139 協力を要請しました
2017. 5. 29
駆け付けたリナーティスは、幾つもの薬瓶をノバに持たせていた。
「解毒は出来そうか?」
バルトロークの状態を確認したリナーティスに、ランドクィールは問いかける。
「分からないわね。まだ効果を試せていないもの」
リナーティスは今、年相応の表情を見せていた。雰囲気も違っている。それに戸惑いながらも、それにツッコんでいる余裕はないのだ。治療を任せるしかなかった。
「今は、ひと角の力で毒が広がるのを抑えている状況なのだが」
「いい判断ね。助かるわ。とりあえず、そのままの状態でいいわ。どれくらい持ちそう?」
リナーティスは、ノバに持たせていた薬瓶を下に下ろさせ、並べながらひと角に尋ねる。
するとひと角は自身なさげに答える。
《うっ、わ、分かんない……けど、集中してないと解けそう……》
行使した事のない術である為、要領を得ないらしい。
「お前……それでも主かっ。しっかりしろ! 解いたら許さんからな」
《ううっ、だってぇっ》
「だってじゃないっ。死ぬ気でやれっ」
《酷いよぉぉぉ》
ランドクィールは、弱音を吐くのが嫌いだ。それは、他人であってもそう。努力して出来るならば、やるべきだと思うのは当然で、少々スパルタ気味になるのは否めない。何より今は、バルトロークの命もかかっている。
ひと角に、リナーティスも声をかける。
「頑張ってちょうだいね」
リナーティスは次々に薬を混ぜていく。時折、指で地面に数式を書いている所を見ると、完全に完成してはいないのだろう。
なるべく時間を稼いで欲しいと思っているのだ。そうして、リナーティスは作業を続けながらノバに指示を出す。
「ノバ。バル君で実験するより先に動物で様子を見たいわ。適当な被害者がいないか見てきてちょうだい。それで連れて来て」
「えっ、ひ、被害者って……そんな都合良く……いえ、行って来ますっ」
ノバは、リナーティスの無茶な注文を受け、動揺しながらも、バルトロークを助ける為だと頭を切り替える。
「待て、ノバ。お前は森の外を回れ。私は森の中で見つけてくる」
「しっ、しかしっ」
ランドクィールは、既に森に向かって歩き出していた。
「心配はいらん。迷ったりはせん。ひと角がここにいるしな。気配で出口は問題なく分かる。リナーティス、死んでいてもいいのか?」
「できれば生きていてほしいわね」
「わかった。ノバも急げよ」
「あっ、ラク様っ」
ノバの制止も聞かず、ランドクィールは駆け出した。
一刻も早く薬を試せる獣を見つけ、連れてこなくてはならないのだ。
ランドクィールがこうして危険な森に躊躇なく入ったのには訳がある。当然、当てがあるのだ。
しばらく進んでいたランドクィールの前に、ひと角の影が姿を見せた。
「頼めるか?」
《……》
影は静かに頷き、ついてこいとでもいうように進み出した。ただし、少々駆け足気味だ。その理由は、毒を受けてしまった獣の苦しみを、少しでも早く終わらせたいという思いからだ。
いつもならば、毒で苦しむその獣をこれ以上苦しまないように影が殺している。薬を試すにしても、早くしてやりたいのだろう。
そうして、弱っている小さな獣を見つけた。何の力も持たない兎。ランドクィールが抱えていくにしても適当なサイズだ。
兎は歩こうとしてヨタヨタ転ぶ。毒にやられた自覚がないかのように、それは未だ動こうとしていた。
「まだ毒を受けて間もないのか」
《……》
掴み上げようとするランドクィール。しかし、その手を遮るように影が兎をくわえ持った。
「……お前も触るなと言うのか?」
《……》
肯定するようにひと時目を合わせ、影は出口に向かっていく。
ランドクィールはため息をつく。どうも過保護なのが多い。そうしてランドクィールは影を追って駆ける間、森の中の気配を気にしていた。
先ほどから誰かに見られているように思うのだ。一体どこからだとランドクィールは相手に気付かれないよう、素ぶりには見せず必死で探っていた。
出口が近付いた時、キラリと光る何かが目の端に映る。しかし、今優先すべきはバルトロークだ。確かめるのは後だと判断し、出口へと向かった。
読んでくださりありがとうございます◎
影も気を遣ってくれているようです。
次回、水曜31日の0時です。
よろしくお願いします◎




