124 騎士の心得
2017. 3. 27
食事を終え、片付けも済むと、ランドクィール、ノバ、バルトロークはこの後どうするかと話し合っていた。
「騎士達が森に入って行ったのは三日前で間違いないんだな?」
ランドクィールは、手を組みテーブルに両肘をつくと、難しい表情でそうノバ達に確認した。
ノバとバルトロークは、この家に着くまでの間、出会ったおじさん達にそれを何度か聞いていた。
それは間違いないだろうと思いながらも、最後の確認としてシィルを見た。
今度はお腹がいっぱいになって眠たそうなキィラとソファに並んで座っていたシィルは、もたれかかってくるキィラに肩を貸しながら顔をしかめて言った。
「騎士さん達だろう? 俺たちの忠告も聞かずに入って行ったよ。三日前の昼。今ぐらいの時間だった」
シィルとキィラの二人は、現在の森番だ。森に近付く者達に森が危険である事を忠告し、この入り口からしか出入り出来ない事も伝える。
しかし、大抵森に入ろうとする余所者は、シィル達の言う事など本気にしない。耳半分も聞いていないだろう。
森には主がいるのだと言っても、冗談だと笑い飛ばしながら森へ入って行く。そして、大半の者は戻ってこないのだ。
バルトロークは少し怒っている様子のシィルに言う。
「仕方ないだろう……あいつらは、仕事だからな。忠告された所で、選択肢はない」
「へぇ。死ぬって分かってても行くんだ?」
「まぁな……」
「ふぅ〜ん。バッカみたい」
「シィルっ」
言うだけ言って、シィルはキィラを連れて部屋に戻って行った。
ノバの注意など、聞く気はないようだ。ノバは申し訳なさそうにランドクィールを見た。
「失礼を……バルもすまない」
騎士の一人であるバルトローク。だが、それほど気にしてはいなかった。
「構わん。騎士になった時に、覚悟はあるからな」
そう、騎士となるからには、国のため、民のためにと命をかけるのは当然の心得だ。絶望的な戦場であっても、自分達が盾にならなくては後はない。
潔く散るなど愚かだ。騎士は最期の時まで愚直に、貪欲に生にしがみつき、後ろにいる者達を守らなくてはならない。
「心配するな。この国の騎士が簡単に死ぬはずがない。全員、あの鬼みたいな騎士団長達に鍛えられてるからな。団長達の教えに『倒れて死ぬな』ってのがあるぐらいだ」
「え……あの、バル……それはどういう意味です?」
あまり聞きたくはないが、もしかしてとノバは頬を引きつらせる。
「死ぬ時は立って敵の前に居ろって事だよ。なんだ? どうしたノバ」
ノバは頭を抱えていた。
この国の騎士達は強い。それは、単に力だけの事ではない。信念だ。自分達が国を守るのだという思いが強い。
ノバは、騎士達の日々の鍛錬を窓から見る事があった。その必死さに、呆れる時もある。訓練場を出る時、彼らは気絶しているか、息をこれでもかと上げているのだ。
あれでは、今有事が起きた時に使い物にならないではないかと、執政に関わる者達は思う。
いつも全力な騎士達にとっては、それが訓練だろうと実戦だろうと気持ちは変わらないのだろう。
その時にもしも、出動しろと言われれば、それこそ息を引き取る時まで敵の前に立ちはだかる覚悟で常に臨んでいるのだ。
それほどの覚悟を、ノバは知らなかった。やはり数字だけでは立ち行かない物もあるのだと自分を恥じる。
「騎士の方には、本当に頭が下がります……」
「そうか? 勝つ事以外、何にも考えてねぇバカが多いがな」
ノバが思うよりも、彼らの思考はかなり単純なのかもしれない。
そんな二人の会話を静かに聞いていたランドクィールは、不意にクスリと笑った。
「ラク様?」
「どうかしたか?」
ノバとバルトロークが不思議そうにランドクィールを見た。
ランドクィールは自嘲気味な笑みを浮かべ、目を伏せながら言った。
「いや。少し、イーリアスの言いたい事が分かった気がした」
「それは……?」
ノバは何のことだか分からないという顔を見せる。それをゆっくりと目を上げたランドクィールが見て、表情を苦笑に変えた。
「私はこの国の問題は全て自分の力で解決できると思っている。騎士達に無用な犠牲を強いて解決する問題ならば、私が出た方が良いと思ってきたんだが……悪い事をしたな」
そう言って、バルトロークを見つめた。
バルトロークは素直なランドクィールの謝罪に目を丸くする。しかし、すぐに困ったような顔になった。
「そんな事ないですよ。俺らは俺らごと守ろうとしてくれてるラク様を知ってるんです。そんなラク様のために、もっと強くなろうとする。その思いが一番強いのが団長達です。だから、俺らは訓練でも手は抜かない。まだまだ上がいる事を知ってますからね。まぁ、もう少し俺らの事を頼ってもらえればとは思います」
「そうか……そうしよう」
任せるべき所では任せられるようにならなくてはと、ランドクィールは反省した。しかし、今はと思う。
「では、今はその騎士達を迎えに行かなくてはな」
「うっ、面目ない……」
頼れと言っておいても、ここではランドクィールの力を借りなくてはならないのだ。バルトロークは、少しばかり不甲斐ないと肩を落としたのだった。
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