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113 遊んでいるんだと思います

2017. 2. 13

ファナ達の前にやって来たのは五人の騎士だ。キラキラと高くなった陽の光を反射する騎士の制服を着ている。近くで見ればわかる。鎧のようなものではなく、織り込まれた糸が光っているのだ。


「この町の異変を収めたのはお前達か」


そう声をかけたのは、胸をしっかりと張り、馬上からファナ達を見下ろして先頭に立つ騎士達の中でも年長の者だ。


これに下手な返答をするのはマズイと思ったのだろう。ノークが顔を上げすぎないように気をつけながら言った。


「我々に何の御用でしょうか……」


ここではっきりとものを言うのではなく、少し弱腰に見えるように声のトーンも安定させないのがコツだ。


騎士達はそんなノークの様子に、自分達の力が上だと思え、気を良くしたようだ。


「毒の山の脅威から救ったお前達に、王が会いたいと仰せだ。着いて来るがよい」

「はぁ……」


チラチラと騎士達に気付かれないようにファナへ視線を送るノーク。ファナはノークの視線に気付いていても、騎士達を物珍し気に見つめているため、目は合わない。


そんなファナを隠すように、ラクトがファナの前に一歩で滑り込む。そして、ラクトはいつも通りの調子で騎士へ返答した。


「我々は冒険者だ。生きる場所もこの国ではない。よって、この国の王が会いたいと言ったからとはいえ、行ってやる義理はない」

「「……おい……」」


穏便に済ませようとしていたノークとバルドは、この物言いに呆れていた。


ラクトは察しが悪いわけではない。騎士達の面倒さを知った上ではっきりとものを言うのだ。勿論、これは自国の騎士や王に対しても変わらない。


高慢な王であったなら、侯爵家の当主であっても叩き伏せてしまっていただろう。ラクトは媚びへつらう事が大嫌いなのだ。


当然、こういう事になる。


「貴様っ!! 無礼にも程がある!」

「無礼なのはそちらだろう。話をする時、何より頼み事をする時は馬から下りるべきだ」


淡々と正論を言うラクトに、騎士達は顔を怒りで赤くしていく。


「っ、そこへなおれ!!」

「すまんが、ナオレという意味がわからん。もう行くぞ」

「いいの?」


ファナも相手をする気はさらさらないのだが、一応流れ的にお決まりのセリフを出しておく。


それにラクトは当然だろうと頷き、ファナの背へ手を回すと、騎士達に背を向けて山の方へ歩き出した。


「ほ、本当にいいのか!?」


黙って見ているしかなかった男は心配そうな顔をしながらも、ラクトとファナの後に続いた。ここで自分が残っても仕方がないと思ったようだ。


それはバルドとノークも同じで、もうラクトが相手をしないと決めた以上、ここまでだとラクト達を追った。ノークは振り返り、騎士達に一応言っておく。


「すまないが、失礼させていただく」

「っ……な、ふ、ふざけるなっ!」


そう叫ぶように言った騎士の前に、本来の姿になったシルヴァが現れる。のそりと騎士達を警戒するように睨みつける真っ白で巨大な獅子。初めて見たそれが恐ろしくないわけがない。


「ひっ」


思わず出てしまった悲鳴は、隊長らしき者の後ろに控えていた騎士達だ。


ファナが見れば、シルヴァの動きは騎士達を悪戯に怖がらせてやろうと思ってのものだと分かる。


「シルヴァ。あんまりイジメちゃダメだよ?」

《グルルル……っ》


きっとニヤけているだろうなと、わざとらしい唸り声で感じた。


そして、そんなシルヴァの背に小さなドランがいる。それを見て、ファナはドランを小鳥サイズから子猫サイズへ変える。


「なっ、なんだアレは……っ」


騎士の一人が気付いた。ドランはシルヴァの楽し気な様子を感じ取り、一緒になって騎士達をからかう。


《キシャァァァっ!!》

「うわっ」


どうやら、ドランを生き物だと認めるのが怖かったのだろう。三つの首を持つ生き物などそうそう見られるものではない。想像もしていなかったはずだ。


逃げ腰の騎士達。やる気十分なシルヴァとドラン。これはやるしかないだろう。


「シルヴァ、ドラン。そいつら追っ払って」

《グルルル!》

《シャァ!》

「なっ、なにぃっ!?」


そうして、シルヴァとドランが馬を威嚇した事で騎士達が町へ向かって駆け出す。それを二匹が追いかけて行った。


「あれ、いいのか?」


バルドが心底呆れた様子で尋ねる。


「いいよ。シルヴァも遊んでるだけだから、ただ馬は気の毒。途中であの騎士達を振り落とすだろうな〜」

「そうしたら悲惨だな」


男は同情の眼差しを騎士達が消えていった方へ向けた。


「あんなもの放っておけ。それより、クリスタの所に行くんだろう?」

「うん。行こ」


ラクトはまた黒霧を召喚してファナを促す。そうして、ファナ達はシルヴァとドランに騎士達を任せ、山頂へ向かったのだ。


シルヴァとドランが飽きて、騎士達がようやく解放されたのは、日が落ちてからだった。


途中で馬に振り落とされ、這々の体で町中を逃げ回った彼らは、路地裏でビクビクとしながら一夜を過ごし、次の日の朝、ボロボロになった服を恥ずかし気に隠しながら城へ引き上げて行ったという。


読んでくださりありがとうございます◎



遊ばれて終わりです。

ただ、王様の方は知りませんよ?



では次回、水曜15日の0時です。

よろしくお願いします◎


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