表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/107

第八十七話 灰色の空が灰色に見える

約三週間ぶりの更新です。

お待たせいたしました。

 



 ――少年は気が付かない。自分の奥こそに芽生えつつある恐怖に。


 ――少女は気が付く。少年が抱きつつある恐怖に。


 ――だから少年は我武者羅に突き進む。


 ――だから少女は少年を突き放す。


 ――彼らの想いや思いは交わることが無い。


 ――交わらない感情は純粋で。


 ――純粋だからこそ残酷で。


 ――そんな残酷さは陰に潜んで近づいてくる。


 ――だから少年は気が付かない。自分の奥底に芽生えつつある恐怖に。


 ――そして気が付いた時には、今までの無知さの代償として、彼の大切な所は跡形も無く………バラバラに崩れ去る。


 ――その事を少年は知らない。











 鼻を突く『なにか』が焼ける臭いに表情が歪むのが分かった。

 自分でも何でかは分からない。けど、その臭いが自分の中に途轍もない程の忌避感や絶望感といったマイナスの感情を生んでいるのは確かだ。胸がムカムカする。それは異臭が肺に取り込まれた事による圧迫感だけじゃない。

 ……そもそもそんな事では忌避感は生まれるかもだけど、絶望感は生まれない。


『どうする?!』


『とりあえず、中を確認しない事にはどうしようもねぇよ!』


 視線の先で盗賊二人が相談し、二人して洞穴へと入っていく。

 どうやら念のために一人でも見張りを残しておくとか、そういう気さえ回らない程に切羽詰まっているらしい。

 みーちゃんからはここを絶対に動かないように言われているから、ここから移動することは出来ない。もし、ここで俺が洞穴の中へ突撃すれば、こっそりと出入り口から外に出て逃れてしまう盗賊が出てくるかもしれない。それだけは絶対に阻止しなくちゃダメだ。


 ちなみに、盗賊は基本的にその存在が断定された時点で処刑対象となる。

 この世界では盗賊ってのはそれだけの悪だって事だ。


 そんなことを考えていると、


『んなの、やってられるかぁ……!』


 と、一人の男が洞穴から這う這うの体で出てきた。その顔には見覚えがある。確か、さっきまでこっちの出入り口で見張りをしていた奴の一人だ。

 どうやら一人で洞穴から逃げ出してきたらしい。服は所々焦げていて、髪も解れていてぼさぼさだ。


『あんなの相手にしてたら命がいくつあっても足んねぇっ! 俺は逃げる……逃げるぞ!』


 ぶつぶつ男が呟く。妄執に憑りつかれたように洞穴から遠ざかっていく。


 ――行かせちゃいけない!


 その咄嗟の思いが心を一瞬の内に覆い尽くした。まるで、今まで感じてきている『なにか』から目を背けるように。

 けど、そんな事はどうでも良い。どうでも良いんだ。


 きっと、『それ』は――こんな大事な時にまで顔を出してくるその『嫌な感じ』は――ロクでもない事に違い無いんだから。


 だから――


(今更、目に見えない何かに怯えてんじゃねぇ!)


 そんな激情を胸に、今にも視界から消えそうな盗賊への対処の算段を頭の中に思い描いた。


 辺りを見渡す。視界に映るのは、緑一色の森の景色。

 こうも障害物の多い場所では魔法を繰り出すのは得策じゃない。だから――


(近接戦闘で仕留める)


 そう決断した次の瞬間、俺は身を潜めていた茂みから飛び出し、地を蹴った。


『なっ……! くそがぁ!?』


 こちらの存在に気が付いた盗賊もまた、迎撃のためだろう、腰に刺した鞘からボロボロの片手剣を引き抜く。盗賊がその剣を構えた。ビクビクと不自然なほどに安定しない剣先がこちらに狙いを定めている。


