158 伝説の魔獣
2017. 8. 2
九尾は、契約が済むとランドクィールに約束する。
《兄ちゃんがこの大陸を留守にしてる間とか、俺らがしっかり守っとくから、その辺は安心してくれよな》
「そう言われると、こちらから差出せるものはないのだがな。本当に契約して良かったのか?」
他の黒霧やひと角と違って、九尾はイリタの姿で大陸中を歩き回る事ができる。こちらにメリットがあり過ぎて申し訳がない。
《何言ってんだ。兄ちゃんが契約してくれたってだけで充分なのさ。もっと言うと、契約している状態ってのが必要なんだよ》
「それは……私が死んだら意味がないだろう。永久的なものではないのではないか?」
ランドクィールが生きている間は良い。だが、確実に彼らよりもランドクィールは早く死ぬ。その場合は意味がないはずだ。しかし、そうではないらしい。
《俺らとの契約は、魂によるものだ。俺ら自身、肉体に頼っちゃねぇからな。だから、俺らと契約したってことは、魂で繋がれたって事だ。兄ちゃんにどんな影響があるかわかんねぇんだけど、多分、生まれ変わっても俺らとの契約は切ねぇ》
「……ほぉ……」
そこまで考えた事はなかった。ランドクィールはあくまで生きている間。ランドクィールとして存在している間の契約だと思っていた。驚いたが、そうなのかで納得する。だが、聞いていたバルトロークはそうはいかなかった。
「ちょっと待てっ。それじゃぁ、ラク様は死んでもずっとお前達との契約が切れないという事かっ」
《そう言ってんだろ。別に大した事じゃねぇよ。繋がってるだけだ。寿命が縮まるとかいう問題はない。逆に延びるんじゃねぇかなと思うぞ》
「そっ、それはそれで問題だっ」
《なんだよ、本人が良いってなってんだから、良いだろ。部外者は口挟まない》
「そんなわけにいくかっ。ラク様はこの国にとっても、私にとっても大切な方だ」
バルトロークは心からランドクィールを慕っているのだ。そこへ、訳のわからない契約を持ちかけて、あげくに死んでも切れないと言われては黙っておれない。
「バル。落ち着け。私は構わん。これもこれからはお前達を守る力だ。そう思って納得しろ」
「ですが……」
はっきり言って、ここまでバルトロークが動揺するとは思っていなかった。
「だいたい、死んだ後の事まで考えられるか。考えるだけ時間の無駄だ。そこは死んだ後に考える」
「ら、ラク様……」
ランドクィールは無駄が嫌いな質だ。
《ははっ、マジで良いねぇ。そんな兄ちゃんを見込んで話しておく事がある。伝説があるんだ。俺たちこの大陸の三体と、向こうの大陸にいる三体。本来は一つの存在だった》
「なんだ、突然」
九尾は、本当はこれを伝えたかったのかもしれない。
《まぁ、聞けって。俺たちは元は一つの魂だ。六つに分かれたのは、一気に消滅しない為。一つでも欠片が残っていれば、再生できる。いわゆる保険だな。俺らがもし全て消えてしまえば、天の魔獣が降りてくる》
「天の魔獣?」
《ああ。大地は俺らの場所だ。俺らが一体でも存在していればそれを示す事ができる。けど、あれが降りて来たら、この世界は無に還る。あれの望む世界を再構成する為に、この世界は滅ぶだろう》
「……」
とんでもない事を聞いた。さすがのランドクィールも戯れ言と捨て置く事はできなかった。
そこで気付く。なぜ九尾がそれを話したのかが分かった。
「その天の魔獣を呼びたい奴らがいるんだな」
《正解だ。俺らは大地と深く繋がっている。一番困るのが、戦争……大地に生きる人が多く死ぬとそれだけで俺らは弱る。人が少なくなれば、作物を育てる奴らが減る。それがまた俺らを弱らせる。大きな力を持っていても、倒される時は倒されるんだ》
彼らの力の源は人だ。大地に生きる者だ。弱れば彼らにも等しく死はある。魂が消滅する事はなくても、肉体によって存在しなければ意味がない。
《だから、兄ちゃんみたいな強い庇護者が欲しかった。黒焔や角持ちはそこんとこ、スコンと抜けてっけど。頼むよ……あっちの奴らは大分弱ってる。人がそうそう手を出せない場所にいるから何とか生き延びてるが、どうなるかわかんねぇ》
「……分かった。努力しよう」
《ありがとなっ》
九尾は、それだけ言うと、森の方へと消えていった。
「……ラク様……」
とんでもない事を聞いてしまった。バルトロークはその事の重大さに慄いているようだ。
ランドクィールは考えていた。先ほどの話。それを今聞かせにきた訳があるはずだ。
「まさか……語部の奴らの目的は……」
思い当たる事はあった。警戒はしておいて損はない。
「あの、ラク様。先ほどの九尾……ですか、何か最初に言っていましたよね? もう直ぐ何かが流れ着くと」
そこで、バルトロークが思い出したらしい。確かに、九尾が『異界の魔女の娘』がどうのと言っていた。
「あっちと言っていたか。行くぞ。あの方向には小さな漁村があったはずだ」
「はい」
こうして、予定の町を通り過ぎ、小さな漁村へと向かう事になったのだ。
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これが目的らしいです。
次回、月曜7日0時です。
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