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131 戦う決意

2017. 4. 19

森の中で闇が蠢く。深い森の地面から立ち上る黒い靄。それが次第に集まり、一つの形を作っていく。


荒い息遣い。黒く大きな獣の姿。時折揺らめきながらも、確かな存在としてその姿を固定する。


そして、それはその存在を誇示するように、大きく空に向かって吠えた。


《グォォォンっ》


折れた黒い角。毛むくじゃらに見える長い毛で背中から覆う体は、それでも鍛え抜かれたような力強さを感じさせる。脚力は相当のものだろう。木々を避け、跳ねるように方向を変える。


前に突き出した口。しかし、その顔も、頭から伸びる長い毛に半ば覆われている。馬のように見えなくはないが、手足は太く折れ曲がっている。その先にあるのは長く鋭い爪だ。狼のようにも見えて奇妙だった。


《グゥゥ……》


唸り声も獣のそれで、ギザギザとした黒い歯も見える。


森を駆け、その黒い獣は獲物を見つけた。そして、それに躊躇なく爪を振り下ろしたのだ。


◆◆◆◆◆


金の馬の長い角が、唐突に銀の淡い光を強めた。


何かに反応するように、金の馬は顔を右後ろに振る。


「どうした?」


ランドクィールが尋ねると、一点を見つめたままの金の馬が言った。


《……出てきた……》

「その影か?」

《そう……殺したくないのに……》


辛そうに瞳を少しだけ伏せる様子が、ランドクィールには、泣いているように見えていた。


「私をここから出せ」

《え……だって、危ないんだ。だからここに……っ》

「対処出来なければ、引けば良いだけの事だろう。それに、ずっと現れているわけではないのではないか?」


先ほど『出てきた』と言った。ならば、今までは出てきていなかったのだから、きっと、消える時もあるのだろう。


《それは……そうだけど……けど、もう夜になる。そうなると、力が強くなるんだ。あれは、闇で出来てるから……》

「だが、見てみる必要はある。私はその為に来たのだからな。お前も、このままで良いとは思っていないのだろう?」

《もちろんだよっ》


彼も、どうにかしたいとは思っているのだ。


「ならば、お前も来い。元々、その闇はお前から生まれたものだろう」

《っ、そ、そうだけど、でもっ、僕は戦えない……》

「なぜだ? 黒霧と同じ存在なのだろう? ならば、力はある。こうしておかしな場所も作れるのだからな」

《でも……》


渋る金の馬に、ランドクィールがイラつきを見せながら言った。


「言い訳をするな。光と闇、訳のわからん空間の力をも持っていて、使い方を考えろ。何より、今回はお前だけではない。私もいる」

《使い方……》

「戦った事がないだけだろうと言っているんだ」

《う、うん……戦った事はない……》

「ならやってみろ。戦場では、何の力も持たないただの馬でも戦うぞ」


走り、時に体当たりをし、蹴り飛ばす。魔力を持たない馬であっても戦えるのだ。


そう言えば、金の馬はムッとしたようだ。


《うっ、馬と一緒にされたくないんだけど……僕、馬じゃなくて一角獣で、獣なんだからっ》

「ほぉ。ならば尚更だ。その角は細くて折れそうだがな」

《折れないよ。ここが一番固いんだ。でも、触られるのは嫌な感じがするから、使いたいとは思えないけど……》

「そうなのか? 使えんな」

《はっきり言いすぎっ》


ランドクィールは、いつだって意見は素直に言う質だ。


「気に障ったか。正直な意見だ」

《大人なら気を遣うのも大事だよっ。ちょっと、そこのお付きの人達っ。この人失礼過ぎなんだけどっ》


なぜかすっかりこの場でくつろぎ出していたノバとバルトローク。彼らは倒れている者達が、ちょっとやそっとでは目覚めないと確認すると、足下に咲く珍しい花や草を観察し始めていたのだ。


はたから見れば、座り込んでピクニックでも始めたように見える。


ようやくこちらにも話しかけてくれたかと思った二人は、それでも立ち上がる事なく、顔を上げただけ。


「ラク様は、どんな相手であっても嘘は仰いませんので」


そうノバが言うと、バルトロークが付け加える。


「基本、誠実な方だ。だが、相手が神であっても主様であっても変わらないという怖いもの知らずでもある」

「年長者にも容赦しませんしね」

「俺らの方が年上だけど、最初からあんなだったしな」


それが、もっとずっと年上の者であっても、はっきり言う時は言うし、子どもであっても、それが民であっても変わらない。


嘘偽りなく、誰にでも話すのだ。黒霧相手でも変わらなかったように、主様であっても態度を変えたりしない。一概に悪い事とは言えないはずだ。おもねる事をせず、それが損な役回りになったとしても、ランドクィールは構わない。


「生まれながらの王ですね。あ、悪くは言っていませんよ?」

「そうそう。これでこそラク様です。悪くは言ってません」

「……わざわざ最後に付け足すのは嫌味だな」


実は、二人のそんな所が気に入っているとは、口にはしなかった。


《……あの人達も正直って事? これが類友ってやつだねっ。初めて見たぁ》

「感動するような事ではないがな……」


キラキラとした瞳を向けられて、居心地が悪い思いをしたのは、さすがのランドクィールにも予想外だった。




読んでくださりありがとうございます◎



正直でけっこう。



次回、月曜24日の0時です。

よろしくお願いします◎

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