167 怪しい一行
2017. 9. 18
その日、ファルナは宰相のイーリアスと護衛の女騎士のナナリアに着いて、大陸の南にある鉱山へ来ていた。
ただ、ファルナ達が立ち寄ったのは鉱山の中ではなく、少々離れた職人の町だ。その中の鍛冶屋で、目当てとする鉱石と、それから作られた懐剣を見せてもらっていた。
職人さんは黙っているので、イーリアスが解説してくれる。声が聞こえなければ、孫と祖父に見えるだろうか。そうでなければ教師と生徒だ。
「これがヒブラ鉱石?」
「そうです。ヒブラ鉱石の加工前は、宝石のように青いのです」
「でも、剣になると黒くなる……あ、でも確かに刃先の薄い所とか、青いかも」
なぜここへ来たかというと、この大陸の子どもは、十二歳になるとそれ以降の成長速度が人によって変わるようになる。
そのため、成人と認められる十八歳までは少しでも早く成長するようにと願い、親が懐剣を贈る式たりがあるそうなのだ。
ファルナは魔族ではないので、成長が緩やかになることはないのだが、そこは式たりだからと言われてしまった。
まだ十歳だが、懐剣の発注はこの時期にするのが一般的らしい。なにせ、殆どの魔族が懐剣を発注するのだ。予約は常に埋まっている。
ただし、この場所のような鉱山は大陸に幾つかあり、それぞれ採れる鉱石も違う。よって、それぞれの場所で鍛冶屋があり、欲しい懐剣によって発注場所は異なっている。
「懐剣ではありますが、ヒブラ鉱石で出来た剣は特に丈夫で実用的です。もしもの場合の武器としても人気のある剣で、成人後は懐剣を打ち直し、実戦用の剣にする者も多いですね」
「なるほど……それを狙った?」
「ええ。貴女は剣の腕も良いですから、将来の事も考えてのものでしょう。懐剣として製作される場合、通常の剣よりもかなり純度が高くなりますから、そこも良い点の一つです」
「そっか」
こんな事でも親バカ臭が漂っていた。
発注を済ませ、町を見て回り終えた頃には日が落ちていた。今日はこの町に泊まる予定だったので、時間を気にする事なくゆったりと過ごした。
「何が食べたいものはありますか?」
「ううん。何でもいいよ。あ、でもあんまり味の濃くないやつね。お肉は食べる」
「はい。分かりました」
イーリアスは満面の笑みで答え、料理の注文をする。王宮用のVIP待遇は好きではないファルナのために、普通の宿屋の食堂でナナリアも含め一緒に食べることになったのだ。
ファルナが薄味を指定したのは、イーリアスのためだ。見た目はそれほど歳ではないが、年齢的にはかなりの歳になる。最近はあまり食欲も出ないと言っていたので、一緒に食事をするならば薄味でと思ったのだ。
ただ、それだけを指定するとイーリアスが気にするので、お肉は食べると言ったのである。
そんなファルナの気遣いをイーリアスやナナリアは気付いていたが、特に言及したりはしない。ファルナがそういう子だというのは、既に周知の事実だ。
日頃も、ランドクィールが疲れた表情を見せていると、薬草学を元にした栄養ドリンクを差し入れている。味まで考慮した一品で、ついでに差し入れた城の職員達から絶賛されていた。
運ばれてきた料理は普通に美味しいものだった。
「お肉柔らかいっ。ねぇ、リア様。ちょっとこれも食べてみてよっ」
「はい。ではいただきます」
お肉を食べるのは胃腸を強くするので歳を取っても食べられる時は食べるべきだ。そんな自論の元、綺麗に一口サイズに切り分けたお肉をイーリアスに差し出す。
「本当に柔らかいですね……ハーブの匂いも素晴らしい」
「ねっ。後で調理法を教えてもらえるか聞いてみるね。味を覚えておいて、今度料理長に教えなくちゃ」
「確かに美味しいです。これはいいですね」
ナナリアも気に入ったようだ。
楽しく三人で食事を取っていたファルナ達。その合間に、少々不穏な噂を耳にする事となった。
「……多分、それって西のだよな?」
「おう……街道をシャウルへ向かうフードの連中だ。あれはこの大陸の奴らじゃねえ」
「船を見たって聞いたしな」
「攻めてきてるってことか? けど、かなりの少人数なんだろ?」
「五人って聞いたな。勇者がどうのって話してるのを聞いたやつがいる」
「なんだそれ」
ナナリアとイーリアスは静かに聞き耳を立てていた。その緊張感をファルナも感じ、口を閉じる。何か、異変が起こっているんだというのがわかったのだ。
「イーリアス様。私は後で情報を集めてきます」
「お願いします。もし、王に危険が迫っているようならば、あなたは先に王都へ」
「ですが、それでは護衛が……」
「ギルドもありますので、護衛は雇えば問題ありません。それよりも王都です」
「分かりました」
二人は話しをまとめると、先にナナリアが席を立った。
「ナナちゃん、気を付けてね?」
「はい」
嫌な予感がしていた。
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