126 意外です
2017. 4. 3
男の呟きは、ノバとバルトロークには聞こえなかった。それで良かったのだとランドクィールは表情に出ないように気を付けて森を進み始めた。
するとすぐにノバとバルトロークが追いかけてくる。
「あ、お待ちを」
「足下に気を付けろよ」
そんな二人の声を背中に聞きながら、ランドクィールは比較的ゆったりとした足取りで森を奥に向かって進んだ。
明るい森だ。木と木の間は歩きやすい間隔になっているが、育ちが良いのか、根が張り出している所は多い。
上を見上げれば、確かに棘の蔦が網のように覆っているのが見えた。木の葉や枝に絡みつき、森全体を包むようだ。
中央に向けて真っ直ぐに歩いて来たが、進んでも進んでも景色が変わらない。これでは迷うのも無理はないだろう。方向だけは見失わないように、ランドクィールは集中して進んでいた。
その間、森の歩き方を知っている地元民であるノバとバルトロークは、自分達も方向を注意しながら、森の中の気配を探っていた。
お陰で誰一人口を開く事なく歩き続け、三十分ほどした所のだろうか。ランドクィールが唐突に歩みを止めた。
「どうされましたか?」
ノバがそうランドクィールに尋ねながら隣へ並ぼうと数歩進む。すると、ランドクィールは今度はしゃがみ込んだ。
「ラク様?」
バルトロークも近付き、それに倣うようにする。
「矢だ」
「え?」
ランドクィールが落ち葉の中に隠れていた一本の矢を見つけた。
ノバとバルトロークがランドクィールの手元を覗き込む。
「確かに……矢ですね」
「これは……間違いなく国のだ。それも、最近まで手入れされて、ちゃんと磨かれている物だな」
「古い物ではない」
バルトロークは研磨され、よく手入れされたものだと分かった。ランドクィールも見覚えのある羽の色と描かれた模様を見て、それが国の騎士が持つ矢だと分かったのだ。
「ここにこれが落ちているということは……」
ノバは身を起こし、辺りを見回す。人影はない。そう確認すると、地面を見晴るかす。そして、気付いた。
「ラク様。あちらの方向にも矢が落ちています」
言われてランドクィールとバルトロークも目を向ける。そして、すぐに胡乱げに細められた。
「……分かり易いな」
「本当にあっちにだけ落ちてる……」
「そう言われますと……罠でしょうか?」
見つけたノバも後ろや横を改めて見てその異常な様子を確認する。
しかし、ランドクィールはふむと考えて、矢を持ったまま立ち上がり、そちらへ歩き出した。
「ちょっ、ラク様っ」
「お待ちくださいっ」
バルトロークとノバが慌てる。だが、ランドクィールは構わず歩いていく。それも、落ちている剣や矢を拾っていくのだ。
「……」
「え、あの、ラク様……?」
「ん? なんだ?」
次々と拾っていくランドクィールに、ノバは何をしているのだろうと思考を停止させ、バルトロークも尋ねながら動けずにいた。
それを少しだけ振り返り、お前達も拾えと目で訴える。
「ノバの弟達も入るかもしれないのだろう? 子どもが入るならば、危ない」
「え……」
「……」
バルトロークは信じられない事を聞いたと目を見開き、ノバは理解できていなかった。
「あんなにぼうっとした子どもが通ったら危ないぞ」
「そ、そうだな……シィルならともかく、キィラは危ないな……」
「え、ええ……矢じりは光りますから……」
意外と子ども好きなのだろうかと、今まで知らなかったランドクィールの一面を見たと驚く二人だ。
そうして、三人の両手がいっぱいになる頃、その場所に辿り着いたのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
優しい所があります。
次回、水曜5日の0時です。
よろしくお願いします◎