「はああああああああ―――――――っ!?」


 ――雄たけびが自分の口から洩れているのが分かる。


 相手を声だけで吹き飛ばすかのように、俺は腹から声を振り絞っていた。

 盗賊の姿が段々と近づいてくる。


 その度、体に突き刺さったヒリヒリとした悪意の視線がその度合いを強めている。

 けど、その迫力は師匠の殺気には遠く及ばない。だから、何の問題も無い。そう、少しだけ弱気になりそうな自分を叱咤する。


 そして足を強引に前へと。――体を前方に送り出す。

 地面に張っている木の根で足を取られないように気を付けながら、その上での最大限の力を足に込め――跳躍。

 瞬きする暇も与え無いと言わんばかりの速さで盗賊の懐に潜り込んだ。


「くそったれぇええええええっ!」


 俺の接近に一拍遅れて気が付いた盗賊の男が手に持つ片手剣を振り上げる。

 手入れも満足にされていない刀身は木々の間から刺す日の光を鈍く反射し、そして振り下ろし。


 ブンッ!


 と、唸りを上げて刃が牙をむく。

 しかし、俺は自分に向かってきたそれを右手に握ったナイフで弾いて強引に軌道を横に反らした。


 ――ガキンッ!


 甲高い金属音が響いた。視界の隅っこで小さな光が瞬いた。火花でも散ったのかもしれない。


 続いて、盗賊が横なぎの一閃。これは頭を下げて躱す。

 大気を切り裂きながら、鈍色の刃が頭頂部を掠めていくのが分かる。

 少し背中に嫌な汗をかく。


「おぉっ?!」


 俺が躱した斬撃を咄嗟に止められなかったのか、盗賊の片手剣が勢いそのままに左に流れ、盗賊の体もそれにつられて左に傾く。


 そんな盗賊の様子を見て、その場で跳躍。空中で体勢を整えて、隙が出来た脇腹をドロップキックの要領で蹴りつける。盗賊の体に自分の足がしっかりと埋まる感覚。

 ゴキッ、っていう何かが折れた音が響いた。盗賊の肋骨が一本か二本ぐらい折れたのかもしれない。ともかく、人の骨を折るのはいい気分じゃない。嫌な感触だ。


「ぐああぁぁぁぁ……――!」


 盗賊の叫び声が段々と遠ざかっていく。どうやら、結構な距離を吹っ飛んでいったみたいだ。


 そんな盗賊の声を聞きながら空中で再び体勢を制御。両手両足四つん這いになって衝撃を緩和。上体がすとんと地に落ちて、結果、まるで陸上選手のクラウチングスタートのような体勢で着地した。

 そして間髪入れずに片足で地を蹴る。


 静止状態からの急激なストップ&ゴー。

 体が一気に加速して、単調な森の色が視界の端を後方へと流れていく。


 俺が向かう先。盗賊は元いた位置から軽く三十メートルは吹き飛んでいた。

 そして、その体は――まだ地面に横たわったまま。

 頭を強く打ったのか、それとも視界がぼやけているのか、頭を左右に振っている。

 どこからどう見ても無防備そのものだった。


(いける――っ!)


 確信する。

 最早、俺の勝ちは揺るがない。


 あっという間に、彼我の間合いはゼロになる。

 右手のナイフを握り込む。


 そうだ。ビクビクと生まれたばかりの小鹿みたいに小刻みに震えている右手で……いや、それでもナイフを落としそうだから、一本のナイフを両手で握って――って、あれ?


(なんで、俺の手は震えてんだ……?)


 右手を――そして、自分の小刻みに震えている体を見て、そんな疑問が生まれた。


「は……?」


 訳、わかんねぇ。


 何がどうなった?

 どうして――いや、そもそもこれは……この震えは何なんだ!?


 止まれよ! 止まってくれよ!


