106 減らしていきます
2017. 1. 27
ファナとラクト、異世界から来た男の三人で、毒霧を吐く木を処分している間、シルヴァとクリスタは、町を覆っていた毒霧を上空へ舞い上げていた。
その様子を山の裾野の辺りから見ると、今まで見えなかった町の景色が見えてくる。
「けっこう広い町だったんだね」
毒霧の覆う山の近くにある町として考えるならばこの規模にはならないだろうと思える広さがあった。
そんな感想に、ラクトがこの辺りにある言い伝えを教える。
「山の神がいるから、信じていれば絶対に安全だと思っているのだ。一方では、邪悪なドラゴンが毒を吐いていると言っているがな」
「うっわぁ〜、スッゴイ勝手」
その山の神が邪悪と言うドラゴンだと、人々は知らない。
一方では祈り、その裏では嫌悪する。知らないとは気の毒だ。
「やっぱり、良いドラゴンなんだよな……」
男が呟くその言葉を聞いて、ファナは男を見る。
「良いドラゴンとか、悪いドラゴンなんて、こっちの勝手な思い込みでしょ? クリスタはクリスタだよ」
「そう……だな……俺は、自分の敵になるものは、全て悪い奴だと思い込んできた。だから、魔王になるなら、そんな悪い奴らを従える必要があると思っていたんだ……」
「もしかして、ボライアークも?」
「あぁ」
人々に悪いものだと認識させ、それを従える。それによって、魔王をより脅威に感じるだろうと思ったのだという。
今まで仕掛けて来た事は、全てそのためだったらしい。
「本当に魔王になりたかったんだね」
「なりたいというか……居場所が欲しかったんだと、今は思う」
男は、怒りに任せて行動したまま長く過ごしていた。それは、場所が変わっても同じだ。ここでようやく自分を省みる事が出来たようだ。
ラクトも男のそんな様子を見て、安心したのだろう。
「おい、お前。手を動かせ」
「あ、はい」
ぶっきらぼうにラクトが言うが、その表情の裏に優しい笑みが隠れているのがファナには分かる。男が素直にまた木を切り出す。
男は、もう何十本と木を切っている。ファナとラクトは、魔術を発動させるだけだが、男は違う。
魔術も使ってはいるが、剣で切っているのだ。それも、一撃のみでだ。体を勢い良く振って、力を込める。それがどれだけ大変か、考えるまでもなくわかる。
男の額には、汗が伝っていた。
「大丈夫? 少し休む?」
疲労していくのは当然だろう。木を切るという動きだけでも大変なのだが、その上に毒を吸わないよう、魔術でそれぞれが空気の膜を作っているのだ。
その魔術だけでも軽減できれば、少しは楽になるだろうと考えたファナは、更に男に声をかける。
「封囲術だけでも、やってあげるよ」
そんなファナの一言が、とても良く聞こえる者は面白くない。そして、ファナが半ば予想していた結果になった。
「ファナの手を煩わせるな。まったく……私がやってやる」
そう言って、問答無用でラクトが男を毒から守る封囲術を施した。
「兄さん、優しいね」
「そ、そうか……? ファナにも優しくするぞ」
「いい、今いらない」
「そんなっ!?」
二人の束の間の掛け合いに、男は笑顔をみせた。
「ははっ」
「お〜、笑った。余裕だねぇ」
「そうか。余裕なのか。ならば、休まずさっさと済ませろ。 いつまでもファナに野宿をさせられんからな」
「別に野宿慣れてるけど?」
「ダメだ。ほら、急ぐぞ」
「は〜い」
「分かった」
こうして、確実に木は処理されていく。日が暮れる頃。男が植えた木の大半を処理する事ができたのだ。
◆◆◆◆◆
一方、ノークとバルドは、クリスタとシルヴァによって、外の空気が吸えるようになると、順に家の扉を開けていく。
「こっち二人だ」
「そっちのベッドに運んでくれ」
バルドが家の中を素早く点検し、床に倒れている状態の人を見つけてノークの前に並べるのだ。
そうして、日が暮れる前までに数十軒を回り終えた。
「そろそろ、最初の家の者達は目を覚ますだろうな」
「マジか。ってか、クリスタとシルヴァ
はまだやってんのか」
「ラクト達がかなり木を減らしたようだがな」
目に見えて、上空へ巻き上げられていく黄色い毒霧が減っていたのだ。
ただ、シルヴァもクリスタも、山の入り口辺りに居座っているので、人々が起きたら大騒ぎになるだろうなと呑気に考えていた。
今日の作業もここまでにするかとファナ達と合流する為、シルヴァのいる所へ向かおうと思った時だった。
ドコドコと地響きが聞こえてきたのだ。
「なんだ?」
バルドとノークは音のする後方を振り返る。すると、足下に砂煙を上げながら、この国の兵達が馬で駆けてきていたのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
何かやってきました。
では次回、月曜30日の0時です。
よろしくお願いします◎
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番外編としては読み応えのあるものになったと思います。
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紫南




