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114 魔女の弟子の呼び名

2017. 2. 15

クリスタの棲む山頂で丸一日が経った。シルヴァとドランは、騎士達を追っ払ってから、何食わぬ顔で合流している。


合流した時、バルドとノークはシルヴァとドランに尋ねていた。


「殺さなかっただろうな?」

「大怪我などなかったか?」


これにシルヴァとドランは得意げな表情で答えた。


《当然だ。二度と主の前に出て来られぬよう、最大限の恐怖を植え付けねばならんからな。殺しては意味がない》

《キシャシャ!》


それから、ファナとノークで毒の解析、解毒薬を研究している間、未だ一緒にいる異世界からやって来た男とシルヴァが、この世界の事について話しているようだった。


ラクトとバルドは食事を用意しようとしているし、ドランは母親でもあるかのようにクリスタにくっ付いて嬉しそうだ。


こんな感じで一日が経ったのだった。


そして次の日、陽も高くなった頃。毒の研究にも満足し、ファナ達はこの山を後にする事になった。


元々、ギルドからの依頼でやって来たのだ。町に広がった毒をどうにかする事とその調査が目的だった。勿論、ファナはクリスタに会う事が目的だったのだが、昨晩はクリスタと魔女について語り明かした。それで大満足だったのだ。


「それじゃぁ、クリスタ。またね」

《うむ。我が子の帰りでも待つように、次を楽しみにしておるぞ》

「は〜い。ほらドランも挨拶して」

《キ……キシャ〜……》


ドランは寂しそうに本来の姿のままのシルヴァの背中から鳴いた。


《またいつでも来い。お主もかわゆい我が子じゃ》

《キシャシャっ》


クリスタもドランを気に入ったようだった。その瞳は、慈愛に満ちている。


そして、クリスタはつい先ほど、ファナ達に着いて行くと決めた男に言った。


《故郷を想う故の行動であったと、今回の件は許そう。この後は、この世界で生きる事も考えるとよい》

「……はいっ」


クリスタの穏やかな瞳は、何もかもを包み込んでくれるような抱擁力を感じる。きっと男は今、そっと抱きしめられているように温かな心を感じているだろう。


会った時とは格段に丸くなっていた。


「まったく……ウチに来るなら働いてもらうからな」

「勿論だ。世話になる」

「ふんっ、先ずはその口の利き方からだな」

「ど、努力すっ、します……」


ラクトに負けず劣らずの横柄な話し方。それは、きっとかなり指導が入るだろう。


一行はクリスタに手を振りながら、黒霧に乗って侯爵家へ戻るのだった。


◆◆◆◆◆


ファナ達がクリスタと別れを惜しんでいる頃。多くの国では、王宮にとある噂が聞こえるようになっていた。


「それは本当か?」


シルヴァとドランによってボロボロになった騎士達。帰還の報告はしたが、王の予定もあり、報告書を書き終え、みっともなくなってしまった制服を直すよう手配してからの謁見だった。


騎士達は、一人の少女が中心となり、毒に侵された町の者達を癒していた事。そして、彼女の一行が、恐らくは毒霧を消し去った事。更に、ドラゴンや巨大な獅子を操っていた事を話した。


俄かには信じられない話。しかし、王は最近聞こえてくるようになった噂を思い出した。


「その少女が解決したというのならば、彼女は魔女の弟子だろう」

「ま、魔女と申しますと……渡りの魔女様で……?」

「そうだ」


噂とは、大陸の中央にある山脈の上に住み着いていた魔女の弟子が、山を降りて来たというものだ。


「恐らく、渡りの魔女様は違う世界へと旅立たれたのだろう。それで、弟子である少女が降りて来たのだ」

「魔女様の弟子……では、まさか使役していたのは白銀の王……っ」

「あり得るだろうな。山脈の向こうで、白い獅子を連れたのは、魔女の弟子と名乗る少女だったと」

「っ、あ、あれがっ、白銀の王っ。確かに、あの姿は獅子……っ」


騎士達は一様にぶるりと身を震わせた。そんなものに追いかけ回されていたのかと思うと、無事であったことが奇跡のように思えたのだ。


「お前達、逃げ回っていたらしいな。なぁに、殺す気はなかったのだろう。だが残念だ。是非とも一目見てみたかった」


王が心底残念そうに言う。それを聞いて、騎士達はドキリとした。自分達は何の成果もあげられずに帰還したのだ。今になって、失態だと気付いた。彼らはこれまで、無難にやってきたつもりでいる。しかし、確実な成果を上げた事はなかった。


いつも、権威を振りかざすだけで上手くいく。戦場では雑兵達に命じれば良い。そうして本当の実績を持たぬまま来てしまったのだ。


この国には、毒を吐く木がある。それによって、他国はまず欲しがらない。山から毒は下りて来ないと、この国の者達は知っている。だが、そんな事を他国が知ろうとするはずもなく、戦いらしい戦いもなかったのだ。力がなくても、貴族であるだけで騎士になれてしまったのだ。


毒を抱えるこの国を王は支えてきた。会いたいと言ったのは本当だ。しかし、無理やり連れて来いと言ったわけではない。


「失礼な事をしたのではないか? 民達を救ってくれた恩人に」

「っ……も、申し訳ありませんっ!」


騎士達は、ようやく自分達の愚かな行いに気付いた。頭をを下げても何も変わらないが、そうすることしか彼らには出来なかった。


彼らを前に、王は出来の悪い息子達を見るように苦笑して呟くように言った。


「礼はせねばならん。居場所が分かれば良いのだが……『救世の魔女』様はどんな方なのだろうなぁ」


ファナは知らなかった。大陸中に今や広がりつつある。渡りの魔女の弟子。その弟子の呼び名は『救世の魔女』。これから、多くの伝説を残す事になる少女の呼び名だった。




第一部 完


読んでくださりありがとうございます◎



一応、第一部としました。

次話は総集編的な人物紹介を入れる予定です。



では次回、少し飛んで月曜20日の0時にと思っております。

その間に新作の算段もつける気でおりますので、よろしくお願いします◎


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