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125 報告した者

2017. 3. 29

ランドクィールは席を立った。


「夜になるまでに見つける」


騎士を見つける。それが目標だと言う。ランドクィールは、空から広大な森を見てきた。


そして、そこから感じる力も正しく感じ取っていた。だから、闇で動きを制限される夜にその森に居るのは危険だと思うのだ。


これにはノバもバルトロークも賛成だ。


「はい。あの森には夜行性のものが多いですし……」

「無闇に動くと棘に当たりますしね」


暗闇でただでさえ方向が分かりにくくなる。間違って森の外へ向けて歩いてしまえば、棘に引っかかり、身動きできなくなる。


ここで、それの危険性をノバが改めて示唆する。


「ここの森を覆う棘は、毒がありますので、なるべく触れないでください。命の危険性はありませんが、とにかく痛みが出るので、甘く見てはいけません」

「ほぉ。毒か。解毒薬はないのか? リナーティスならば、興味を持ちそうだが?」


ランドクィールは当然あるのだろうと思って言ったのだが、ノバは首を横に振った。


「それがどうやら、その毒は単純なものではないらしく、未だに解毒薬と言える物はありません。母は、ずっとこの解毒薬を研究しているのです。その過程の一つとして、多くの病や植物の毒を研究しております」

「ずっとか?」

「はい……」


諦めの悪い人なのだとノバは気まずげに目をそらす。


「そうか。いや、一つの目標に向かい続けられるのは才能だ」

「そう言っていただけると……」


ノバは弱ったような笑みを浮かべていた。


家を出て、三人でやってきたのは森の入り口だ。見たところ、森の中はそれほど暗い印象は受けない。


毒の棘で囲まれた広大な森。森の主までいるそんな森のイメージとしては、日の光を遮ってしまうような暗い森だった。


しかし、一歩森へ入り込みランドクィールは、上を見上げた。程よく光が差し込み、風も心地よく駆けて行く。


こんな森で、異常があるとは考えられない。穏やかな森だ。


「確か、報告では何かが獣を食うでもなく殺しているんだったか」


餌とするために殺すのではない。この森に棲む獣を、ただ殺す何かがいる。


「人ではないのか?」


ランドクィールがその報告書を見て思ったのは、人がいたずらに獣を殺しているだけではないのかという事だ。だが、それに当てはまらない所がある。


「三本の鋭い爪のようなもので引き裂かれているのです。剣ではないのではないかとの報告も上がっておりました」

「だが、獣が食べるためではなく殺すのか?」


怨恨で殺すのは人だけだ。獣ならば、身を守るために殺してしまう事もあるかもしれないが、それでも、何十というものを殺したりするとは考えにくい。


「そこは、私も気になっております。ですから、騎士達が派遣されたのです。これが森の外に出れば、大変な事になりますから」


目的もわからず、原因もわからず、何者がやったのかもわからない。だから、騎士が調査のために派遣された。


普通の人では危険過ぎる。それが危険な森であるからではない。調査対象が危険だと判断したからだ。


そこで、バルトロークがふと思った事を口にする。


「そういえば、誰が森の異変に気付いたんだ? ここには町の者も近付かないはずだが」

「確かにそうだな。報告を上げたのは誰だったか……」


そこは気にしていなかったとランドクィールが気付く。ノバもそうだったようだ。


「そうですね……森に入る……者が居たとして、その現場を見て報告した者がいるはずです。森を無事に出た者が……」

「報告書の感じからは、何度もそれがあったというものに思えたが……何度もこの森に入り、出て報告したという事になる」


ランドクィールとノバは揃って首を傾げる。すると、そこに森の中から声が響いてきた。


「報告したのは私だ」


そう言って姿を現したのは、一人の男だった。


「この町の者ではないな」


バルトロークがランドクィールを庇うように前に出て剣に手をかける。


「いや、私はもう三年近くクスラにいるが?」


男を観察するが、戦闘を行えるような冒険者とも違うように見える。騎士や兵でもあり得ないだろう。


男はボロの灰色のローブを着て、背中に何かを背負っている。それは剣ではない。武器ではなく、リガルという弦楽器だった。


「お前……奏楽詩人か?」

「その通りです」


音楽を奏で、物語を歌う奏楽詩人。三本の弦を張った木の丸みを帯びた楽器を手に、大陸を回る彼らは、語部達と繋がりもある。


奏楽詩人達は、数年一つの土地に滞在し、そこで面白い出来事がないかと日々町を歩き回る。


そして、歌にして語部達に教える。語部達に話を提供するのだ。語り方は違うが、同じような存在だった。


「よくこの森をそのような軽装で出入りできるな」


ランドクィールは鋭い視線を送りながら、奏楽詩人の男に語りかける。


「それほど奥には入り込まないよう気を付けていますよ。出入り口が分からなくなっては命取りですから」


怪しいと三人とも思っていた。当然だ。歌で語るならばともかく、男は報告したと言った。奏楽詩人ならば、そんな事はしない。


何を考えているのか分からないと警戒を強める。


男はゆったりとした足取りでランドクィール達の横をすり抜け、森を出て行こうとする。その男へ、ランドクィールは率直に尋ねた。


「なぜ報告した?」


男は森を出るのにあと一歩という所で立ち止まった。そして、言ったのだ。


「良い物語を紡ぐためにです」


含みのある笑みを浮かべ、それだけ言って男は歩き出す。しかし、かなり後方へ離れた所で呟くように続けたのだ。


「……役に立たなかったがな……」


そんな言葉は、微かにランドクィールの耳に届いていた。




読んでくださりありがとうございます◎



嫌なのが出てきました。



次回、月曜3日の0時です。

よろしくお願いします◎


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