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152 企てる者

2017. 7. 12

ファルナは振り切るように王都を出た。足が向いたのは、マスターが言っていた南に少しばかり行った所にある教会。


普段はそれほど人が立ち寄らないのだろう。こじんまりとした小さな教会だった。


王都の中には立派な教会があるので、この教会は本当に儀式の時だけのものなのだろう。


ファルナな目元に滲んでいた涙か汗か分からないものを腕で乱暴に拭い、教会の中へ滑り込んだ。


「……こんばんは……」


お邪魔するのだから、挨拶はしなくてはと、そう口にして通路を進む。中はとても綺麗だった。白い花が、並べられた椅子を飾り、中央の床の端にも花が道を作っている。


「……とむらいのハナ……」


まるで葬送の花のようだ。それは正しかったのかもしれない。


「そうですよ」

「っ……」


突然、現れたのは一人のシスターだった。声の印象とシルエットから、それほど年を取っていないと分かる。そのシスターは祭壇へ顔を向けて続ける。


「ここは、彼の大陸へと流された子ども達の魂を送るための教会。神へ祈る場所ではなく、国に殺される子ども達の為だけの場所です」

「……」


ファルナには、そのシスターがとても不気味に映った。それが愉快な事を話すような、狂った笑みが見える声音だったからかもしれない。


「生け贄は、孤児ではいけません……愛されて育った子ども……高い魔力を秘めた子どもでなくては……」

「っ……」


歌うように言うシスターに、ファルナは落ち着かなくなる。怖いのではない。恐らく、少々腹が立ったのだ。そう、この人は子ども達のいく末を知っている。


「……んで……しぬって分かってて……たどりつけないって分かってるんでしょっ。それなのに、なんでこんなことをつづけるのっ?」


言わずにはいられなかった。すると、シスターは微笑みを貼り付けた顔をこちらに向ける。


「あれらの同胞になり得る者達です。だから、彼らの所にもしも届けば、見せしめになる……届かなくても良いのです。子の親は、愛した者達は魔族を恨むでしょう?」


子どもを取り上げた国ではなく、あくまで殺したのはこんな事をさせる魔族なのだと思わせる。少しずつ、それでも確実に民が魔族への恐怖と怒りを募らせる事が目的なのだ。


「そ、そんなことのために? これがいみのないものだと知ってて、なんで分からないのっ。止めるべきことでしょ!?」


父、グルムの言葉は届かなかった。これがおかしい事だと、忌むべきものだと声高に叫んでも受け入れられない。それは、誰もが目を逸らし、理解しようとしていないからだ。


儀式を遂行する者達でさえ、ただ、やらなくてはならない事だと認識している中で、このシスターは儀式をする事の意味を正しく理解している。その狙いも分かっているのだ。


これが広まれば、この儀式は止められるかもしれない。儀式を行う意味に疑問を持つ者は出てくるだろう。グルムが間違っていない事が分かるはずだ。


しかし、シスターはクスリと笑って見せる。


「止める? なぜ? この儀式は人々の心の平穏を保つ為に必要なのです……敵わない存在を認め……彼らに殺されていく子ども達への同情が力となって、再び戦いに向かう大義となる……」

「……っ」


ファルナは感じていた。このままではいけない。何か、大きな裏がある。ならばどうするか。心は決まっていた。


「かってはさせない……止めてみせるっ」


教会を飛び出し、ファルナは一度王都を振り返ると、今の家へと駆け戻っていく。


「おわかれしなくちゃ。こっちでかえられないなら、むこうに行って、つたえるんだ……」


ファルナは日にちが変わる頃、世話になったおじいさんとおばあさんに手紙を書いた。今までありがとうと綴ったそれを置き、再び王都に舞い戻る。


城門の前には、ひと組の夫婦が訴えを起こしていた。


「返してくださいっ」

「何の力もない子どもですよっ。返してくれっ」


ファルナは間違いないと思った。


「おじさんたち、ギシキにでる子のお父さんとお母さん?」

「っ、君は……?」


不審に思う二人に笑みを向けた後、そんな二人の前で城に向かって声を荒げた。王城へと殴り込みをかけたのだ。


「たのもぉ〜っ」

「な、なんだ? お嬢ちゃん、ここは王城だぞ」


門の衛兵に注意され、ファルナは名乗る。


「わたしは、がくしゃグルムとマジョのムスメ。ギシキにはわたしをつかいなさい!」

「っ……グルムって……おい、中へ連絡を……っ」

「ちゃんと、この人たちの子どもはかえして! ノロうわよっ」

「っ……い、急げ!」


魔女の呪いは彼らにとって未知の恐怖なのだ。



読んでくださりありがとうございます◎



覚悟はできました。



次回、月曜17日0時です。

よろしくお願いします◎

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