 そう、心の中で叫んだ。


 震えを止めようと、両手に力を込める。自分の体を掻き抱く。

 でも、一度気が付くと、もう止まらなかった。


(怖い)


 まるで今まで押さえつけていた『ナニカ』が顔を出したように。


(怖い怖い怖い)


 今まで目を反らしてきた嫌なものを改めて視界に収めた時のように。


(怖い怖い怖い怖い怖い)


 恐怖。忌避感。嫌悪。そんな胸やけを起こさせる悪感情が心を覆い尽くしていく。


(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)


『気のせいだ』


『大丈夫』


 そんな根拠のない言葉なんて入り込む余地が無い程に、心が黒一色に染められていくのが分かった。


(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)


 ――カコン


 小さな金属音が辺りに響いた。

 足下を見やる。そこにあるのは、一本のナイフ。

 右手にかかっていた重みは既に存在していない。


 ひろ……わなきゃ。


 このナイフを拾って振りかぶって盗賊に突き刺さなきゃ。


 たったそれだけで済むんだ。そうだ、だから―――――――さっさと拾えよ!


 しゃがみこむ。震えが止まらない右手でナイフの柄を握って持ち上げる。

 けど尚も止まらない体の震えがそれを阻んだ。持っていたナイフは俺の事を嘲うかのように手の間をすり抜けて再び落下。コツン、という音を立てて地面に落ちた。


「何なんだよっ!」


 もどかしい。恨めしい。訳わかんねぇ!


 自分の事が分からない。何で今、俺の体の震えが止まらないのか、何を恐れているのか、理解できない。唯々、真っ黒な感情だけが心を支配していて、何も考えられない。考えたくない。


 何も考えず、何もせずにこのまま――。


 ――って、んなこと言ってる場合じゃないだろっ!?


 みーちゃんに言われたんだろっ! 『こっちはユウ君に任せる』って。

 だから……動いてくれ――動けよっ!


「あああああああああああああああっ?!」


 弱気な自分を叱咤するために声を振り絞る。

 そんな声に背中を押されるようにして、再びナイフを手に取った。

 ズシリと金属特有の冷たい重みが手にかかる。

 それは途轍もなく冷徹で、それを落とさないように今度こそ両手で握りしめた。

 再び、横たわって盗賊の男へと近付く。


 ……止まらない。手足の震えも。心臓の爆音も。嫌な感覚も。


 多分、今の俺を客観的に見れば物凄くかっこ悪く映るんだろう。

 今、みーちゃんに見られたら……軽く死ねる。それぐらいに情けなく思えた。


 そして、そんな俺を見て、盗賊の男は口をアワアワさせて怯えている。


 どんな状況だよこれ。


 そんな事を考えながら一歩一歩足を引き摺るようにして進む。

 その間も盗賊の男は起き上がらない。さっき蹴った時、骨を折った感触があったから、結構なダメージを受けていたのかもしれない。いい気分じゃなかったけど、今となっては好都合だ。


「ま、ままままままままま待ってくれ!」


 そう言って盗賊の男が顔を上げたのは、丁度、今の今までむせ込んでいた男の枕元に俺がたどり着いた時だった。地面に這いつくばって、恐怖かなんかで濁った目でこちらを見上げている。


 その目は六年前、俺をいじめていた奴らにどこかそっくりで――


「黙れッ!」


 一喝。胸に溜まったモヤモヤを発散させる勢いで叫んだ。


 その目が嫌だった。


 その目が怖かった。


 その目がとてもむかついた。


 その目をしていた奴のせいで、俺はあの時――みーちゃんと離れ離れになった。


 だから……だからっ―――――――――!


