103 その先を考えてますか?
2017. 1. 20
ファナはまた男に近付いていく。ラクトは地面に伏したままだ。そんな情けない姿のラクトを指差しながら言った。
「あんなのに対抗意識燃やすなんて、損な生き方してるね」
「な、なに?」
「だって、席が空くの待つより、ここまでやるなら、勝手に第二の魔王って感じで宣言しちゃえば良かったのに」
「……っ」
思い付かなかったらしい。
「あんな魔王の後を継ぐより良くない?」
「……確かに……」
男は倒れているラクトを呆れながら見た。
すると、ここまで黙って傍観していたバルトとノークが言う。
「そもそも、魔王になるなんて回りくどい事をなんでしてんだ?」
「魔王より強いというなら、魔女殿のように異世界へと渡る術も使えるのでは?」
二人は、呆れ顔でそう指摘する。それにファナは手を一つ打つ。
「そうじゃん。ないなら作れって師匠に教えられたよ」
「作る……」
これも考えた事はなかったのだろう。
そんな話をしている所で、ようやくラクトが起き上がった。
「やっと動いた。何やってんの」
「ファナが心配して駆け寄って来てくれるのを待っていたんだが……」
「それは無駄な時間だったね。それより、世界を渡る術だよ。師匠には最初のさわりしが聞いてないんだよね〜」
興味はあったが、他の世界へ行った所で何かしたいと思えなかった。その為、いつかちゃんと教えてくれと言って終わっていたのだ。
「教えてくれっ」
「……教えてくださいだろう……やはり毒霧の中に放り込むか……」
ラクトがファナに馴れ馴れしい事で少々キレ出したようだ。
「ちょっと、余計な口挟まないで」
「なっ、何に怒っているんだっ? 妻が多いのは、半分はファナがいけないんだぞ?」
「はぁっ? なんで私なのよ」
訳の分からない言い訳をし出したと呆れながら、ファナは腕を組んで睨み付ける。
「うっ、あ、アレらはお前の母親になりたいと言ってだな……ファナ? 聞いてるか?」
「聞いてない。いいから黙ってな」
「……はい……」
ラクトを黙らせた所で、ファナは男を囲っている檻を壊した。
「なっ、ファナっ!?」
「うるさい」
もう振り向いたりしない。ファナは男へ言った。
「ねぇ、確認したいんだけど、元の世界に帰りたいからこんな事したんだよね?」
「そうだ」
「召喚されてから何年経ってるの?」
男は檻を突然壊された事の驚きなど忘れて真剣に考える。
「え……多分……八……十年だ」
「師匠に聞いたけど、七年くらいが行方不明になってからのリミットじゃなかったかな? それに……何歳の時に召喚されたの?」
男は二十にまだなっていないだろう。それならば、普通に考えて十歳かそこらで召喚されている事になる。
だが、ファナはそんな若い頃に召喚されたと確認したいわけではない。もっと気をつけなくてはならない事を確認したいのだ。
「十九の時だ」
「なら、召喚されてから年取ってないんじゃない? どう見ても二十くらいにしか見えないもん」
「……そういえば……」
男は、自分の体の成長が止まっている事に、今ようやく気付いたのだ。
「世界によって時間の長さは多少違うって師匠に聞いた事あるけど、多少なんだよ。あなたの元の世界は、年を取ってない人が現れても何とも思わない所?」
「……っ」
ここで男は自分の体の異常を感じた。召喚された頃から全く姿が変わっていないようだ。本来ならば三十間近。それなりの変化はあるはずなのだろう。
「どうする? それでも帰りたい?」
「……考えて……みる……そのっ」
男は真っ直ぐにクリスタを見つめた。
「勝手をして申し訳なかった」
そう言って頭を下げる。それにクリスタが答える。
《ならば、元に戻せ。妾は、それで構わぬ》
クリスタは鼻を鳴らし、そっぽを向いた。新たに植えた木をどうにかするならば、全て見なかったことにしてやると言いたいのだろう。
男は、難しい顔をしながらも何とか頷いた。
「わかりました……」
そして、振り向いた男はファナへ言った。
「こんな事を言うのはおかしいが……手伝ってくれないか……」
これにファナはあっさり良い返事をした。
「いいよ〜」
「おいっ、ファナ!?」
ラクトは焦ってファナと男の間に入って止めようとするのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
素直な青年なのかもです。
ちょっと周りが見えていなかったのでしょう。
色々抱えていたようですから。
では次回、月曜23日の0時です。
よろしくお願いします◎




