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144 いつもと違う

2017. 6. 14

ランドクィールは森から戻り、そろそろ解放された者達も目を覚ます頃だろうかと思いながらドアを開ける。


すると、出る時にはまだ意識が戻らなかったバルトロークが、勢い良く駆け寄ってきてランドクィールの肩を掴んだ。


「どちらへ行っていたのですっ!? お一人で出歩かないでくださいっ」

「っ、お前……腕は……」

「もう治りましたっ」

「そうか……」


ホッとした後、なぜ自分が責められているのかと苛ついた。だから、ゆっくりと息を吐いてからバルトロークの額目掛けて頭突きを繰り出した。


「このっ!」

「うッ!?」


ランドクィールの肩を掴んでいた手を思わず外し、数歩後ろに下がりながら、バルトロークは痛む額を両手で押さえる。


その様子を確認する前から、ランドクィールは一気に怒りをぶつけた。


「心配させておいてなんだっ! ふざけるな!」


ふんっと鼻息も荒く言い捨てると、ランドクィールはそのまま家に入る。そんなランドクィールの怒鳴り声は、当然皆に聞こえていた。


目覚めてようやく人心地ついていた騎士達や冒険者達にもだ。


集まってくる視線に居心地の悪さを感じてたランドクィールに、動けずにいたバルトロークが再び歩み寄って来て声をかけてきた。


「……ラク様……」

「なんだっ」


苛つきながら振り返ると、バルトロークの目には涙。だが、痛みによるものではないのは、その表情でわかる。思わず目を疑った。


「は……?」


事態を把握できずにいるランドクィールの事など知る由もなく、バルトロークは感動していた。


「ラク様が私の心配をっ……」


何に反応したのかを理解したランドクィールは、真っ赤になって弁解する。


「お、お前がうっかり死にそうになっていたからだっ。戦場でもなく毒で死んだなどと……騎士として恥ずかしいと……っ」


毒なんかで死ぬのかと焦ったんだと言ったのだが、残念ながらバルトロークの耳にはほとんど入っていない。


「回復薬を作らないリナさんを怒ったと聞きました。本当に心配を……っ、ラク様」

「お、おい……?」


バルトロークは唐突に膝をつく。これで落ち着いたかと思いきや、彼は誓いを口にした。


「ラク様。私は一生、いえっ、死した後も騎士として必ずやお仕えいたします。絶対にお傍を離れませんっ。それをどうかお許しっ……」

「鬱陶しいわ! 死んだ時はちゃんと成仏しろ!」


思わず本音が出てしまった。これはさすがに真剣に言う相手に悪いかと、瞬間、少し冷静になる。


「……ラク様ぁ」

「気持ち悪い。勤勉な所は認める。忠誠心だけは受け取ってやるから、落ち着け」


珍しくタガが外れている。おかしなスイッチが入っているようだ。死にかけたのが悪かったのかもしれない。倒れる時に頭でも打っただろうかと、本気で心配してしまった。


そんなランドクィールとバルトロークを、多くの者が見ている。しかし、あまりにもバルトロークがぶっ飛んでいた為に、視線が集まっている事も綺麗さっぱり忘れていた。


そこにキィラが顔を出す。そして、ランドクィールの傍まで来ると、服の裾を引っ張った。


「ねぇ……」

「な、なんだ?」


言葉少なげに、何かを訴えてくるキィラ。またもここに視線が集まる。


何を言いたいのかと、ランドクィールはキィラを観察する。すると、その手にクーザの実を持っている事に気付く。お陰で何を言いたいのかわかった。


「ああ、それでパンケーキを焼いてやる約束だったな」

「ん……用意してある」

「そうか。待たせたな。キッチンへ行こう」

「手伝う……」


キィラの頭を自然に撫で、ランドクィールはバルトロークを置いてキッチンへと向かう。


ただ、そんなランドクィールをバルトロークは相変わらず見つめていた。


「……鬱陶しい……」


日に二度も同じ言葉を口にするとはと、少しうんざりしていると、しっかり者のシィルが近くへやって来る。彼もしっかり現場を見ていた。


「王様ってスゴイんだ」

「……一体、今のどの辺りにそれを感じた……」

「全部。だって兄さんもちょっと羨ましそうにしてるんだもん」

「は?」


まさかと思い、そちらに目を向けたランドクィールは後悔した。


物欲しそうに見つめるノバがいたのだ。


「……」

「いつもは冷たそうだもんね。慣れない事はしない方が身の為だよ」


シィルが今日の教訓を告げる。


「……気をつけよう……」


反省を述べれば、キィラは首を傾げていた。


「……冷たくないのにね」

「……タラし……」

「お前は少し、失礼過ぎる」

「これが普通。言ったじゃん、慣れない事はしない方が身の為なんだよ」

「……可愛くない……」


言っている事はもっともだと思うのだが、シィルとキィラ、見た目が双子のように同じだからこそ、中身のギャップに戸惑う。


そして、何よりバルトロークやノバ、騎士達が驚いているのは、子ども達と一緒にキッチンに立つという見たこともない魔王の姿なのだが、それにランドクィールが気付くことはなかった。


読んでくださりありがとうございます◎



ほっと一息です。



次回、月曜19日の0時です。

よろしくお願いします◎

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