「―――――はあっ!」


 もう、手の震えは止まっていた。ただ、プツリと何かが切れた様な音が耳に残っている。


 そんな少し不思議な音を聞きながら――俺はナイフを盗賊の腹に振り下ろした。


 返ってくるのは、刃が繊維状の物を裂く妙に柔らかい感触と、


「ぎゃああああああああああああああああ?!」


 という野太い絶叫。


 盗賊の両手足が激痛の為か、ビクビクと痙攣しだした。

 目は限界まで見開かれ、口からは泡が漏れている。


「……あぁ、まだ生きてたのか」


 ナイフを盗賊の体から抜く。もう一回振り上げる。振り下ろす。


「ぎゃぁぁぁあああ……」


 絶叫。


 手には硬い物にぶち当たる硬質な感覚。骨にでもぶち当たったのかもしんない。


 まぁ、いい。ともかく、まだこいつはシンデイナイ。


 ナイフを抜いて、振り上げて、振り下ろす。


「ガウッ?!」


 盗賊の口から赤い液体が噴き上がる。頬にその液体が付着した。少し、生臭さが強くなる。べっとりとしていていい気持ちはしないので、袖で液体を拭った。


「や、やめぇ――ゴフッ!」


 あぁ、手が赤い液体でヌルッってしてきたな。

 そんな事を頭の片隅で考えながら、ナイフを突き立てる。


 盗賊の男がガラガラの声で何か叫んでいたような気がするけど……ま、いいか。

 どうせ、どうでもいいことだろうし。


 もっかいナイフを腹に落とす。

 刃がグジュグジュになった腹の肉の塊に落ちるのとほぼ同時に男の目から光りが消えた……気がする。


「この……人殺しがぁ……」


 そんな男の声は明確に聞こえた。


 けど、それを無視して俺の手は動き続ける。

 もう、後には引き返せない――そんな不確かな確信が胸に芽生えていたから。













 どれくらいナイフを突き落としたのか……分からない。

 とりあえず、腹が真っ赤に染まるぐらいには盗賊の男に穴を空けた。


 何度も。何度も。何度も何度も何度も。

 いっそ、半永久的に同じ作業を繰り返す工場の機械みたいにナイフを振り続けた……と思う。というのも、途中から記憶が曖昧なんだ。


 いつの間にか男は声を上げなくなって、それに気が付いた時、決定的に何かが俺の中で『外れた』ような感じがした。――それが鮮明に覚えている最後の記憶。そっからは鼻を突く鉄の臭いと、視覚を占領する赤一色だけしか印象に残っていない。

 自分自身何を考えていたのかも、何を思っていたのかも、よく思い出せない。


 唯、一つ言えることがあるとすれば、今、俺の目の前で体中を真っ赤に染めて倒れている盗賊の男は――『死んでる』。

 息してないし、目は真っ赤に充血させたまま瞬きもしない。唇は不健康そうな紫色に染まりかけていて、ついさっきまで痙攣していた両手足も微動だにしない。

 そこからは一切の生気が感じ取れない。


 改めて思う。これをやったのは紛れもなく俺だ。

 俺がナイフを突き刺して、俺が内臓を滅茶苦茶にして、俺が血みどろにした。


(――ってどんだけ今更の話だよ)


 盗賊の男も言ってたじゃないか。


『この……人殺しがぁ……』


 そう。

 俺がこの男を殺した。


 そう思うと―― 


 ゾクリと、背筋が泡立った。

 言いようのない倦怠感が体中を支配しだす。

 胸の奥、食道の管を何かが這い上がってくる……そんな感覚がした。


 ――気持ち悪い。


 そう思い始めると、もう止まらなかった。


(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い―――――――――――――っ!?)


 膝を突く。手で口を押えて、胃の中の物を吐き出したい衝動を必死でこらえる。

 もう、周りの事を気にしている余裕なんて全然ない。

 最低限、人としての尊厳を守ることで精いっぱいだ。


「あ………あぁ……っ!」


 俺自身、何か叫びたかったのかもしれない。叫んで、現実から目を反らしたかったのかもしれない。けど、口から洩れたのは意味を成さない呻き声だけ。そんな絞り出された呻き声も虚しく空中に溶けていく。

 このまま、俺も溶けてなくなってしまいたい。切にそう思った。


 知らなかった――人を殺す感覚を。

 知りたくなかった――人を殺した事の罪悪感を。


 目の前で息絶えているこの男は間違いなく悪い奴だ。人を平気で慰み者にして、下種な表情で人の命を笑っていた。それに対して黒い感情を覚えたのも事実。実際、俺はこの男の濁った瞳に黒い感情を爆発させて手を下した。

