168 待つ間に
2017. 9. 20
ナナリアは昨晩から情報収集で駆け回っていたらしく、休んだのは数時間だった。
それを心配しないでもなかったが、ナナリアは騎士だ。国の一大事が迫っているとなれば関係ない。イーリアスに言われ、先に王都へ出発することになった。
「では、くれぐれもお気を付けてお帰りを」
「ああ。王を頼みます」
「ナナちゃんも気を付けて」
「はいっ」
別れたのは朝食を取ってからだ。さすがに食事だけはしっかり取ってからにしてくれとファルナが頼み込んだのだ。だが、そのおかげか寝不足が気にならないくらい顔色は良かった。
「私たちは冒険者ギルドへ行きましょう」
「うん」
国の騎士や兵とは違い、冒険者と呼ばれる者達は自分達が生きるために仕事を受ける。その仕事は多岐に渡るが、多くは町から町へと渡る商人や力のない旅人の護衛業が主なところだ。
力がないというのは、森や平原に棲む魔獣と戦う手段を持つかどうかだ。この大陸では、人と同じようにシャウルの恩恵を受けた強力な力を持つ獣がいる。それは、ほとんど町を襲うことはないのだが、町から町へ向かう間には彼らの棲む場所が多々存在する。
なるべくならば避けて通りたいところだ。誰も好き好んで危険な獣のテリトリーに入りたくはない。安全な街道を見つけ、時に人を襲う獣達を狩る。それが冒険者と呼ばれる者達の仕事となる。
冒険者ギルドとは、そんな冒険者と依頼人の橋渡しをする組織のことだ。
大きな町にはたいてい支部が置かれており、大陸中の冒険者ギルドと連絡を取り合っている。
西の大陸にも同じように冒険者ギルドがあるが、あれは民間の組織だ。国に所属することなくまとまっている。しかし、この大陸の冒険者ギルドは、国がバックについている。そのため、国の予算にギルドの運営費も算出されているのだ。
それだけ信頼も置ける組織だった。
「では、王都までですね。昼頃までに集めますので、昼食後にでも、またいらしてください」
「お願いします」
隣の町までという事ならば、すぐにでも人数を確保できただろうが、ファルナ達が向かうのは王都だ。距離からしても、少々の覚悟がいる。一日や二日の行程ではないのだから、力とは別に信頼できる者かどうかというのも重要になってくる。寝込みを襲われては堪らない。
そこのところは、ギルドが責任を持つのだが、難しいものではある。そんな事情も理解しているファルナはイーリアスに確認した。
「イー様、身分を伝えなくて良かったの? 正しく伝えてたら、確実に信頼できる人を手配してくれたと思うよ?」
先ほど、ギルドでイーリアスは商家の祖父と孫娘だと身分を偽ったのだ。これを、宰相と王の娘だと言えば、ギルド側も慎重に人選をしてくれるだろう。それこそ、寝込みを襲われる心配をしなくても良いような人選だ。
「ええ。ですが、少々危険でも速さを優先させたいのです。人選のために一日を無為に使うことになります。それよりも、半日でも早く王都に向かうべきでしょう。なにやら嫌な予感がするのです」
「そっか……うん。私もそんなに時間をかけてられないって感じはしてるから。もし危なそうなら、途中の町でまた雇い直せばいいよね」
「そうですね。そうしましょう」
イーリアスも不安ではあったらしい。ファルナの提案に頷いた。
旅立つに当たり、少々の食料は携帯しているべきかと考えたイーリアスとファルナは昼までの間、町で買い物をすることにした。
「この鞄に入れれば、生ものも大丈夫だし、どれでもいいよ」
「そういえばそうでしたね。そろそろ、その鞄の試作品もできると聞きましたが、本当に便利です」
ファルナの持っている鞄は、魔女の作ったものだ。生き物以外は、鞄の口に入る大きさであれば何でも、いくらでも入る。その上、中に入れた物はその時の鮮度を保つので、それこそ、出てきた料理をそのまま保存する事ができる。
現在、王都ではこの鞄の機能を研究し、複製できないかという実験中だ。もう一息で試作品ができるという所まできていた。
屋台で売られている食べ物を摘みながら、ファルナとイーリアスは鞄にしまいこんでいく。見咎められないように注意しながらだが、ファルナの手際は良かった。
「姫様……あまり良い手グセとは言えませんな」
「あはは……父様にも注意されたよ」
「左様ですか……」
既にプロレベルの手際だった。勿論、悪い手グセの方でのプロだ。人混みなら、隣をすれ違った人の鞄から色々手に取れそうなものだった。
話題を変えようと、ファルナはイーリアスへ当面の呼び方について提案しておく。
「イー様、設定からいけば私は孫娘。だから、ファナって呼んでくださいね。イー様の事はお祖父様と呼びます」
「そ、そうですね……分りました。ファナ……で宜しいですか? 王が聞いたら何か言われそうです……」
「父様はいないんだから、大丈夫だよ……多分……」
親バカな父の万能性を少々どころではなくかなり疑う所だ。こうしていても、話を聞いていそうで怖い。
そんな緊張感を持っていたからだろうか、ファルナはビクリと建物の間に縮こまっているらしい者に気付いて立ち止まる。
「どうされました?」
イーリアスも不思議に思いファルナが目を向ける場所を見る。
そこには、苦しそうにうずくまる青年がいたのだ。
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怪しい青年発見。
次回、月曜25日0時です。
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