険しくしていた。
「これほどとは……」
「やはり危険だ……」
「……」
騎士達は、これまでも通ってきた町の様子や、民達の暮らしぶりを確認していた。
彼らは戦うことだけではない。文武全てに秀でた者達。考える頭も持っている。ただ、魔族を深く憎んでいる事。大陸を代表した者であるという矜持。それらが、ほとんど無抵抗の一人の相手に三人で痛め付けるという愚かな行動に走らせていたのだ。
「建物を見ても、文化レベルが高いと分かる」
「ああ。それに、これまで見た中で孤児やスラム街といったものを見ていない」
「町も清潔だ。もしかしたら、人がいなかったのは避難させたのでは?」
「ありえるな」
「魔王は……王だということか……」
「っ、認められんっ」
そんな三人の会議など、先を行くフィムルとトルマには聞こえていなかった。
この騎士達の役目は、魔族の国の現状をその目で確認してくる事。そして、自分達の国よりも優れているというなら、それを叩き潰さなくてはならない。
何より、これだけの大陸を一人で治める賢王などいてはならないのだ。
そして、三人は行動に移す。
「勇者様。我々はあちらから見て参ります」
「そうか。確かに、これだけ広いとどこに王がいるか分からないからな」
「分かっているとは思いますが、私達が合流するまで王と接触しないように。これを持って行ってください。見つけたらすぐにこれで合図を」
それは小さな玉。割れば、対になる玉に一本の光を届ける。これを辿ればその場所が分かるというものだ。
「分かりました。では」
騎士達は駆け足で城の奥へと向かっていった。
「大丈夫かしら……」
「そうだな……彼らが見つける前にファルナを見つけよう」
「ええ……でもここにはいないかもしれない。ここを見て思ったわ。町に廃れている所は見られなかった。だから、多分、王が私達の事を知って避難させたのだと思うの。そんな事をする王なら、一人でここに残っているかもしれないけど、娘にしたファルナをここに残しているとは思えないわ」
「……それはあるな。聞いた所だと、本当に王はファルナを可愛がっているようだし……」
ここへ来るまでに聞いたのだ。王は娘であるファルナを溺愛しているのだと。
「行きましょう。急いだ方がいい気がするわ」
「ああ。王に会おう」
そうして、二人も騎士達が向かった方とは違う城の奥へと向かって行ったのだ。
騎士達と二手に分かれた事が最悪の事態を招くとも知らずに。
読んでくださりありがとうございます◎
ついに城に乗り込んできました。
次回、一度お休みさせていただきます。
来週月曜16日0時です。
よろしくお願いします◎




