107 彼らの行方は?
2017. 1. 30
ノークとバルドは、山とは逆の方から現れた一団を見て、面倒だなと揃って舌打ちした。
馬に乗ってやって来たのは、この国の兵だ。彼らが何をしにきたとしても、面倒である事には変わりない。
どんな命を受けてきたのかと、二人は身構える。
「お前達! ここで一体何をしている!」
『あぁ、面倒な』と思わずこぼしてしまいそうになる表情と質問に、ノークはイラつきを抑えるようにゆっくりと大きく息をした。そして、自分自身に落ち着いて話すようにと意識しながら名乗った。
「私は薬師をしておりますノークと申します。この町には友人の知人がおりまして、様子を見に来たという次第です」
この時、ギルドを通して来たと正直に答えてはいけない。ギルドで請け負ったという事は、国の兵達では対処できなかった事だとも取れる。
彼らの矜持をなるべく傷付ける事なく早い所離れるべきだろう。無害であると認識させるのだ。
「では、そっちのお前は」
「俺は……」
バルドが冒険者なのは明らかだ。ここで彼らにとって重要なのは、何をしに来たのかだった。バルドがボロを出す前にとノークが変わりに答える。
「彼は私の友人の一人で、薬草を集めるなどの手伝いをしてもらう助手のようなものです。冒険者ですので、護衛の意味でも一緒におります」
これならば、おかしな邪推をされる事はないだろう。
ノークとバルドは、ギルドからどういった経緯で依頼があったのか知らない。国の兵達がまだ自分達で解決すべきものだと認識して来たのなら、少し厄介だ。
冒険者と国の兵が完璧に住み分け出来ているといえば嘘になる。お互いが友好的にと心がけてはいるが、現場でモメる事は珍しくはないのだ。
彼らが今回、どういった目的で現れたのか。それを知らなくては動けない。
ノークの物言いに疑問を持たず、兵は追及することを放棄する。
「そうか。では、お前達は早く町を出ろ。我々の邪魔をせんように。行くぞ!」
「「「はっ!」」」
どうも、大変ヤル気のある兵達らしい。なにを張り切っているのかは分からないが、本当に面倒なことになりそうだ。
ノークとバルドは、彼らに道を譲ると二人で顔を見合わせた。
「あれ、行かせていいと思うか?」
バルドはこの後起こるかもしれない事態を思って顔を青くする。
「良くないのは分かるが、俺達だけで、あれだけの人数を相手にはできないだろう。まぁ……無事を祈ってやろう」
「……ラクト達じゃなく、あいつらのな……」
間違いなく、無事でいられないのは兵達の方だろうと二人は揃って確信し、その現場へ向かうべく日の暮れた薄暗い道を進むのだった。
◆◆◆◆◆
ファナ達は、そんな不粋な兵達の気配を感じていた。
「毒霧って、役に立ってたんだね〜」
少なくとも、ファナ達の行動を妨げるようなバカは来なかっただろう。
「もう日も暮れたし、そろそろバルド達、戻ってくるよね。どこで野営する?」
かなりの量の木を処分できた。山の近くはまだ危ないが、町を覆う程の毒はなくなっていた。
ラクトは町の方を眺め回してから、振り返って山の上を見上げる。それから、考えるように顔をしかめて言った。
「上にするか。バルドとノークが戻って来たら、黒霧で上まで行こう」
そんなラクトの意見に、男は首を傾げた。
「いいのか? あまり野営をさせたくないと言っていたように思うが……」
ファナを野営させるのがラクトは気に入らないようだった。しかし、ラクトは面倒そうな兵達の来られる町に降りるよりもファナの安眠を守れると思ったようだ。
「ファナにバカ共の相手をさせるよりはいい」
「なるほど……確かに、国兵ほど他人の話を聞かないものはないからな」
男は、そんな経験に裏付けられた意見を言って賛成する。
「そうなんだ。けど……バルド達、上手く避けて来られるかな?」
「……別ルートを考えてもらわなくてはな……」
そう言って、男はバルドとノークの位置を確認したらしい。
しかし、バルド達が兵達を避けて登ってくる事よりも心配な事があるとラクトが指摘する。
「バルド達より、あいつら……クリスタとシルヴァの方へ向かっていないか?」
「「あ……」」
そう、彼らが向かっていたのは、クリスタ達の方だったのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
良くない方に向かっています。
彼らにとってですが。
では次回、水曜1日の0時です。
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