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153 私の役目

2017. 7. 17

城内がバタバタと慌しくなる。門が開くにはもう少しかかるなと思い、ファルナは鞄の中から後ろにいる生け贄となる子どもの親達に大人の親指ほどのタネを一つ手渡す。


「これは……?」

「子どもがもどってきたら『冒険者ギルド』ににげこんで。あそこでは国もかんたんに手が出せない。のりこんでは来れないとおもう」


冒険者ギルドは、国とは隔絶した民間の組織だ。権力によって動く事はない。助けを求めれば、弱い民達を保護してくれる。


だが、だからといって、いつまでもそこにいるわけにはいかないだろう。


「人が多くなってきたら、これをもって『ポーク商店』まえの『青い看板の青果店』に行くの。てんしゅにウラのマスターに、にがしてほしいって言えばいい」

「どうして……?」


ファルナは門番に聞こえないように小声で話している。それが分かるから、二人は聞き逃さないようにしていた。だが、どうしてそこまでしなくてはならないのか疑問に思うのは仕方がない。


「国があなたたちを生かしておくかわからないから」

「っ……わ、わかりました」

「うん。ちゃんと生きて」


国は、彼らの子どもを一度生け贄とする事を決めた。それは名誉な事だと民達は思っている。しかし、当事者達にしてみればたまったものではない。だからこそこうして講義に来ているのだ。


それを国が反逆と受け取る事は想像に難くない。国はいつだって恐れているのだ。民達に自分達の考えが認められないのが怖いのだ。ならば、国の取るべき手段は一つ。反逆の意志は潰す。何も言わなくなればいい。


父グルムは殺されたのがその証拠だ。二度と、そんな事を許せるわけがない。ファルナは城に向かってもう一度告げる。


「子どもを先にカイホウして! わたしはにげたりしないよ。子どもであるわたしが、こうやってやくそくしてるんだ。大人であるあなたたちもセイイを見せて! できないなら……シロにいる人たちぜんいん……三代先までノロってやる!」

「「「……っ!?」」」


魔女は、ここ王都では魔族に近い存在と認識されているらしい。それは、この王都に何度か足を運んだ時に仕入れた情報だ。呪いという良くないものを引き寄せる力も持っているのではと思わせるには、充分不確かな存在だった。


貴族達は恵まれた環境にいる分、精神的に弱い。良くない事やトラブルが起きれば、誰かのせいにしてしまいたいのが心情というもの。おかげで呪いという言葉は、彼らには便利に作用する。


「さぁっ、どうするのっ!!」


最後の一押しと追い詰めてみれば、ファルナと変わらない背丈の少女が兵に連れられて出て来た。縄でまるで罪人のように胴回りを縛られ、後ろに手を回している。おそらく、そこも縛られているのだろう。その先から伸びた一本の縄が兵の手に掴まれている。


その兵を睨みつけると、ビクリと目に見えて体を震わせた。それと同時に少女は両親を見つけて泣きながら駆け寄ろうと走り出した。おかげで兵が握っていた縄はするりとその手から抜け出した。


「とうさんっ、かあさんっ」

「あっ!」

「リンザっ」


慌てて掴もうとする兵を更に睨みつけると一歩を踏み出した所で踏みとどまる。


そうして、少女は無事に両親の腕の中に収まった。


「リンザっ……」

「よかった……っ」

「うわぁぁん」


安心する両親、大泣きする少女を後ろに庇い、ファルナは兵達と睨み合う。そして、兵達が動かない事を確認すると、親達に言った。


「行って!」

「っ、はい」

「ありがとうございますっ」


はっとして顔を上げた両親は、子どもを抱き上げると一目散に逃げていく。突然の行動に反応できない兵達を威嚇して、ファルナは言った。


「おうんじゃないわよ。わたしはここにいる。子どもは一人でいいでしょう?」


すると、ゆったりとした態度で貴族の男が出て来た。


「そうだな。これで当初の予定通りだ。そうだろう、神官長」

「ええ。お告げにあった魔女の子どもです」


神官長と呼ばれて出て来たのは白いフードを被った者だった。


◆◆◆◆◆


ファルナは小さな部屋に閉じ込められた。


質素ではあるが、調度品も置かれ、ベッドや小さな机などもある。クローゼットがないのは着替えをあちらが用意する為のようで、部屋に入る前に水で体も清められ、白いワンピースを着せられていた。


「ここで何日かすごすのかぁ……ヒマそう」


鞄は取り上げられなかったので、暇潰し用の本などはある。魔女謹製のこの鞄は、使っている本人以外が覗き込んでも害にならない手帳や布ぐらいしか目視する事が出来なくなっている。


たとえ中に何年分かの食料が入っていても、城の一つくらい爆発させられる危険な魔導具が入っていても確認できないのだ。


怪しまれないよう、中身を出すのは精々気を付けようと考えていた。


高い場所につくられた小さな明り取り用の窓を見上げて、だいたいの時間を割り出す。


「もうすぐ『市場』があくかな……ごめんね、マスター」


最後まで面倒事を押し付けてしまった。間違いなく怒るだろうなと思うとちょっと笑えた。


その時、ドアをノックする者があった。


「はい」


反射的に返事をすると、ギギギと少々音を立ててドアが開いた。生け贄にするのだから殺しはしないだろうとは思うが、一応はいつでも逃げられるように身構える。


姿を見せたのは、メイドと兵の男女二人だった。そして、男の兵の方が言ったのだ。


「どうして来たんだ」

「……ほんらい、わたしのやくめだった。もう、かなしむ人もいない。父さんはしんだ」


ただ淡々とその事実だけを話した。すると、兵の男は悔しそうに腕を壁に押し付ける。


「何の為に先生が死んだと思う!」

「父さんなら、こんなギシキがむいみだって言ったはず」

「だったら、なぜ来たんだ!!」

「……」


なぜ怒るのだろう。これがファルナの考えた結果であり、グルムだってきっと予想できた事だと思う。だが、この顔は最近見たものと同じだと思った。





読んでくださりありがとうございます◎



これがファルナにとって正しい事。



次回、水曜19日0時です。

よろしくお願いします◎

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