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016 目的地

2016. 9. 11

ユズルの町を飛び出し、数時間。イクシュバの町に着いたのは、日が沈んだ頃だった。


「着いちまったな……俺としてはまた野宿して明日の朝って予定だったんだが……」

《夕食は町の食事をと言ったではないか》

「うんうん。宿も取れるねっ」

「……執念……」


バルドはよく耐えた。シルヴァは相当な速さで駆けてきたのだ。普通ならば、振り落とされないよう、必死で捕まっていなくてはならないので、一時間も保たず疲弊してしまう。


鞍もないのだ。馬とも違う。それなのに、バルドは多少の疲れを見せてはいても、まだ体力が残っていた。どうも、先日で慣れたらしい。素晴らしい順応力だ。


「まぁ、俺もベッドで休みたいからな。助かったよ」

《うむ。礼など不要だ。それよりも食事をっ。その感謝の思いを食べ物で返すのだ》

「私もお腹空いた〜」

《シャァァァっ》


何とも自由な旅のお供だ。バルドは一度脱力し、苦笑を浮かべながらも、改めて顔を上げた。疲れてはいても、ファナ達を案内する気はあるらしい。


「……分かったから、ドランは布の中。シルヴァは子猫だぞ」

《よかろう》

《シャっ》


聞き分けの良い二匹だ。


「私はっ?」


期待のこもった目でもってバルドを見つめるファナ。そのような目で見つめられる意味がわからないのだろう。バルドはとりあえずと前置きをして言った。


「そのローブは脱いだ方がいい」

「はいっ」


いそいそとユズルの町から着ていた製薬用のローブ脱ぎ、ファナは嬉しそうにバルドの後をついていく。


「機嫌がいいな」

「ん? そうかな?」


夜の町は綺麗だ。どの家にも明かりが灯り、家族が揃った事で楽しい話題に花が咲く。明るい灯りと同じくらい、明るい笑い声がどこからともなく聞こえてくるのだ。


「いいなぁ……」

「……ファナ?」


ファナには憧れがある。それは温かい家族が集う場所。楽しい食卓。そんな物語でしか知らない場所を、ずっと探している。


バルドとは出会ってまだ日が浅い。それでも、魔女とは違う人との食事は楽しかった。シルヴァを怖がらず、ファナを奇異の目で見る事もないバルド。そんな事が、一々とてもファナには嬉しいのだ。


思い出すのは冷たい大きなテーブルで、まっすぐに顔を上げる事も出来ずに、父母の顔色を窺いながら摂る食事。


手を伸ばしても届かない距離に座り、粗相をしないようにと子どもながらに緊張しながら摂る食事は、冷たく、味気ないものだった。


「ゴハン。美味しいものが食べたい」

「美味しいものって……難しいな……」


久し振りに過去を思い出して感傷に浸りそうになっていたファナは、頭を切り替えて無茶な催促をする。


そこで、ふと思い出した。


「あ、お金渡しとく」

「なに? おいおいっ、ちょっと待てっ。なんでだ?」


町中で、昼間よりも人通りは少ない上に、暗い事で見えにくくはなっているが、堂々と何気ない仕草でファナは、鞄から最初の依頼で手に入れたお金が入った袋ごと全てバルドへ手渡した。


咄嗟に受け取ったバルドだが、予想外の重さに、いくら入っているのかと青ざめる。


そんな様子を気にする事なく、ファナはあっけらかんと言った。


「だって、私、世間知らずみたいだし。宿とか食事の相場っていうの? そういうの分かんないから。全部預けとく。使って。足りなかったらまた薬を売ればいいからさ」

「あのなぁ……って、本当にいくら入ってんだよ。マジか……」


バルドの顔色は、若干白いままだった。そうして少しばかり良い宿を取り、食事もたっぷりと堪能したのだった。


◆◆◆◆◆


次の日。いよいよ魔女のお使い先であるギルドマスターのオズライルを訪ねて、冒険者ギルドへと向かった。


用件を受け付けで話すと、すぐに奥へと通される。


「俺も一緒でいいのか?」


ここへも、バルドと一緒に来た。案内されたギルドの奥へもついてきてもらっている。


ギルドの職員について廊下を進むファナは、当然のように言った。


「いいんだよ。だって、バルドは私の保護者だもん」

「……いつからそうなった……」

「出会った日から。師匠が良い人に出会ったら、遠慮なく面倒見てもらえって言ってたんだ。よろしくパパ」

「ぱっ、パパっ⁉︎」

「ん? あれ? そう呼ぶって師匠に教わったよ? はっ、バルド幾つ?」


突然話が飛んだファナだが、一応意味がある。不審に思いながらも、バルドは答えた。


「今年で四十だが?」

「うそ、もっと上かと……いや、ううん。ならパパであってるね。それか『ニィに』にする?」

「あ、兄ってことか?……パパの方がまだいい……」

「よぉし、そんじゃ、パパ」

「えっ、いやっ、良いって事じゃないからなっ」

「難しいなぁ。なら今まで通りバルド?」

「そうしてくれ……保護者でいいから」

「はぁ〜い」


どのみち、バルドには途中でファナの事を放り出す気はないのだ。何より、一人にするのが心配なようだった。ファナは本当に世間知らずなのだ。面倒見の良いバルドには不安で仕方がない。


「こちらへどうぞ」

「うわぁ。大きな扉……」

「さすがは、ギルドマスターの部屋……」


案内された扉の大きさと豪奢な見た目に、ファナは口を半開きにして眺める。バルドも隣で感心していた。


「ふふっ、では、お入りください」


ギルド職員に笑われながら、扉がゆっくりと開くのを見つめる。


すると、その部屋から、誰かが駆け出して来た。


「へ?」


扉が完全に開くまで待っていられないというように、その人は勢いよく扉を開け放つ。その動作のまま、両手を広げてファナへ突進してきた。


そして、ファナが呆然としている間に、その人は抱きすくめたのだ。


「本当に生きていたんだねっ、私の可愛いファナっ!」


体温が感じられるほどしっかりと抱き締められたファナは、目を見開いて開けられた扉を見たまま固まる。


「………………はい?」


たっぷりあった間は、思考が追いつかない事を示していた。

読んでくださりありがとうございます◎



一体誰が?



では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎

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