 それでもこの男は、間違えようも無く、どうしようもなく――一人の人間だった。

 明確な自我を持たず、暴虐の限りを尽くしている魔物とは違う。自我のある一人の人間だった。


 そんな人間を俺は殺した。

 その事が一本の槍となって胸を抉ってくる。それがとても痛くて発狂しそうになる。

 初めて魔物を殺した時とは違って、俺が殺したという事実に攻めたてられる。そんな気分だ。


「くそっ……」


 視界が歪んで見える。

 背中にも変な違和感がある。

 体中の震えが止まらない。

 同時に視界が揺れに揺れて更に気持ち悪くなって、頭の中が真っ白になりそうになる。


 そんな風に色々なものに心が押しつぶされそうになっていた時。


「……ユウ君?」


 今、一番俺の事を見てほしくなかった女の子の声が聞こえた。


 顔を上げて後ろを振り向く。


「あ……」

 俺からあまり離れていない大木のすぐそば。目測で五メートルぐらいの場所。彼女はそこにいた。

 綺麗な顔に少し黒く化粧をしていて、鮮烈なまでの真紅のローブを着ている幼馴染(みーちゃん)


 彼女にだけは、今の俺の無様な姿は見てほしくなかった。


「……大丈夫?」


 なのに、何でだ。なんでいつも俺は……彼女にかっこ悪い姿ばかり見せてしまうんだろうか。


「お、俺は……」


「……とりあえず、もう盗賊団は皆死んだから」


 そう言って、こちらへと近づこうとするみーちゃん。一歩分の距離が縮まろうとしている。


 その様子を見つめながら―――俺は一歩、後ろに身を引いていた。

 縮まってない二人の距離。それを見て、みーちゃんが少し悲しそうな表情を見せた。


「あ……………れ?」


 何してんだ、俺。


「……………」


 みーちゃんは何もしゃべらない。唯々、悲しそうに目を伏せて、その場に留まっている。


「ご、ごめん!」


 みーちゃんを悲しませてしまった。その事実に愕然となりつつ、今度はこっちから足を踏み出そうとする。


「―――――――っ! なん……でっ!?」


 結局、一歩分も距離は縮まらなかった。

 体がまるで金縛りにあったみたいにその場に縫い付けられていたから。

 訳が分からなかった。言うことを聞かない自分の体が無性にもどかしい。


「……もう、いいよ」


「え……?」


「……ユウ君は私とは違うから」


「な、何の事だよ!?」


「……私ね。もうたくさん人を殺したの。今日も二十人は殺した」


 そう言ってみーちゃんは自分の身に纏ってる真っ赤なローブをひらひらさせる。そのローブからは真っ赤な液体が垂れた。


「……元々、このローブは真っ白だったんだよ?」


 止めろ。

 止めてくれ。


「……もう、私はユウ君が知っていた私じゃない」


「そんなこと――」


「――私は六年前の私じゃないの。この世界で生きて()()が知っている私じゃなくなっちゃったんだよ」


 そう言って、みーちゃんは笑う。


「……変な話しちゃったね。私、少し洞窟で後始末してくるから」


「………………」


 もう、声を出すだけの気力も残ってない。

 俺の視線の先で、後ろを向いたみーちゃんの背中は遠ざかっていく。


 まだ近くに見える背中だけど、俺には途轍もなく遠くに見える。


「冷たっ」


 頬に冷たい刺激が奔った。

 空を見上げる。

 視界に広がったのは、今の自分の心と同じ色に染まったかのような灰色の空。


 そこから時折水の雫が落ちて来ていた。


「……あぁ」


 ――雨が降り始めた。













ものすごく後味の悪い終わり方でしたが……どうでしたでしょうか。

次回からはかなりマシになるとは思います。

ともかく、次回は今回ほど間があかないように頑張りたいと思います。

では、次回も読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