120 口煩い宰相ですが
2017. 3. 13
二つの大陸の中間辺り。そこに小さな小島がある。その島は、語部達が代々住まう島。
だが、魔術によって絶対に彼らの仲間以外は近付く事が出来ないようになっていた。よって、存在するのに存在しない島となっており、語部達以外知らないのだ。
島には常に三十人ほどが住んでいる。その中の五人は語部達をまとめる者達だった。
「どうにも、今代の王は行動が読み難い」
「若いからというのではないな。経験の浅さからくる不安定さではないようだ」
「最強の王だと言われているだけに、実力もかなりのものらしい。あの黒鳥を従えてしまうのだからな……」
彼らが議題にしているのは、魔王ランドクィールの事だ。
「我らは成さねばならん。語部である我らが語る為に」
「うむ。しかし、彼の王がただの強王であったならやりようはあったというのに……」
語部達には、使命とも言うべきものがある。それは、一番初めの語部が語った伝説をその目で見る事。それが語部達の悲願だった。
「だが、あちらは単純だ。短命種は時間が限られているからか、貪欲だな」
「ええ、ほんの少し煽るだけで、争いを起こす……まるで赤子じゃて」
物語のついでに噂を流してしまえば、すぐに広がり、武器を持つ。知った物を手に入れたいと思えば即動き、邪魔だと思えば消す。時間が限られているからだ。
だから、語部達にとっては容易く操る事のできる都合の良い者達でしかなかった。
語部の中には短命種の者達もいるのだが、彼らも自分達の性質を良く理解している。そのため、特に語部達の中で諍いはない。
一つの未来の実現を信じているのだ。いつか誰かが見られればいい。そんな思想は狂気的ではあるが、内輪揉めなど起こす事はなかった。
「では、またあちらから仕掛けてもらうか」
「そうじゃの。まとめるのに時間はかかるが……」
「この際だ。我らに時間など関係ない」
「それもそうだ。我らは『いつか』を夢見ておるのだからな」
今すぐにと焦れば痛い目を見る。それは、多くの歴史や物語を語る上で教訓として知っている事。だから彼らは焦ったりしない。
ランドクィールが王でなくなってからだって構わないのだ。
「少しの混乱は、時に大きな混乱を……」
彼らは行動し続ける。休む事はない。いつかを夢見て、願い続けるのだ。
◆◆◆◆◆
ランドクィールは、ここ数日抜けていた為に溜まっていた仕事の片付けに忙しかった。
別に机仕事が嫌いなわけではないのだが、表情は険しくなってしまう。頭の端に外に出たいという思いもある。それが見ていて分かったのだろう。宰相のイーリアスが無表情のまま説教を始めていた。
「毎日の決済の量は微々たるものです。緊急を要するものがなかったのは幸いでした。王である以上、そうそう城を空けるべきではないのです」
「……」
言わずにはおれないというのも分かっているのだが、素直に頷けない所があるのも確かだ。
「聞いていらっしゃいますか?」
「ああ……」
この仕事は王であるランドクィールにしかやれない事だ。しかし、ランドクィールが外でやってきた事は、例え時間や人員が多く必要だとしても、兵達がやればいい事だ。ランドクィールがやらなくてはならない事ではない。
だが、これだけは言っておきたい。
「だが、あれ以上対応が遅れていれば、あの村は消えていた。それだけは、王として我慢ならん」
「ラク様……全てを背負われますな。大陸全てを何事もなく治めるなど、到底一人でできるものではありません。この国はそれを強いてきましたが……完璧でなくても良いのです。目指される事が悪い事だとは言いません。ですが、可能な事と不可能な事はあります」
「……分かっているつもりだ……それでも、思ってしまうのだ……私がやればよかったと……」
今までも多くの後悔があった。それを知らなければ良かったと、何度思っただろうか。
これは驕りではない。ランドクィールならば可能だった事を、ただ見ているしかなかった。報告を聞く事しか出来なかったと後悔する。それが酷くもどかしい。
そんな感覚が嫌で、ずっと心を押し殺してきた。『他人など死んだ所で関係ない』と思うようにしてきた。けれど、今はそれではいけない。
ランドクィールは王で、この大陸に住む者達を守る義務がある。その為の行動なのだから、制限されるのはおかしい。そう思うけれど、心は完全に押し殺せるものではないのだと、最近分かった。
「この国の王は、力ある王です。だからこそ、下の者達が頼りにならないのも正直な所……それでも……上手く使っていただきたい。一人一人の力は小さくとも、何人も集まれば、あなたと同等の力も発揮できるはずです」
「……ああ……王がそうでなければならないのなら、そう努力しよう……」
「そうしてください」
この宰相の前では、ランドクィールも大人しくするしかない。そして、何より自分を見つめる事ができる。いつもは横柄にも見えるランドクィールだが、どんな立場の者であったとしてもその者を尊重する事を知っている。
そういうランドクィールをイーリアスは誰よりも理解していた。
「時間が空きましたら、兵達の訓練を見てやっていただけますか? またあなたがバルトロークと二人だけで出かけた事を知って、落ち込んでいるようですから」
「そうする」
ならば早く終わらせようと、集中して残りの仕事を片付けにかかったのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
口煩くても心配してるんで。
次回、水曜15日の0時です。
よろしくお願いします◎




