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第二部 116 大蛇の森

2017. 2. 27


第二部

月明かりが所々射し込む森の中。青年が一人、大きな大蛇に追われていた。


「ったく、なぜあんな手足もなくてこんなに速く移動できるんだ?」


愚痴りながら、青年は森の中を疾走する。方向に気を付けながら、少しでも戦いやすい場所はないかと辺りを注意深く観察していた。


大人の男を軽く丸呑みしても余裕がある胴回り。口は小さな家なら問題なく入れられてしまいそうなほどの大きさ。


そんな大蛇に追いかけられているというのに、頭はかなり冷静だ。焦ってはいるが、どんな時でも思考を止めたりしない。それは青年の長所だった。


「仕方ない。良い場所がないなら、作ればいいか」


拓けた場所があればベストだと思っているのだが、一向にそんな場所は見つからない。


丁度この森の中央辺り。休憩できる場所を作るのは悪くない。そんな考えを持ち、ふと振り返って大蛇を見る。


皮膚が固いのは、ここへ来る前に手に入れた情報と巣穴から引きずり出すのに魔術を当てた時に確認している。


今も行き先を邪魔する木を問答無用で倒していっている。頭で体当たりによって破砕し、バランスを取るのと移動する為にくねらせる体で通り過ぎる場所の木をなぎ倒す。


お陰で、一本の歩きやすい道が出来そうだ。これを利用しない手はない。


「体力には自信があるからな。開拓に付き合ってもらおう」


そう言って、青年は少しばかり方向を変える。上から見れば分かる。大きく円形を描くのだ。


最近、運動不足を気にしていた青年にとって、またとないチャンス。頭の中で作戦を練り続けていれば、必要以上に疲れを感じる事もない。かなりタフな体だ。


そうして、何度も円を描く事で倒れた木も良い具合に破砕され、月もどこからでも見られるように拓けた場所を作り出す事に成功した。


「素晴らしい。お前、何なら開拓組の一員として雇ってやるぞ」

《シュゥゥゥっ》


ようやく距離を取り、向かい合う事が出来た。大蛇は警戒しながら、青年を睨め付けて舌をチョロチョロと出す。


「うむ。では勝負によってはという事だな」

《シュルル……》


青年は決して大蛇の言っている事が分かるわけではない。勝手に解釈しているだけだ。


「行くぞ」


青年が気を引き締める。そして、腰にはいていた剣を抜いた。


一気に地面を蹴り、大蛇へ向かっていく。辿り着く前に前に突き出した剣の先に、小さな魔法陣が現れる。


大蛇の大きな頭が、攻撃の為に下りて来る。嚙みつこうと首を素早く前に出す。牙は毒でヌメヌメと光っていた。


それを巧みに避けながら、胴体に剣を突き刺す。しかし、皮膚は固く、とても剣が太刀打ちできるものではない。わかっていても剣を突き出すのは、単純に剣だけの力では無理だと理解した上だった。


「はぁっ!」


剣先の魔法陣が一回り大きくなり、光を増す。すると、大蛇の周りに数十の小さな魔法陣が浮かび上がる。


青年はそれを確認する事なく、大きく後ろへと飛んだ。それと同時に、魔法陣が発動し、一斉に氷の礫を大蛇へ降り注がせる。


《ギィィィっ》


青年の放った氷の礫は、大蛇の体に張り付き、その体の芯まで凍らせていく。


《シュゥゥゥッ》


大蛇は体を大きく揺らす。氷を剥がそうともがいているのだ。しかし、そう簡単に取れはしない。そうこうしているうち

大蛇の体が氷に覆われる。


しばらくすると、口を開いたまま大蛇は動きを止めた。


「まったく、呆気ないな」


そう言いながら、青年は剣を鞘に収める。


腰に手を当て、鎌首をもたげたまま固まってしまった大蛇を見上げる。


「う〜む……このまま開拓組にとも思ったが肝心な事を忘れていたな」


そうして、青年は大蛇に近付き、体の中を見透かすように眺めてから、もう一度剣を抜いた。狙いを定め、大蛇を氷ごと断ち切る。


「ここだっ」


サクっと、固い皮膚が嘘のように綺麗にスッパリ切れる。輪切りになり、空洞になっているその体から転がり出て来る人が二人。


「生きてるか?」

「うっ……」

「っ……」


一人はこの国の騎士の制服を着た青年。もう一人は村娘だ。


転がり出た騎士の方は、ぶるりと体を震わせた後、青年を視界に捉え、状況を思い出す。


「……あっ! 娘さんはっ」

「そこにいるだろ」


青年は慌てふためく騎士の男に呆れ顔で指摘してやる。


騎士は目の前に転がっている娘を揺り起こす。


「大丈夫ですかっ?」

「っ、こ……ここは……」

「よかった。生きてる……」

「まったく、手の掛かる奴だ」


青年はとんだ面倒ごとをさせてくれたなと少々ご立腹だ。


「……申し訳ない……」


騎士の男は、自分の失態を恥じて素直に頭を下げた。


「ふんっ、バル。さっさと村に帰るぞ」

「はい。助けていただきありがとうございました。ラク様」

「私は、自分の国を荒らすものが許せなかっただけだ」

「わかってますよ」

「ふんっ」


青年の名はランドクィール。この国の若き王だ。そして、騎士の名はバルトローク。王を守る近衛騎士の一人だった。

読んでくださりありがとうございます◎



第二部開幕です。

魔王であったラクト兄さんの過去へ。



次回、水曜1日の0時です。

よろしくお願いします◎


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