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164 姫様の魅力

2017. 9. 4

ファルナは城の中を元気に駆けていた。


「は〜い。おとどけもので〜すっ」


そうして駆け込んだ先は宰相の執務室だ。多くの文官達が笑顔で振り向く。


「おや、姫様。今日も手伝ってくださっているのですか?」


イーリアスが、かつて見た事がないほど表情をほころばせ、ファルナへ話しかける。


「うんっ。わたしの足がイチバンはやいもん」

「そうですね。それも正確です。本当に働き者ですね」

「えへへっ。ほめられた〜ぁ」


素直に喜ぶファルナに、部屋にいるもの達はヘラっと癒されるように笑った。


「姫様。お礼のお菓子です」

「いいのっ? やったぁっ」


これがまた可愛らしくて、ついつい何かあげてしまう。気分はもう孫か娘だ。


「この後はどちらへ?」

「『管理部』のキースさんと『研究部』にいくよ」

「研部っ、いけませんっ。あのような変人達の所へなど一人ではっ」


イーリアス達は慌てた。研究部はその名の通り、魔術や道具などを研究する部署だ。何かを突き詰める者達は、どうしてもその他がおろそかになる。城で働く研究部の者達はそれが酷く、対人スキルゼロである。


そんな場所へ一人でファルナを行かせては怖い思いをさせてしまうだろう。


「だいじょうぶだよ? あの人たち、ちゃんと目を見てはなせば、わかってくれるし」

「なっ、なんとっ。それほど近付いてはいけませんよ」

「だって、ちかづかないと気づかないんだもん。あのシュウチュウリョクはすごいよね」


ファルナは本当によく見ている。付き合う事をとうに拒否した者達とも普通に付き合っていた。


「ですが……っ、ノバ、お前が付いていけ」

「はいっ、もちろんです」

「え〜? いいのに」

「いけません」

「は〜い」


どうも心配性な人達が多くてファルナには少々困る。


そうして、ノバと連れ立って歩き出す。


「姫様。迷ったりしませんか?」

「うんっ。あ、この前ねぇ、カクシツウロ見つけたよっ。こんどおしえてあげるねっ」

「どっ、どこで隠し通路など……いえ、はい。陛下にお教えになった後で構いませんよ」

「そっか。とうさまが先だね」

「はい。お願いいたします」


ファルナはランドクィールの事を父様と呼ぶようになっていた。最初は王様と今まで通り呼んでいたのだが、せっかく娘になったのだからとランドクィールが強制したのだ。


ファルナは頭の柔らかい子どもで、すぐに呼び方を父様に切り替えた。


「あとねぇ、トショカンでおもしろい本を見つけたよ。『天翼族の天空の城』ってやつ」

「そんなものが?」


天翼族とは、古代からこの世界の空に浮かぶもう一つの大陸に住まうと言われる種族のことだ。


しかし、誰一人として実際に会ったことも見た事もない。


「うんっ。コダイゴ? ってのでかかれてるから、読むのにすっごい時間がかかるのっ」

「こ、古代語っ? あ、あれを読むのですかっ?」

「そうだよ? ちゃんとジテンもあったし。むこうで父さんがケンキュウしてたから、そんなにむずかしくないよ?」

「そ、そうですか……」


古代語とは、今から一万年前の文字だと言われている。その頃は大陸が一つしかなかった。そのため、古代語はファルナのいた大陸で古代語と呼ばれるものと同じものなのである。


学者であったファルナの父は、それをいとも容易く読んでいた。その隣で一緒になって勉強したものだ。


もちろん、そうそうあちらでも古代語を読める者はおらず、時間のかかる研究に力を入れる余裕はあちらの大陸の人々にはなかった事もあり、発展はしていない。


一方のこちらの大陸では、のんびりした生来の性格からか、いつかやろう的な雰囲気で手付かずになっている分野であった。


「空にうかぶタイリクはねぇ、大きな鳥のセイジュウの力によってういてるんだって」

「聖獣ですか」

「あれでしょ? 父さまのお友だちのクロちゃんもセイジュウなんだよね? クロちゃんみたいに大きいのかなぁ」

「く、クロちゃん……そ、そうかもしれませんね。でも、黒霧様は特別大きい方です。他の聖獣は馬のようなものと小さなネコほどのものもいるとか。大きさはわかりませんね」

「そうなんだ。会ってみたいなぁ」


ファルナが好奇心旺盛なのはもう皆よくわかっている。最近は兵達の訓練にも紛れようとするのだとバルトロークがこぼしていたのをノバは知っている。


無垢な瞳で相手をしてと言われれば応えないわけにはいかず、そうして相手をすると、ファルナの戦闘センスに度肝を抜かれるらしいのだ。


今もキラキラとした瞳で黒霧以外の聖獣を夢想している。生き生きとした表情はこちらも楽しくなるようで良いのだが、この表情で向かって来られたら、兵達もたまったものではないだろうと気の毒に思うノバだ。


「あっ、ナナちゃんっ」


唐突にファルナが前方の部屋から出てきた女性に手を振る。


「姫様。今日もお手伝いですか? 本日は護衛も連れていますね」

「うん。サイショウさまがつけてくれたの」

「さすがは宰相様です。ノバ殿、姫様をくれぐれも見失わないように」

「は、はい」

「では、姫様。また訓練しましょうね」

「うんっ」


ファルナがバイバイと手を振って別れた。


「あ、あの……姫様。先ほどの方はナナリア様だと思うのですが……」


ナナリアはこの国でも一二を争う実力の持ち主だ。女ながらに騎士団の一つをまとめている。


「うん、ナナちゃん。すっごい強いよねっ。騎士の人たちがこわいって言うけど、やさしいお姉ちゃんだよ」

「いや……あの方は男性に厳しいので……」

「あ、男の人はキライだって言ってたかも。ぜんいん女の子にしてやろうかっておこってたことあるよ」

「っ……そうですか……」


ファルナは密かに国で最強の者達を手篭めにしつつあった。


読んでくださりありがとうございます◎



人気者です。



次回、また一度お休みです。

来週月曜11日0時です。

よろしくお願いします◎

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