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121 ノバの休暇申請

2017. 3. 15

ノバは最近、浮かない顔で部屋に貼られている大陸の地図を見る。もう癖になり始めたそれを、同室で仕事をしている上司のイーリアスが気付かないはずもなかった。


「故郷が恋しいのか?」

「え、あ……いえ……」


動揺したノバの様子を目の端に映し、イーリアスは言った。


「お前の故郷は東のクスラだったか。そういえば、あの辺りで異変が報告されていたな。それが心配か」


ノバの様子でそう当たりをつける。それは外れてはいなかった。


「……はい……幼い弟達が残っているので、気になっておりました……」


この城で働く者達の多くは、遠くに故郷を持つ。しかし、彼らは長い寿命がある。そのため、十数年に一度顔を見に行く程度が常だった。


ノバは数日前、とある報告書を目にした。それによれば、クスラ付近の森で多くの獣達の死骸が見つかったという。


「まだ民達に被害が出たという報告はなかったはずだが、調査隊の報告が来るまでにはまだ時間が掛かるだろう」


この王都から東のクスラまでは馬で三日。報告が来るまでにまた三日掛かる。調査隊が派遣されたのは四日前だ。ようやく辿り着いて調査を始めたという頃だろう。


しばらく、何かを思案している様子だったノバは、真っ直ぐに顔を上げると、イーリアスへ言った。


「あのっ、イーリアス様。休暇をいただけないでしょうか」

「行く気か?」

「はい。ここでやるべき事があるのは分かっております。ですが、落ち着かないのです……一目、無事を確認して来るだけです。お願いしますっ」


ノバは勢いよく頭を下げる。手に持っているのは、今日の決済に必要だった資料だ。それを強く握りしめ、体を折るノバに、イーリアスはため息をつく。


案外ノバは、自分の事では融通が利かない所がある。頑固なのだろう。それを上手く使うのも上司の務めだ。


イーリアスは瞬時にこれからの仕事の進捗具合を計算する。作業が遅れている部署はないはずだ。ノバが抜ける事で滞る所はどこか、それを弾き出し、ノバの机に山積みにされた書類を確認してから言った。


「いいだろう。だが、その山だけは片付けていけ。七日でいいか?」

「はいっ、充分ですっ」


そう言って、ノバは仕事を猛然と片付けに掛かった。そんなノバを見て、イーリアスはこれをランドクィールに報告すべきかどうか迷っていた。


折角、あの出しゃばりな王が現場に行くのを我慢したというのに、これでは出て行ってしまうだろう。


「……はぁ……戻られたばかりでまたか……」


そう呟いてイーリアスは部屋を出た。各部署に急を要する案件を即刻まとめるようにと通達を出す。


廊下を歩きながら、イーリアスは更に計算する。


「黒霧殿の翼ならば、一日もかからんな。二日でなんとか終えていただくか」


ノバは馬を操るのが上手い。疲れさせる事なく、長距離を走らせる事に長けている。これは、この国一の腕だった。


そんなノバならば、本来三日かかる道のりも二日に短縮するだろう。なんとかノバが現地に着く頃には追いついてもらいたい。


ノバはイーリアスにとっても、この国にとっても大切な人材だ。イーリアスが次に宰相の席を渡しても良いと思える優秀な男。


それを危険が伴うであろう場所に一人で送り込むのは避けたかった。ノバも戦えないわけではない。剣は駄目だが、魔術の腕はそれなりだ。戦場に立ってもなんとか自分の身は守れるだろう。


だが、自分の身が守れるという程度。斬り込んで行けはしない。


だから、護衛は必須だ。しかし、いくら現場に行くと分かっていても、王に護衛をさせる気はない。イーリアスは兵の訓練場を訪ねた。


「バルトローク殿はいるか」

「あ、宰相様っ」


バルトロークは十数人の兵達に囲まれて稽古の最中だったようだ。若干、囲んでいる者達の剣に僻みが入っていそうな気はしたが、そこは気付かないふりをしておくイーリアスだ。


宰相に呼ばれては稽古も中断だ。バルトロークは汗を布で素早く拭い、イーリアスの前にやってきた。


「なんでありましょう」

「頼みがある。明日から七日間、ノバが休暇を取りクスラに里帰りをする。護衛をしてやってくれ」

「ノバが……また急に……いえ、はっ、承知いたしました」


何故だろうと首を傾げるのも無理はない。休暇の申請など、一月前から出すのが普通だ。緊急を要さない限り、上司も許可を出さない。


「では頼んだぞ」

「はっ」


バルトロークの故郷も同じクスラだ。何より、ノバの為にとイーリアスが頼めば断る事などしないだろうと分かっていた。


これで後はランドクィールだ。イーリアスは重い足取りで王の執務室へ向かうのだった。



読んでくださりありがとうございます◎



故郷の事は心配ですよね。

離れていれば尚のこと。



次回、月曜20日の0時です。

よろしくお願いします◎


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